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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第3話 信用すべきは……ダチ以外に選択肢はないのか?


 ──朝の校舎内。


 ゆったりと吹き入る風が優しくカーテンを揺らす。

 そんな図書室の窓辺に座り、俺は外の景色を眺めながらため息を吐いた。


 なんで俺、こんな部活に入ったんだろうな。


 隣から朝倉が俺の肩に手を置く。


「右に同じだ」


 いや、お前が誘ったんだろうが。


「否定はしない。オレは彼女とイチャついても問題ない部活を選んだつもりだった」


 それがこのオカルト部だったってわけか。


 俺はちらりと周囲を見回す。

 部員は部長と俺らを合わせても、わずか五人──ん?


「そう、五人だ」


 六人だ。綾原が向こうで本を読んでいる。綾原もこの部員の一人だ。


「人数なんてどうでもいい。オカルト部と言えば幽霊探し。夏の夜は廃墟のホテルに肝試し行って、オレの彼女が『キャー幽霊よ。怖いわ、朝倉君。私のこと守って』なんてかわいく言い寄ってくることを期待したんだが」


 その彼女が夏を前にして、まさかのバレー部に鞍替えとはな。


「人生、そう上手くいかないもんだ」


 俺たちが抜ける時になって廃部問題とか、世の中どうかしている。


「部員が少ないのが最大の問題だった」


 いや、だからお前が誘ったんだよな? この部活。


「今更だが、オカルト部って幽霊関係なかったんだな」


 俺と朝倉は背後へと顔を向ける。

 背後では真っ黒い衣装を着こんだオカルト部の部長が、妙な図形円──彼等曰く、一筆書きの六星形という魔法陣の一種らしい――その上で二人の部員とともに呪文のような理解不能言語を繰り返し叫んでいる。


「……」


 ……。


「何かを間違ったよな、俺たち」


 ……あぁ、うん。そうだな。


「今日の部活も暇そうだな」


 あ。そういや朝、校門のところで野球部の部長から『午後から紅白試合するから来い』って誘われたんだが、午後から行ってみるか?


 朝倉の目がキラリと輝く。


「よし、今から行こうぜ」


 今からはマズイ。もうすぐ顧問が来る。見つかって確保されるのは目に見えている。午前中だけでもここで耐えるんだ。


「二人で抜けるから問題なのだ」


 誰か一人がここで犠牲になれ、と?


「お前だろ」


 いや、お前だろ。


 背後から陰気で不気味な笑い声が聞こえてくる。


 俺と朝倉はハッと背後を振り向いた。


 そこには陰気な顔したオカルト部顧問であり、オカルトマニアで有名な女教師──黒江がいた。


 朝倉の頬が引きつる。


「で、出たな。黒江」


 黒江はニタァと笑う。


「醜い。実に醜い友情だ。大好きだぞ、そういうの」


 それでも教師か?


 俺の問いかけに朝倉が便乗する。


「そうだ、そうだ。黒江の教員免許は偽造に決まっている」


 黒江の表情から笑みが消える。

 そして井戸から這い出てきた幽霊女のような顔で、スッと俺ら二人の間に顔を挟み、両方の顔を見ながらぼそぼそと言ってくる。


「安心しろ。黒いモノには興味があるが白いモノに興味はない。私が壊れるのはオカルト関連の話と、部の存続危機を救ったお前ら二人が退部を申し出てきた時だけだ。あとは全て正常だから問題ない。ちなみに私の教員免許は本物だ」


 そう言って黒江は会話を切り、俺たちから離れていった。


 朝倉がガタガタ震えながら俺にしがみつき、助けを求めてくる。


「どうする? このままだとオレ達、マジで黒江に呪い殺されるぞ」


 だから最初から素直に野球部にしとけって言っただろ、俺。


「絶対いやだ。朝練とかマジだるいし、帰りが遅くなったら彼女とイチャラブできねぇじゃん」


 それ全部お前の都合じゃねぇか。


 ため息を吐いて、俺は朝倉を引き剥がした。

 黒江の顔が普通の女教師としての素に戻り、そしてくるりと背を向けると手を叩いて他の部員に声をかける。


「はい、召喚練習はそこまで。全員ここに集合」


 部長と以下二名が黒江のもと──正確には俺たちの居る場所へと素直に集まってきた。

 黒江が綾原に声をかける。


「綾原さん。いつまでも本を読んでないで、集合と言われたら集合しなさい。それが嫌ならいつでも図書部へ編入してもらってもいいのよ」


 朝倉が反論する。


「だったら俺らも野球部に編入させろ!」


 そうだ、そ──


 黒江にギロリと睨まれ、俺たちは石像のように固まり沈黙した。


「はい。じゃぁみんなそろったところで、この夏、最後の課題を発表するわね」


 部長が元気よく挙手をする。

 ビン底眼鏡を上下しながら、


「先生。僕たちまだ一度も課題なんてもらったことありません」


 黒江は部長に指を突きつけて言ってくる。


「そう、問題はそこよ。今までこの部はまともに活動なんてしたことなかったわ。だからこそ、この夏──もう終盤に差し掛かっているけど、まともに活動してみようと思うの」


 活動?


 尋ねる俺に黒江が頷く。


「そう。この部に相応しい実績を残すのよ。校長が驚くほどの大きな実績をね。今までの地味系は捨てて新しい風を取り入れ、そして誰もやらなかったような大きなことをするの」


 俺と朝倉は互いに目を合わせて呟く。


「校長も驚くほどの大きなオカルト系活動っつったら、なぁ?」


 警察が出動するほどの大事件しか思い浮かばねぇな。


「古風ね、あんた達。頭が固すぎるわ。オカルト=暗い+地味。もうそんな時代は終わったのよ。これからはオカルト=都市伝説の時代よ」


 俺の脳裏に嫌な予感が過ぎった。

 そんな俺の予感を的中させるかのごとく、黒江の口からハッキリと課題を告げられる。


「私たちが取り組むべき課題はこれよ。

 『小さいおっちゃん都市伝説』。Kを探し出して百万円の部費ゲットせよ」


 絶対真の目的は後半だ。

 その場に居る全員が白んだ目で黒江を見たのは言うまでもない。

 黒江が慌てて両手を振って言い訳する。


「いや、あの、だからね、違うから。勘違いしないで。ちゃんと先生の話を最後まで聞いて。

 これはけしてあなた達を利用しているわけじゃないの。本来の目的は部の資金調達だから」


 金じゃねぇーかよ。


 俺のツッコミに黒江は軽く咳払いして気を取り直す。


「お金のことはともかく。この都市伝説に関するネタを番組に提供することで、学校にあのトップアイドル杉下ゆいなが来てくれるかもしれないってことよ」


 おぉ。と、部長たちが興奮の声を漏らす。

 黒江は言葉を続ける。


「これは学校にとっても全国にアピールできる良いきっかけになるってわけ。校長も喜んでまさに一石二鳥。わかった?」


 そして黒江に百万円、か。


 呟く俺に、黒江は指を突きつけて言う。


「そこ、黙ってなさい」


 そのまま懐から二枚のDVDを取り出し、言葉を続ける。


「そういうわけで、今までの放送を全部これに録画編集しておいたから、あとで資料室でそれを見て、そして午後から番組に寄せられた情報を基にネタを探しに行くわよ」


「午後から!?」


 午後から!?


 俺と朝倉の声が見事に重なった。

 黒江の顔が般若に変わる。そのままスッと俺たちの前へと歩み寄り、ドスのきいた声で脅してくる。


「わかったな? 二人とも」


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