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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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ログアウトできない……?【##】

※ 番号は気にしないでそのままの掲載順でお読みください。


 ログアウトができない……?


 俺は愕然とした。


 なんだよ、それ。いったいなんで? どういうことだよ?


『それは俺の方が聞きたい。ログアウトさせようとするとコード・エラーが連発するんだが、お前、向こうの世界で何があった?』


 ……いや、本気で俺の身に何が起きたんだ?


『こっちにログインしてくる直前、お前は向こうの世界でいったい何をしていたんだ?』


 普通だよ。普通に寝ただけだ。だから何だよ? マジ怖いんだけど。


『……』


 いや、だから、マジそこで黙るなって。俺を脅して遊んでいるのか? 空気読めよ。ほんとはログアウト出来るんだろ?


『……』


 ……。


 青年白騎士ーーおっちゃんが、真顔で俺をジッと見据えてくる。


 なぁ、冗談だろ? おっちゃん。


『……まさかな』


 いや“まさか”ってなんだよ? 俺の身に何が起きたんだ? 教えてくれ。


『……』


 なんか言えよ。怖ぇーだろ。ハッキリ言ってくれよ。


 するとおっちゃんが、俺から視線を逸らし、安心させるように肩を叩いてきた。


『大丈夫だ。恐らく何らかの通信障害だろう。きっといつかはログアウト出来るはずだ』


 ちょっ、待てよ……。それ、もしかして俺……死んだってことなのか?


 おっちゃんが俺を見て人差し指を立ててくる。


『そこが(おかし)な話だ。お前が向こうの世界で死んだなら、この世界からも消えていないとおかしい。だがまだお前は消えていない。ーーだったらいったいなんなんだ?』


 “なんなんだ?”ってなんなんだ? 俺はいったいなんなんだ?


『聞き返してくるな。それが俺にもよく分からん』


 ……。


 どうやら本気なのか、おっちゃんは困ったように顔を渋めて頭を掻き、手振り交えて説明してくる。


取扱説明書(トリセツ)にもそこまで詳しく記載されていない。だから何とも言えん。恐らく何らかの通信トラブルだ。それしか言えない。

 ログアウトさせようにもエラーが連発してどうにもならん。ハッキングもウイルス仕込まれた痕跡もないからまだ安心だが、原因が分からん』


 俺が自主でログアウトすれば解決するのか?


『試す価値はあるが恐らく無駄だろう。相乗ログアウトも恐らく無理だ。時を待つしかない。

 ここはまた二手に分かれて行動しよう。その方がいい。俺とお前、どちらかが逃げ延びてさえいれば助かる方法はいくらでもあるんだからな』


 ……わかった。でもログアウトって、いつ出来るようになるんだ? まさか十年後とか言わないよな?


『さぁな。俺もそこまで断言は出来ん。ただ言える確かなことは、両方捕まった時点で永遠にログアウト出来なくなるってことだ』






 ※






 俺とおっちゃんは別々に分かれて行動することになった。

 ログアウト出来ないことがまだ俺の中で尾を引き摺っている。

 目覚めたら絶対病院の中であることに違いない。

 それよりも。

 今は捕まらないように殺されないように生きていくしかない。

 その為にはアデルさんと一緒に居るしかない。

 何も分からずに過ごすよりも、信頼できる人の傍に居よう。

 俺はそれが最善の方法だと考えた。

 だからこそ俺は今、アデルさんの居る展望デッキへと向かって駆け出していた。

 展望デッキから聞こえてくる慌ただしい騒ぎ声。

 きっと白騎士と盗賊たちで激しい攻防の戦いが起こっているんだろう。

 もしかしたら俺も展望デッキに着いた途端、盗賊たちとの戦闘に巻き込まれてしまうかもしれないけどーー


「おーっと、こんなところに。用済みの兵駒(ボーン)はっけーん」

「用済みの兵駒(ボーン)は用が済んだら白騎士の手に渡る前に殺さないといけないんだよ~ん」


 ーーって、早すぎだろ鉢合わせ!


 展望デッキまであと少しという距離。

 俺はその途中の通路でがっつり盗賊と鉢合わせてしまった。

 一人は長身の太った男、もう一人は短身でガリガリの男。

 その内太った方の盗賊が、俺の言葉を受けて困ったように首を傾げてもう一人に相談する。


「まだ早すぎだってよ、(あん)ちゃん。どうする?」


「どーするもこーするもいいんだよ、これで! オレ達は盗賊なんだぞ! なんで相手のタイミングに合わせて襲わないといけないんだ?」


「でも早すぎだって言われたよ? あんちゃん」


「真に受けてどーすんだ! 盗賊なんだぞ、オレ達は! いいんだよ、このスタイルで! ボーンを始末する為にオレ達はこの船の連中を襲い、どさくさ紛れに殺すんだ! 分かったか?」


