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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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黒王の狙い【56】


 青年白騎士が俺の顔を見て唖然とする。

 それに合わせるかのように、頭の中でおっちゃんの唖然とした声が聞こえてきた。


( ; ゜Д゜)『……お前、今なんと言った?』


 え?


『ログアウトだぞ、ログアウト。俺の言っていることが分かるか? 今すぐログアウトしろと言っているんだ』


 いや、だからその“ろぐあうと”って何?


『まさかそんな……!』


 ん? 何? 俺、何か変なこと言ってるか?


 切羽詰まったような顔で青年白騎士が俺の肩をがしっと掴んでくる。

 異常を確かめようと俺の上から下までを流し見て、


『まさか向こうの世界のお前が死んだんじゃねぇだろうな』


 何言ってんだ? おっちゃん。


 おっちゃんが急に訳の分からないことを呟いてくる。

 次いで俺の肩を激しく揺さぶりかけてきて、


 な、なんだよ、痛いよ。


『だったら俺の名が言えるか? 俺のことが分かるのか? 俺が誰だか言ってみろ』


 はぁ? 知らねーし。おっちゃんはおっちゃんだろ?


『クソ、なんてことだ!』


 ……。


 そう言われても。

 何かに苛立つように、青年白騎士が再び俺を背に庇う。


『中途半端にボケやがって。異世界人でも原住民でもない、出るか出ないかハッキリしない(フン)詰まりじゃねーか、これじゃぁ!』


 なぁ、おっちゃん。俺をクソで例えるのは止めてくれ。地味に傷つく。


『戦力にも隠し(ログアウト)にもならねぇ。完全に邪魔なお荷物だ。思わず砂海にぶん投げて捨てたくなる』


 言って、唾を吐き捨ててくる。

 俺の頬が怒りに引きつった。


 マジで言いたい放題だな、おっちゃん。それが本音かよ。はっきり言って俺、そこまで罵られるほどもお荷物じゃねーから。俺だって(たぶん)戦える。


 そう言って俺は青年白騎士の前に割り込むと、ファイティング・ポーズを構えた。

 すぐさま俺の襟首を掴んで引っ張り、後ろに退かせる。


『いいからお前は何もするな』


 何もするなってなんだよ。おっちゃんに罵られるほど俺は弱くない。


 再び俺は青年白騎士の前に出た。

 しかしすぐさま、同じように襟首を掴まれ後ろに追いやられる。

 そしてそのまま今度は俺の方に直に振り向いてきて、肩にポンと手を置いてくる。

 にこやかな笑顔で、


『お前にクトゥルクを使われると後々が面倒なことになるからだ。いいからここに居ろ。大人しく』


 ……。

 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 “くとぅるく”って何?


 俺は本気でおっちゃんに聞き返した。

 みしっと。

 俺の肩を掴む手に力が入った。


 痛い……。


 怒りというか、なんというか。

 顔は笑っているのに心が笑っていないおっちゃんがものすごく怖かった。

 俺の胸倉に掴み変えて、傍に引っ張り寄せて凄んでくる。

 射殺すとばかりに。


『この状況でふざけてんのか?』


 ……いや、割りとマジで。


『本気でぶっ飛ばすぞ』


 そう言われても困る。


『クトゥルクを知らないだと? お前、学習能力をどこで捨ててきた?』


 いや、学習能力関係ねーだろ。ほんとに分からないんだよ。聞いたことないっていうか、記憶にないというか。いや……あの、だからその、な、なんか……ごめん。


 おっちゃんのご立腹がマジで怖くて、俺は両手を軽く挙げて大人しく降参の意を示した。

 ふと。

 青年白騎士の目が俺の右手首へと向く。

 気付いて俺は慌てて両手をサッと後ろに隠した。

 それを見た青年白騎士が表情を変えてくる。

 全てを察したかのように鼻で笑って、


『そういうことだったのか。どーりでお前が可笑しな言葉を連発してくるわけだ』


 え?


 訳が分からず、俺は呆然と目を瞬かせた。

 解放され突き飛ばされる。

 そのまま俺を背後に庇い、おっちゃんが独り言を呟いてくる。


『黒王め。何も知らずにコイツを兵駒(ボーン)にしようとしていたのか。そう簡単にコイツを盗られてたまるかよ。こっちからチェック・メイトを仕掛けて追い詰めてやる』


 ……いや、何言ってんだ? おっちゃん。独りでぶつぶつ言われると怖ぇーよ。


『いいか坊主、覚えとけ』


 え、何? 話しかけていたのかよ。全然聞いてなかった。


『キングっていうのはな、敵に盗られたら騎士(ナイト)に切り替わる。そして敵のキングを内から斬り込むんだ』


 なんかそれ違くね? 何のゲームのルールだよ?


