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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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隠し事は誰にでもある【49】


「待ってください。話があります。私と一緒に来てください」


 え……?


 白騎士たちからの事情聴取を終えた俺は、ようやく解放されて部屋から出てきた。

 部屋を出た途端、ドア前に待ち伏せていたミリアに腕を掴まれ引き止められる。


 話って、何?


「いいから私と一緒に来てください」


 来てって、いったいどこに連れてく気だよ?


「いいから来てください」


 言って、ミリアは俺の腕を引っ張り、ぐいぐいと船内の客室の方へと連れて行こうとする。

 俺は足を止めた。


 ちょっ、待てよ。俺、これからすぐ持ち場に戻らないと上司に怒られーー


「そのことはもういいんです。アデル様がケイを一人に出来ないと、支配人と白騎士に掛け合ってくださいました。あなたはもうここで働く必要はありません。アデル様があなたの部屋を用意してくださいました。

 今からあなたは客として、この船に乗ってください」


 客としてって、俺ーー


 ミリアが振り向いてくる。

 不機嫌に俺を睨み付けて怒鳴り口調で言う。


「どうしてあなたはこんなに人を不安にさせ、心配させるのですか? 見てて物凄くイライラします。危険な目に遭うのもいいかげんにしてください。一人で生きていけない人なんですか?」


 その言葉を受け、俺はミリアから激しく腕を振り払った。

 言い返す。


 俺が“客にしてくれ”といつ頼んだ? 頼んでねーだろ。余計なことすんなよ。自分の身くらい自分で守るよ。そんな恩着せがましいことされなくても一人で生きていける。はっきり言って迷惑だ。


 憤慨に踵を返して。

 俺は持ち場へと足を向け、歩き出す。

 すぐさまミリアが追いかけてきて、俺の腕を掴んで引き止めてくる。

 先ほどより語気を強くして、


「恩着せがましいのはあなたの方じゃないんですか!」


 ……。


 俺は無言で足を止めた。

 ミリアが言葉を続けてくる。声を落とし、


「なぜ白騎士に私のことを言わなかったんですか? 盗賊に襲われたことも。

 どうして? なぜ言わなかったんですか? もし(カルロス)が遺体で見つかったら、あなたが犯人として疑われることになるんですよ?」


 ……。


 俺は背を向けたままで答える。


 言う必要なんてないだろ。証拠も無いのに、言って何の意味がある?


「あります! 私もあの現場に居たんです。少しの間だけでしたが、異変に気付いて助けに行ったのは事実です。そのことを……白騎士たちに話すべきです」


 で? カルロスの遺体が発見されたら、俺と一緒に拷問受けたいって言うのか?


「そ、それはーー……」


 ……。


 ミリアが語尾を濁してくる。

 俺はちらりとミリアを見やって。

 不安そうに顔を伏せるミリアに対し、わざと意地悪っぽく言った。


 あーぁ、さっきの白騎士から受けた尋問攻めは酷いもんだったなぁ。あれは尋問というより拷問だったな~。椅子に縛り付けられちゃってさー、水ぶっかけながら集団で暴行して吐かされるんだよ。それを受けたいなんてどうかしてる。


「水はこの国では貴重な飲み物です。無傷で出てきておいて大げさな嘘で私を脅してこないでください」


 ……。


 溜め息を吐いて。

 俺はミリアに振り向き、言葉を続ける。


 今のはたしかに嘘だけど、でもカルロスが遺体で見つかったら、きっとただじゃ済まないだろうし、俺は白騎士に殺されると思う。ミリアには何の疑いも掛けられてないし、俺と一緒に巻き込まれる必要はない。


「そこが恩着せがましいと言ってるんです。なぜ私を庇うんですか?」


 別に。ミリアを庇っているわけじゃない。


「じゃぁどうしてーー?」


 ……。


 俺は真剣にミリアと向き合い、目を合わせた。

 ミリアが顔を背けてくる。

 動揺ながらに声を詰まらせ、


「な、なんですか? べ別に、私は……」


 ……。


 俺は自身の胸服の中に隠している物を握り締めた後、片手でポンとミリアの肩に手を置いた。

 内心で言葉を続ける。


 ミリアを巻き込むわけにはいかない。だって元凶となる角笛を持っていたのは俺だし、それを吹き呼び寄せたのはアイツ(カルロス)だったから。


 俺は口に出してミリアに告げる。


 ーーだから気にするな。





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