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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・上編】 砂塵の騎士団 【上】
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上手な嘘【18】


 ーー土曜日の朝。


 朝食を終えた俺は薬とコップを手に、洗い物をする母さんの隣へと歩み寄った。

 いつものように浄水器からコップに水を入れ、薬を口に放ってから水を飲む。

 何気ないいつもの日常。

 変わらない毎日。

 いつもの行動。

 その流れを保ったまま、俺はなるべく自然になるよう話を持っていく。


 なぁ母さん。


「ん? どうしたの?」


 今日さ、ダチんとこに泊まりに行きたいんだけど。


 洗い物をしながら、母さんが笑って言う。


「ダメに決まってるじゃない。夕方までにはちゃんと帰ってきなさいよ」


 実はさ、ダチが悩んでるらしくて、それで相談に乗ってやりたいんだ。


「泊まりは先輩たちの飲酒問題があって学校から禁止されてるはずでしょ。ダーメ」


 いや、そこをなんとか内緒で泊まりにーー


「ダメなものはダーメ。向こうの親は何て言っているの? お母さんが連絡してみるから」


 え、いや、待って。それは待って。


「なんで待つの? 誰の家に泊まりに行く予定だったの?」


 えっと、それは……。


 上手く嘘が言えず、俺は押され気味になって気まずく視線を逸らした。


「もう。泊まりなんてお母さん、絶対に反対ですからね。向こうの親も反対されているはずよ。諦めなさい」


 けどーー


「電話で話せばいいじゃない」


 そういう問題じゃないんだ。思春期だから聞かれたくない話なんだよ。


「聞かれたくない話ってどんな話? まさか女の子の体に興味持ってるんじゃないでしょうね?」


 いや、そうじゃなくてーー


「お母さん、そういうの絶対許しませんからね」


 だから違うって。


「友達の家に遊びに行くのは勝手だけど、夕方までにはちゃんと帰ってきなさい。それはどこの家でも常識よ。非常識な息子にはならないで」


 分かってるけど……。


 本当はこんなこと言いたくなかったけれど、仕方ない。最後の手段だ。

 色々言い悩むことはあったが、ここまで言わないときっと分かってもらえない。

 俺は静かに手持ちのコップを流し台に置くと、覚悟を決めて母さんに言う。


 もしかしたら、これがダチと遊ぶ最後になるかもしれないじゃん……。


 俺のその言葉に母さんの動きが止まった。

 放心するような、どこか一点を見つめたまま呆然としている。


 水が蛇口から止め処なく流れていく。


「……」


 ……。


 本当は軽い冗談のつもりだった。

 否定されて笑ってくるものだと思ってたのに……。

 こんな反応を返されるとは思わなかった。

 ふと。

 母さんの頬に一筋の涙が伝い、流れ落ちる。

 俺は沈んだ声音で母さんに尋ねた。


 なぁ母さん。もしかして俺……もうすぐ死ぬのか?


「馬鹿なこと言わないで!」


 声を荒げて、母さんは本気で怒ってきた。

 俺はびくりと身を震わせる。

 今までに見せたこともないヒステリックな感情だった。


 ……。


 母さんがハッとしたように我に返り、気まずく謝ってくる。


「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったの」


 ……。


 頬の涙を手で拭い、洗い物を再開しながら言葉を続けてくる。


「お友達の家に遊びに行く約束なんでしょ? 夕方までにはちゃんと帰ってきなさいね。帰りが遅いと私もお父さんもすごく心配するから」


 わかった……。


 俺は頷いて母さんの言葉に従う。


「薬、忘れずに持っていくのよ。昼の分は昼にちゃんと飲みなさい。向こうの家の人たちに迷惑かけるといけないから」


 うん、わかってる。


 言って。

 俺は薬箱から薬を持って、台所を後にした。



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