『利用されたら利用し返すまでだ。これ以上シヴィラの予言通りにはさせねぇ』


 シヴィラって誰? 予言の神様か何かか?


『お前がクトゥルクを忘れているなら好都合だ。俺に協力しろ。【オリロアン】での白騎士との対局(せんそう)をなんとしてでも食い止める。たとえどんな一手を打ってこようとな』


 悪ぃ、おっちゃん。何言ってるのかさっぱり分かんねぇ。


 俺は爽やかな笑顔で謝った。

 ガシッと。

 青年白騎士が俺の胸倉を鷲掴んでくる。


『ーーと、その前にだ』


 え?


 俺を無理やり傍に引き寄せると、首に腕を回して絞め上げてきた。

 そして何を考えてか手持ちの剣刃を俺の喉元に当てて人質にしてくる。


 ちょ、ちょっと待て、おっちゃん。気でも狂ったか? 何かが違うだろ?


 青年白騎士が壊れたようにクックッと笑ってくる。


『まずはこの状況から逃げ出すのが先だ』


 マジかよ、おっちゃん! 俺を殺す気か!?


 すると一人の白騎士が物陰から姿を現した。


「異世界人を(ぎせい)に逃げるつもりか? 無駄なことを」


 告げて、白騎士は俺に向けて剣を構えてくる。


「無傷で捕らえろとは言われていない。異世界人ごと貫いてやる。致命傷は避けてな」


 威勢の良い掛け声とともに。

 白騎士が俺たちに突っ込んできた。


 ーーその時だった!


 船体が大きく横に傾く。

 同時に室内の黒い金属製の壁が、まるで巨人にでも殴られたかのように等間隔にへこんでいった。


『まずい、これはッーー!』


 おっちゃんが何かに気付いて俺を一旦離し、すぐさま片腕を掴んで連れ、そこから猛ダッシュで逃げ出した。

 次々と雪崩れ落ちる積載物。

 箱が崩れて中身が散乱し、瓦礫と化す。

 へこんだ壁に押し潰されるようにして、連結に並べられていた複数の檻が物凄い音を立てて将棋倒しとなり崩れる。

 障害物に阻まれて行く道。

 それを間一髪に何とか避けて隙間の空間に逃げ込む。


 船が元の体勢に戻っていく。

 ぐちゃぐちゃになってしまった貨物室内。

 出入り口ドアを塞がれなかったのは幸いだった。

 隠れていた他の白騎士たちも間一髪で俺たちの元へ避難してきた。

 船が正位置に戻り、しばらくして物音が止む。


 安心も束の間。

 ーーハッと。

 俺は隣に居た白騎士と目が合った。

 すぐさま白騎士が俺の腕を掴んでくる。

 それに気付いた青年白騎士ーーおっちゃんが剣を向けて阻止する。

 白騎士が俺の腕を掴んだまま動きを止めた。

 連なるように。

 他の白騎士たちが一斉におっちゃんに剣を向けて動きを止めた。

 一人の白騎士がおっちゃんに言う。


「無駄な足掻きだ。剣を下ろせ。お前に勝ち目はない。異世界人ともどもお前を連行する」


 おっちゃん……。


 俺は不安におっちゃんへと目を向けた。

 しかし。

 おっちゃんがフッと鼻で笑う。


『この状況でよくそんなことが言えたもんだな。周りを見ろ。闇はまだーー終わっていない』


 その言葉通り。

 船が微弱の振動を始める。

 まるで床の奥底から何がが沸き上がってくるかのように。


 辺りの空気が一変して張り詰める。

 明かりが不安を煽るように激しく点滅を繰り返し、魔物の襲来を伝えてくる。

 深く、沈むような重圧感。

 禍々しい無数の魔物の気配が影に広がる。

 生き残ったペットたちが本能的に危険を察し、檻から飛び出して狂ったように暴れ回る。

 白騎士達が警戒気味に剣を構えて辺りを見回す。


『どうやらこの船は砂海嵐(デッド・ストーム)に巻き込まれたようだな』


 剣を掴み、俺の腕を無理やり引っ張ってその場に立たせ、おっちゃんが白騎士達に向けて言葉を続ける。


『結界外の砂海を航海したことあるか? 砂海嵐に視界を奪われ方位を狂わされたんだろう。

 俺たちを怪しむ前に、風向きが変わったことすら気付かない船長や航海士を疑うべきだったな』


 おっちゃんは顎先で俺を示して、


『お前らは黒王が仕掛けてきた(トリッカー)にまんまと踊らされていたんだ』



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