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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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教えてくれ、おっちゃん……【65】


 振動は短かったものの。

 俺は揺れにふらつく足取りで、どうにか壁や物を支えに伝って青年白騎士の後を追いかけた。

 見失いたくなかった。

 俺はまだおっちゃんの本心を何も聞いていない。

 必死に追いかけたんだ。

 でも見失ってしまった。

 角を曲がった先の通路に人は無く、俺は足を止めるしかなかった。


 ……。


 俺はおっちゃんに見捨てられたんだ。

 この先この世界で一人っきり。

 どうやって生きていけばいいのか分からなくて絶望した。

 ログアウトのやり方なんて曖昧だ。

 コード・ネーム保持者とこの広い世界で早々出会えるわけじゃない。

 魔法の使い方なんて分からない。

 この先ずっと、こんな状態のまま俺はこの世界の人間として生きていかなければならないのか?


『こっちだ、馬鹿。早くしろ』


 ーーえ?


 急に物陰から腕を掴まれ、そのままぐいっと引っ張り込まれる。

 壁と物陰の隙間。

 青年白騎士は俺の口をすぐさま塞いで何かを待つ。

 すると。

 四、五人くらいだっただろうか。

 白騎士が通り過ぎていく。

 どうやら俺の後を追ってたらしい。

 青年白騎士が安堵の息を吐く。

 俺の口を塞いだままで頭の中に直接、おっちゃんが話しかけてくる。


『お前なぁ。なんで俺の後を追ってきたんだ?』


 いや、なんでって……一人になりたくなかったんだ。見捨てられた気がして。


『アデルとやらの傍に居ろ。お前が一緒だと何かと邪魔になるんだ。そのくらい察しろ』


 なぁ、おっちゃん。マジで俺を見捨てる気だったのか?


『見捨てる気があればこうして助けていない』


 ……。


 再び通路を二人ほどの白騎士が引き返していく。

 どうやらこの付近に居ると思われているようだ。


『ヤバいなぁ……。このままだと見つかっちまう』


 どうするんだ?


『どうしようもないさ。せめてお前さえログアウトできたらなんとかなるんだが、ログアウトを忘れてるんじゃなあ……』


 あ。そのことだが、おっちゃーー



「海底から何か来るぞ!」

「何だ、あの砂の盛り上がりは」

「船だ! 船首がーー盗賊船だ!」



 盗賊船?

『盗賊船だと?』


 展望デッキからの白騎士たちの声。

 俺とおっちゃんは同時に内心で呟き、顔を見合わせた。

 一際大勢の騒ぎ声も聞こえてくる。

 俺たちを捜していた白騎士たちも一斉に引き上げて展望デッキへと向かう。

 誰も居なくなったことを確認して。

 俺とおっちゃんは物陰から出てきた。

 おっちゃんが俺に言ってくる。


『よし、今のうちにどこか安全な場所に移動して隠れよう』


 安全な場所って……? 隠れる以外にないのか?


『ないな。ここは砂海の上。袋のネズミだ』


 なぁ、おっちゃん。


『ん? なんだ?』


 ミリアが盗賊に誘拐(さら)われたんだ。俺、それを助けようとして砂海にーー


『あー。それでお前、あの時砂海に死のダイビング決めこもうとしていたわけか。てっきりボケの延長かと思ったぞ』


 頼む、おっちゃん。俺と一緒にミリアの救出を手伝ってくれ。


『手伝うって……何をどうやってだ?』


 そう言って青年白騎士がお手上げして肩を竦めてくる。

 俺は青年白騎士の腕を掴んで引っ張り展望デッキへ誘導しようとした。


『待て待て待て待て』


 なんで? 次にいつ助けられるか分からないんだぞ?


『確かにその気持ちは分かるが、展望デッキには白騎士たちが居る。捕まりたいのか? お前』


 盗賊と戦闘になればみんなそれどころじゃなくなる。


『それもそうだが、盗賊だって目的があって襲ってるんだ。貴族どもの金品が目的として、それが無理だと分かってあっさり逃げていったらどうする? ミリアとやらの救出は後にしろ。まずは白騎士から逃げ切ることを優先しろ』


 でも、どうやって? 白騎士たちの護衛艦がどこかに行くまで隠れろっていうのか? 護衛艦が去ったら俺たちはこの船で孤独死することにーー


『……』


 そうか、この手がある。

 なぁおっちゃん、ログアウトだ。俺が一旦この世界からログアウトすればいいんだろ?


『ちょっと待て、お前。今“ログアウト”って……記憶が戻ったのか? 違う意味で』


 違う意味でってなんだよ。理屈はよく分からないけどとにかく記憶が戻ったんだ。ちょっと所々怪しい部分もあるけど。

 とにかく話を戻すけど、俺がログアウトすればその間におっちゃんはミリアを救出できるし、色んな奴にも変身できて自由に動き回れるんだろ?


『別に変身してるわけじゃないんだが』


 どうなんだよ? やってくれるのか?


 俺に圧されるようにして青年白騎士がたじたじに困り顔で了承してくる。


『……それはまぁ、構わんが』


 よし、それで行こう。じゃぁおっちゃんが俺を強制ログアウトしてくれ。俺がやると……その、色々精神的なものもあるし、時間もかかるから。


『そうか。お前の記憶、今頃戻ったのか』


 ……。


 なぜだろう。

 青年白騎士が何か気まずそうに視線を逸らしてくる。

 俺は尋ねた。


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 なんとなく俺もそれなりの覚悟はしていたんだが、本当のことを教えてくれ。


『本当のこと? 何のことだ?』


 ……。


 俺は泣きそうな顔で問いかける。


 ……俺ここに来て、どのくらいの時間が経った?


 青年白騎士が思いっきり俺から視線を外してぽつりと答えてくる。


『それは……知らない方がいい』



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