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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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命は金に換えられない【69】


 一旦、白騎士の艦船に移動し。

 艦船とガレオン船とを簡易な木造の渡り橋で繋いだ。


 俺は一時的にギルドの仲間たちと話すことを白騎士に許可され、ガレオン船へと移動した。

 白騎士たちの鋭い監視の目が光る。

 そんな中を、俺はモップや水色スライム、そしてデシデシを連れ、ゼルギアとともにガレオン船の甲板に辿り着いた。

 ふと。

 ゼルギアが何を思ってか方向転換し、白騎士の艦船へと戻っていく。

 気付いたデシデシが小首を傾げてゼルギアに尋ねる。


「どこ行くデシか? 団長」


 ゼルギアは当然とばかりに艦船を指差す。


「あ? 決まってるだろ。見ろ、あの白騎士たちの目を。Κを拉致ると完全に疑われている。

 まぁついでだ。Κがみんなと話している間に俺は奴等の代表と話をつけてくる」


「待つデシ、団長」


「ん?」


 とてとて、と。

 デシデシがゼルギアのもとへと駆け寄る。

 そしてきゅっとゼルギアの足服を掴んで、真顔で告げる。


「砲弾五十六発、アッケル・チェーン三網、ドバネク三十一基、ガルダス四十七馬力、デグス二十八光計、ソーイル六十LL.とモス・リージェンシー十四ケージ」


「……」


 ゼルギアが目を点にする。


「デシデシ。もしかしてお前、救助に使った分を全部数えていたのか?」


「当たり前デシ。ボク達は討伐でここまで来ているんデシよ? たとえ通りすがりに善意で人命救助をしたとしても依頼人は納得してくれないデシ。請求しても認めてもらえないデシ。その分損するデシ。こんなの上層部に報告できないデシ」


「じゃぁ報告しなければいい」


「報告しなかったらギルドの自腹になるんデシよ。こんな高額費用はギルドで払えないデシ。白騎士に請求してくるデシ」


「分かってる。その為に代表と話してくるんだ」


「本当に分かってるんデシか? ギルドは嘗められたら終わりデシ。使った分はちゃんともらってくるデシよ」


「デシデシ……。お前って奴は、ほんっと心無い猫だよな」


「どう思われようと別にいいデシ。相手は貴族を乗せた船デシ。重増し請求して白騎士から大金ぶんどればいいデシ。アイツ等は金持ってるデシ。そのくらいしていいデシ」


「鬼畜だな、お前……」


「なんとでも言えばいいデシ。行って交渉でがっぽり稼いでくるデシよ」


「わかったよ。ーーったく」


 ぶつぶつと面倒臭そうに呟いて頭を掻き、ゼルギアはポケットから煙草を取り出して口にくわえた。

 そのまま火をつけずに渡り橋を歩いて艦船へと移動していく。

 懐かしいやり取りに、俺は思わず口元を綻ばせて笑った。

 デシデシがぎろりと睨んでくる。


「何笑ってるんデシか、Κ」


 別に……。


「明らかに笑っているデシよ」


 笑ってない。笑ってないって、ほんと。


 言いながらも懐かしくて俺は噴き出して笑った。

 ギルドの仲間たちが俺の周りに集まってくる。

 懐かしそうに肩を組んできて、


「な? デシデシは相変わらずだろ?」


 ほんと。たしかに。


「もうこのままこっちの船に乗ったらどうだ? Κ」

「そうしろよ、Κ。きっと団長が白騎士と話をつけてくれるはずだ」

「みんな本当にお前のこと心配してたんだぞ。急に黙って居なくなりやがって」

「帰って来いよ、Κ。俺たちと一緒にギルドで仕事しようぜ」

「ギルドに帰って来い、Κ」

「みんなお前が帰ってくるのを待ってたんだ」

「俺たちと仕事しよう」


 ……。


 最初に会った時と同じ、変わらずに俺を心から歓迎してくれるみんなの優しさが嬉しかった。

 しかし。

 俺は顔を俯けて気持ちを沈ませる。

 みんなに迷惑をかけたくない。

 騒動に巻き込みたくはなかった。


 ふと。

 俺の隣でさりげなくアデルさんが輪に入って、俺の肩にポンと手を置いてくる。


「ケイよ。仲間の傍へ帰るがよい」


 ーーって、アデルさん。いつの間にこっちに来てたんですか?


 アデルさんが寂しげに眉根を落として言ってくる。


「どうやらお前さんには帰るべき場所がちゃんと在ったようだな」


 アデルさん……。


 今まで色々と世話になったし、心配してくれたり、助けてくれたりもしてくれた。

 アデルさんとの別れに俺もしんみりした気分になる。


 ーーって、いや、あの、アデルさん。俺まだここで別れるかどうか決まってないんですけど。


「良い。我輩が許そう」


 絶対無理だと思います。


 ふと。

 デシデシが俺の傍に来て片足の服を掴み、くいくいと引いてくる。アデルさんを指差して、


「ところでΚ、こいつ誰デシか?」


 デシデシ!


