やっぱり何かが変だ【76】後
食事を済ませて。
俺はデシデシと一緒に寝床部屋へと戻ってきた。
相棒が来なかったから迎えに来たのだ。
放置してても勝手に俺のところまで来てくれるだろうと思っていたが、食事が終わっても相棒は俺のところには来てくれなかった。
仕方なしに、俺は部屋のあちこち、ベッドの下隅々までを床を這い進んで探し回った。
デシデシが苛立たしく言ってくる。
「Κ、まだデシか? もうみんな甲板に行ってるんデシよ?」
分かってる。あともう少し待ってくれ。すぐ見つかると思ったんだ。
「さっきの場所に居ないんデシか? そこのベッドの下に居たじゃないデシか」
居ないから探してるんだ。
「どこか近くに居るはずデシよ。Κは探すの下手デシね~」
近くに居たら俺もすぐに見つけてる。どこにも居ないんだよ。ーーおーい、相棒。どこ行った?
「呼べば出て来るんデシか?」
知らね。いつもは呼ばなくても向こうから頭の上に乗ってきたから。
「嫌われたんデシか?」
うーん……。どうだろう? 分かんね。
「まさか虐めたデシか?」
俺は顔を上げて半眼で言い返す。
なんでだよ。虐めてねーよ。
「じゃぁなんで出て来ないんデシか?」
知らねぇよ、俺も。なんで来ないのか分からないんだ。
「獣使いが獣無しとか笑えない冗談デシ」
笑ってくれ。俺にも原因が分からないんだ。
「モップも居ないデシ」
モップは厨房で床磨きに使われていた。でもなぜかモップも俺のとこには来なかった。
「どうでもいいから早く見つけるデシ」
分かったよ。
そう投げやりに言って、俺は相棒探しを再開した。
身を屈めて床を這い、ひたすらにベッド下を探し続ける。
「……まだデシか?」
まだ。
「早くするデシ。みんな待ってるデシ」
分かってる。
「……」
……。
見かねたデシデシがお手上げして俺の傍に来る。
「仕方ないからボクも一緒に探してあげるデシ」
そうしてくれ。俺一人じゃ探しきれねぇから。
「お礼は昼食のパン二つでいいデシよ」
無理。俺の昼食がチーズだけになる。
「そのくらいの対価は払ってほしいデシ」
鬼か、お前は。
「ーーほら、見つけたデシよ。ここに隠れていたデシ」
どこ?
片前足の示す先を見てみれば。
デシデシの居るすぐ傍のベッド下、その奥に、相棒のスライムは隠れていた。
相棒!
灯台もと暗し。
意外とすぐ近くに居た相棒。
俺は喜び、その場所に片手の平を差し伸べた。
しかし……。
相棒は俺を見てぷるぷると小刻みに震えて奥に隠れて怯えており、全然俺に近付こうともしなかった。
その様子を見ていたデシデシが、ジト目で俺を見てくる。
「これは完全に虐めたデシね」
だから虐めてねぇッて!
ふと。
俺が手を引っ込めた隙に、相棒はデシデシの傍へと跳ね寄り、その背に隠れた。
デシデシが呆れたように俺に言う。
「最低デシね」
だから違うって。何かの誤解だよ。
「怖がっているデシよ?」
な、なんでだよ相棒。俺が何したって言うんだ?
俺はかなりショックだった。
もちろん俺は何もしていない。
心当たりだって無いし、昨夜だってーー散歩まではあんなに俺に懐いていたのに、今ではすっかり俺に怯えて隠れている。
いったい何があった?
何かしてしまったのか? 俺は。
怯えられる理由が俺には全く分からなかった。
そういえば。
以前にも一度、俺は相棒に怯えられたことがあった。
【ーーお前が怖い存在じゃないと安心したのは確かなようだ】
あの時ギルドのカウンターで、相棒が怖がっていた時に俺はおっちゃんにそう説明されたのを思い出す。
俺が怖い……?
原因はよく分からない。
でも今度は以前よりも更に怯え、離れている。
もしかしたらーー
俺はふと気付いて胸の内に思う。
もしかしたら相棒は、記憶が抜け落ちた時の俺のことを何か知っているのかもしれない。
ぱぁぽーぉ、ぱぁぽーぉ