「なーんだ。じゃぁおいら達のタイミングは間違ってなかったんだね。良かったね、あんちゃん。これで頭領にまた怒られずに済むね」


「どーでもいいだろ、そんなこと!」


 いや、あの……俺が出直すよ。


 言って俺はさりげなく彼らに背を向けた。


「ちょっと待てぇ、お前! 止まれよ、そこで止まれ!」


 ……。


 俺は足を止めて仕方なく彼らへと振り返る。

 上手く逃げられなかった。

 短身の細男が片手の武器を振り回して怒りあらわに叫んでくる。


「状況考えろよ! なんで出直せると思った? オレ達を馬鹿にしてんのか?」


 正直、逃げられ(イケ)ると思ったんだ。チャンスかなって。


「正直に答えてくるな!」


 叫んでそのまま二人の盗賊は武器を手に構えてくる。

 なんだろう、この雰囲気。

 すげー逃げられそうな気がした。

 兄と呼ばれていた短身細男の言葉は続く。


「いいか? オレ達は盗賊だぞ?」


 見れば分かる。


 俺はハッキリそう答えた。


「だったらもっと、こう、なんつーかビビれよ! オレ達はお前を殺しにきた盗賊なんだぞ! ここに遊びで来たわけじゃないんだぞ!」


「あんちゃん、お腹すいた。お菓子食べようよ」


「オレ達は遊びで来たわけじゃないんだぞ!!」


 ……。


 そんな同じ言葉を二度言われても。

 俺は反応に困った。

 低身ガリ男の兄と、その弟である長身デブ男ーー


「デブじゃないよ、これは筋肉だよフンガー!」


「いちいちアイツの言葉に反応するな、お前は!」


 俺はポンと手を打つ。

 つまり彼らはここに漫才をしに来た兄弟なんだとーー


「誰が兄弟漫才だ!」

「あんちゃん、反応……」


 すみません、あの、もう俺行っていいですか? 展望デッキに急がないといけないんで


 ぺこりと頭を下げて早々、俺は先を急いだ。


「ーーって嘗めてんのか、お前!」


 ……。


 俺は再び足を止めた。

 二人の盗賊が武器である短刀を振り上げて構えてくる。


「お前を始末するのはオレ達なんだ」

「そうだそうだ、あんちゃんを嘗めんな。めっちゃ強いんだぞフンガー!」


 ……。


 ようやくやる気を見せた盗賊二人に対し、俺も武器を構えようとしてーー


 あ、あれ?


 腰の鞘だか手だかに持っていたはずの剣はいつの間にかどこかに置き忘れたようで。

 丸腰である俺は、


 えーっと……。


 焦りながら後退り、降参を示すかのごとく両手を挙げて話し合いに持ち込もうとする。


 ちょっと待って。た、タイミングって大事だと思う。あの、俺さ、武器どこかに忘れてきたみたいで、えーっと、


 盗賊二人はもう俺の言葉に耳を貸してくれないようだ。余裕の笑みで武器を手に近付いてくる。


「盗賊に“待て”とか馬鹿か?」


 ーー隙をついて。

 弟盗賊が体格とは真逆の素早さで俺の背後をとってきた。

 俺はあっという間に弟盗賊から羽交い締めにされる。

 くくと(わら)いながら、兄盗賊が俺の心臓目掛けて短刀を構える。


「じゃぁな、用済みのボーン。黒王様の為に役立てたことを死して誇りな」


 ーー。


 殺られる!

 そう思った時だった。

 展望デッキの方角からそれは飛んできた。


呀龍光拳(クーゲル・アングリフ)!!」


 響くアデルさんの力強い声。

 それと同時にアデルさんの突き出した片拳から放たれた空気圧の弾丸が、兄盗賊を瞬間的に遠方に吹き飛ばしていった。

 呆然とその行方を見ていた弟盗賊に、アデルさんは駆けつけた勢いのまま蹴りを見舞って俺の腕を引き、守ってくれる。


 アデルさん……。


 俺を背に庇い、アデルさんは盗賊に向けて再び拳を構える。


「盗賊団アカギの一味よ、我が宝拳が本気で吼える前に去るが良い!」


 その恐ろしさを知っていてか、盗賊二人は床から起き上がるやすぐに、悲鳴を上げながらあっさりと船から飛び降りて砂海へと沈んでいった。

 アデルさんが俺の身を心配してくる。


「大丈夫であったか?」


 うん、大丈夫。ありがとう、アデルさん。


「無事で良かった。あの盗賊は普通とは違うからな」


 普通とは違う?


「武器などまるで役に立たぬ。不死身そのものーー魔物の化身なのだ。急所を斬ろうが刺そうが再生して襲いかかってくる」


 魔物だったのか? あの盗賊。でも、ここは外で思いっきり光浴びてたし、それに見た目も会話も普通に


「気をつけよ。それだけしか我輩の口からは話せぬ」


 それにさっきのアデルさんの攻撃、めちゃくちゃ盗賊に効いてたし


「ミリアが事前に、護身の為に我輩に聖水をくれていたのだ。それを拳にかけ攻撃技(アタック)を繰り出すことで充分なダメージを与えられる。殺すことまでとはいかぬが、しばらく痛みで動けぬであろう」


 じゃぁその聖水さえあればーー


「残念だが今ので聖水を使いきってしまった。あとは逃げるのみだ。どこかにミリアが居るなら話は別だが」


 ……それが。


 俺はアデルさんにミリアが盗賊たちに誘拐(さら)われてしまった経緯を話した。








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