 俺は慌ててデシデシの口を塞いだ。

 知らないとはいえ、アデルさんは王族。それを“こいつ”呼ばわりしては首を飛ばされかねない。

 アデルさんは気にした様子なく豪快にガハガハと笑う。


「我輩か? 我輩は“旅の勇者”だ」


 デシデシが俺の手を払い、小首を傾げて問う。


「“旅の勇者”デシか? 勇者がなんでΚと一緒に居るんデシか? どういう繋がりなんデシか?」


 すると、アデルさんが俺の頭にポンと手を置いて。


「ケイは我輩の弟子なのだ」


 一方的ですけど。


 俺は内心でそう付け加えた。

 デシデシが興奮に尻尾をぶんぶんと激しく振ってくる。

 目を大きく輝かせて、


「本当デシか! Κは勇者になるんデシか! 今までずっと修行の旅に出てたんデシか!」


 デシデシの言葉にギルドのみんなが「おぉ!」と尊敬の声を漏らす。


 って、いや待って。俺、別に勇者になるつもりなんて更々ーー


「Κ」


 突然かかるゼルギアの声。

 俺は会話を止めてゼルギアの居る艦船へと振り向いた。

 艦船の手すりから、ゼルギアが俺に言う。


「和気あいあいに話しているとこ悪いが、白騎士たちが船を出すそうだ。お前はこっちの船に戻れ」


「なんでデシか、団長! Κはボク達の仲間デシよ! 白騎士に返したくないデシ!」


 くわえ煙草の煙にむせながら、ゼルギアが口から煙草を退けて手に持つ。

 苦しそうに咳こみつつ、涙目で説明する。


「とにかくΚはダメだ。白騎士の許可がとれなかった。一緒に連れては行けない。

 討伐も一旦中止だ。計画を立て直す。【オリロアン】へ戻ろう」


「だったらΚをこっちの船で運んでも変わらないデシ! 白騎士も【オリロアン】へ行くつもりだったデシ!」


「そうだ団長」

「そうしようぜ団長」

「団長」


 話にならないとばかりにゼルギアは手を払って拒否し、煙草の煙に尚も咳き込みながら俺に声を掛けてくる。


「早く移動しろ、Κ。みんなに迷惑がかかる」


 デシデシが身を乗り出すようにして言い返す。


「なんでデシか、団長! Κが何したって言うんデシか! 理由を言うデシ!」


「理由なんて知らん。何かの重要参考人らしい。だから一緒には連れて行けない。それだけだ。

 ーー何をしている、Κ。早く移動しろ」


「団長!」

「団長!」

「団長!」


 もういいよ、みんな。デシデシ。……ありがとう。


 俺は呟く。

 デシデシが耳と尻尾を萎えさせ、寂しそうに俺を見てくる。

 ギルドのみんなが同情の目で俺を見てくる。

 俺はみんなを心配させまいと明るく笑ってみせた。


 みんなに迷惑かけたくないんだ。俺、もう行くよ。短い時間だったけど、みんなに会えて良かった。


「Κ!」

「Κ!」

「駄目デシよ、Κ!」


 俺、戻ります。


 みんなに向けて頭を下げて。

 俺は踵を返して白騎士の艦船へと歩き出した。

 渡り橋に踏み込んだ時。

 俺は足を止めた。

 相棒(スライム)が、モップがーーそしてデシデシまでもが追いかけてきて俺にしがみついてくる。

 デシデシが涙に濡れた顔で俺に言う。


「なんでデシか? せっかく会えたのになんで行くデシか? 行ったら駄目デシ。重要参考人は白騎士に捕まったら情報を吐くまで拷問されるんデシよ? 分かってるんデシか?」


 ……。


 ゼルギアが苛立たしく声を投げてくる。


「早くしろ、Κ。白騎士が待ってるんだぞ」


 俺はゼルギアに向けて答えを返す。


 分かった。すぐ行くよ。


 デシデシを引き離して。

 相棒もモップも引き離してデシデシに預ける。


「Κ!」


 ……。


 デシデシの呼び声に背中を向けて、俺は渡り橋を歩き出した。


 渡り橋の真ん中で。

 俺は向こうから来たゼルギアと出会う。

 向こうの船では白騎士が俺を待っている。


「……」


 ……。


 無言でしばし俺とゼルギアは顔を見合わせた。

 ゼルギアは煙草を片手に、まだ咳を繰り返している。


 そして。

 ーー俺とゼルギアは渡り橋ですれ違った。

 互いにほくそ笑みを残して。

 その一瞬、隙をついて。

 ゼルギアが振り向き様に俺の片腕を掴んでくる。

 それが合図だった。

 俺はくるりと踵を返して方向転換し、ゼルギアとともにガレオン船へと駆け出した。

 ゼルギアが手持ちの煙草を砂海に投げ捨て、叫ぶ。


「船を出す! 出発だ!」


 気付いた白騎士が慌てて追いかけようとしてくる。

 だが。

 渡り橋を踏み出す手前で、突如として砂海から大きな魚の化け物が渡り橋に向けて口を開けて飛び出してきた。


 ーー間一髪!

 ゼルギアと俺は渡り橋から跳躍し、ガレオン船に受け身ながらに転がり込んだ。

 それと同時に渡り橋は大きな魚の化け物に食べられ破壊された。

 すぐさまゼルギアが魔法の呪文を唱える。

 ガレオン船に帆が張られ、激しい風が巻き起こる。

 その風を帆に受けて。

 ガレオン船は勢いよく走り出した。



 あっという間に白騎士の艦船を引き離した俺たちは、見えなくなるまで艦船を見つめていた。

 しだいに遠ざかっていく白騎士の艦船。

 おそらく貴族を乗せていたからだろう。

 速度を上げてくることなく、遠く離れて見えなくなっていった。

 見えなくなったところで。

 ガレオン船の速度も少しずつ落ちていく。


 ふと。

 俺とゼルギアは再び顔を見合わせると、ハイタッチして成功を喜び笑い合った。

 デシデシが不思議そうに小首を傾げてくる。


「もしかして……二人して演技していたデシか?」


 ゼルギアが笑って言う。


「悪ぃ、デシデシ。白騎士から金をぶんどり損ねちまった」



 

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