戦いの心得【79】前
「Κ!」
声は突然、背後から聞こえてきた。
俺は振り返る。
そこに居たのは一匹の猫ーーデシデシだった。
デシデシは泣き怯えながら、全力で俺に駆け寄って来る。
「外が大変なことになってるデシ!」
……知ってる。
俺はそう答えるしかなかった。
デシデシが俺の傍に着くと同時、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を俺の服に埋めてぐりぐりと塗りつけてくる。
俺は言葉を続けた。
だから俺の服で顔を拭くのはやめてくれ。
「嫌デシ」
……。
デシデシがふと動きを止める。
そしてぽつりと呟く。
「あの盗賊は普通じゃないデシ。ーー分かっていたデシけど!
このままだとみんな死んじゃうデシ……」
俺はデシデシの頭を撫で、答える。
分かってる。でももう始まってしまったんだ。
「だから諦めないといけないデシか?」
……。
俺は少し間を置いてから答えた。
だからこそ見つけるんだ。俺なりに出来ることを。
涙を前足で拭い、デシデシが小首を傾げる。
「Κにも出来ること……デシか?」
うん。
「何もないデシ。むしろ外に出ないでほしいデシ。一歩出た瞬間に速攻で無駄死にしそうな気がしてならないデシ」
オイ。俺そこまで無能じゃないぞ。
「だったらボクと一緒に助けてほしいデシ」
……え? 助ける?
俺は疑問符を浮かべて首を傾げた。
ミリア以外にいったい誰を助けろと?
「Κに付きまとっている、あの山賊みたいな雰囲気の偉そうなおっさんデシ」
デ、デシデシ……。まだ言ってなかったんだが、実はその人ーー
「アイツ馬鹿デシ。こんな時に厨房で洗い物していたデシ。船が傾いた時に足を捻挫して動けないらしいデシよ」
……。アデルさんだってアデルさん並みに出来ることをしたんだ。
「とにかく一緒に来るデシ。手伝ってほしいデシよ」
わ、分かった……。
俺はデシデシに連れられて、船下厨房へと向かった。




