◆ 暗示【44】
呪われた砂を手首に巻き、彼がその場を去った後ーー。
フィーリアは再び展望デッキに姿を現した。
その後に降り立つ一人の影。
フィーリアの護衛ーー強靭な体躯に黒の甲冑を着込んだ壮年剣士だった。
壮年剣士がフィーリアに尋ねる。
「妖眼の呪いをかけたのか?」
フィーリアは薄く笑う。
「いえ。ただの黒魔術よ。軽い暗示をかけてみたの。上手くいったわ」
壮年剣士が腕を組んで笑みを漏らす。
「あの異世界人は使えそうだな。これでアカギはこの船を狙い、襲撃してくる。
砂海はアカギのテリトリーだ。白騎士どもとて抵抗できずに砂海の藻屑と化そう」
しかし、フィーリアの表情から笑みが消える。どこか不安めいた様子で顔を伏せる。
「そこまで上手く事が運んでくれるといいのだけれど……」
壮年剣士は首を傾げてフィーリアに問いた。
「何か気になることでもあるのか?」
「……」
フィーリアは指先でそっと己の唇に触れた。
さきほど彼と唇が触れた場所を。
まるで死の宣告を予感させてくるような、そんな戦慄めいたものを感じた気がした。
それに彼の瞳を見つめた時ーー
「……あの異世界人、少し危険かもしれない。
早めに守護者が誰かを調べていた方が良さそうね」




