隠し事は誰にでもある【49】
「待ってください。話があります。私と一緒に来てください」
え……?
白騎士たちからの事情聴取を終えた俺は、ようやく解放されて部屋から出てきた。
部屋を出た途端、ドア前に待ち伏せていたミリアに腕を掴まれ引き止められる。
話って、何?
「いいから私と一緒に来てください」
来てって、いったいどこに連れてく気だよ?
「いいから来てください」
言って、ミリアは俺の腕を引っ張り、ぐいぐいと船内の客室の方へと連れて行こうとする。
俺は足を止めた。
ちょっ、待てよ。俺、これからすぐ持ち場に戻らないと上司に怒られーー
「そのことはもういいんです。アデル様がケイを一人に出来ないと、支配人と白騎士に掛け合ってくださいました。あなたはもうここで働く必要はありません。アデル様があなたの部屋を用意してくださいました。
今からあなたは客として、この船に乗ってください」
客としてって、俺ーー
ミリアが振り向いてくる。
不機嫌に俺を睨み付けて怒鳴り口調で言う。
「どうしてあなたはこんなに人を不安にさせ、心配させるのですか? 見てて物凄くイライラします。危険な目に遭うのもいいかげんにしてください。一人で生きていけない人なんですか?」
その言葉を受け、俺はミリアから激しく腕を振り払った。
言い返す。
俺が“客にしてくれ”といつ頼んだ? 頼んでねーだろ。余計なことすんなよ。自分の身くらい自分で守るよ。そんな恩着せがましいことされなくても一人で生きていける。はっきり言って迷惑だ。
憤慨に踵を返して。
俺は持ち場へと足を向け、歩き出す。
すぐさまミリアが追いかけてきて、俺の腕を掴んで引き止めてくる。
先ほどより語気を強くして、
「恩着せがましいのはあなたの方じゃないんですか!」
……。
俺は無言で足を止めた。
ミリアが言葉を続けてくる。声を落とし、
「なぜ白騎士に私のことを言わなかったんですか? 盗賊に襲われたことも。
どうして? なぜ言わなかったんですか? もし彼が遺体で見つかったら、あなたが犯人として疑われることになるんですよ?」
……。
俺は背を向けたままで答える。
言う必要なんてないだろ。証拠も無いのに、言って何の意味がある?
「あります! 私もあの現場に居たんです。少しの間だけでしたが、異変に気付いて助けに行ったのは事実です。そのことを……白騎士たちに話すべきです」
で? カルロスの遺体が発見されたら、俺と一緒に拷問受けたいって言うのか?
「そ、それはーー……」
……。
ミリアが語尾を濁してくる。
俺はちらりとミリアを見やって。
不安そうに顔を伏せるミリアに対し、わざと意地悪っぽく言った。
あーぁ、さっきの白騎士から受けた尋問攻めは酷いもんだったなぁ。あれは尋問というより拷問だったな~。椅子に縛り付けられちゃってさー、水ぶっかけながら集団で暴行して吐かされるんだよ。それを受けたいなんてどうかしてる。
「水はこの国では貴重な飲み物です。無傷で出てきておいて大げさな嘘で私を脅してこないでください」
……。
溜め息を吐いて。
俺はミリアに振り向き、言葉を続ける。
今のはたしかに嘘だけど、でもカルロスが遺体で見つかったら、きっとただじゃ済まないだろうし、俺は白騎士に殺されると思う。ミリアには何の疑いも掛けられてないし、俺と一緒に巻き込まれる必要はない。
「そこが恩着せがましいと言ってるんです。なぜ私を庇うんですか?」
別に。ミリアを庇っているわけじゃない。
「じゃぁどうしてーー?」
……。
俺は真剣にミリアと向き合い、目を合わせた。
ミリアが顔を背けてくる。
動揺ながらに声を詰まらせ、
「な、なんですか? べ別に、私は……」
……。
俺は自身の胸服の中に隠している物を握り締めた後、片手でポンとミリアの肩に手を置いた。
内心で言葉を続ける。
ミリアを巻き込むわけにはいかない。だって元凶となる角笛を持っていたのは俺だし、それを吹き呼び寄せたのはアイツ(カルロス)だったから。
俺は口に出してミリアに告げる。
ーーだから気にするな。




