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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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◆ 第54話 オリロアンで待つ


 ◆



 一時はパニックに陥りかけていた街も、闇の退いた今――平和な空の下で、ようやくその平穏を取り戻し、安堵の息を吐いていた。


 結界に守られし大地。

 それが弱き者たちが生き残る唯一の方法。





 ◆





 勇者たちに守られて無事に街へと帰還したアデルは、兄王であるガミルと久しぶりの再会を果たした。

 涙の再会といっていいだろう。

 無言で。

 二人で抱き合い、そしてその背を軽く叩いて互いの無事を喜びあった。


 そして翌日。


 王都より迎えに来た白の騎士団とともに、兄王――ガミルは街を出発し、王都【オリロアン】へ戻ろうとしていた。


「共にこの国を築いていかぬか? アデル」


 アデルは笑う。

 懐から書紋を取り出し、それをガミルへ差し出しながら。


「我輩に王都は似合わぬ。アカギの騒動もある故、王都には我輩の帰りを快く思わぬ者たちもおろう。だから、我輩はこのまま旅に出ようと思う。ミリアと二人で」


 アデルの隣にミリアが寄り添う。

 もうこの国の精霊巫女ではなく、普通の精霊巫女となったミリアとともに。

 ガミルは二人を心配した。


「何を言う、アデル。快く思わぬ者など城に居るものか。過去のことなど、もう終わったことだ。これからは──」


 兄の言葉を手で制し、アデルは言葉を続ける。


「これは父も母も望んでいたことなのだ。生前、二人からはこう言われていた。

 ──お前は世界を見よ。そして兄の手助けをしてやれ、と。

 弟の最後のわがままだと思って、聞いてもらえぬか?」


 ガミルは微笑する。

 仕方ないとばかりに肩を竦め、アデルの手から“契約の記された書紋”を受け取った。

 そして再びアデルへと手を差し出す。


「そうか。お前がそう決めたのならば仕方あるまい。しかし父と母に何も言わずに旅立つのはいかがと思うぞ。

 一度、墓参りに王都へ戻ってこい。旅立つのはそれからでも遅くはないであろう?」


 差し出したガミルの手を、アデルはしっかりと握った。


「そうだな。そこからの旅立ちも悪くはない」





 ◆





 穏やかに続く、平和で青い空。


 小猿──ディーマンは、人ごみ離れた路地隅にちょこんと座り、その青い空をいつまでも眺め続けていた。


 過去を思い馳せるかのように。

 その手には赤い布きれを握り締めて。


 ディーマンは誰にでもなくぽつりと呟く。


「【白き神よ、俺たちの屍を越えていけ】か……。我が息子──ルグナードの礎は果たされたのであろうか?」


『だからこそ空が青いんだろう?』


 ふいに。

 路地裏から聞こえてきた覚えのある声に、ディーマンは振り向く。

 その影から姿を現したのは一人の幼い少年――ティムだった。

 口を開くティムの声に以前の声は聞かれない。

 その代わり、馴染みのある声がその口から聞こえてきていた。


『この国の結界は壊れやしない。それが、ルグナードが最期まで守り通して築いた礎だ』


 ディーマンは寂しげに空を見上げる。


「ルグナードだけではない。白き神クトゥルクの礎となった同志は多い。その屍を越え、白き神は決戦の地で何を見た? なぜ十四年もの間、消息を絶つ必要があった?」


 ディーマンは背後に居るティムへと再び視線を戻す。


「それを知るのは唯一、最期まで白き神の傍にいたお前だけじゃ」


 ティムは視線を落とし、過去を思い返すように悲しげに微笑する。


『そうだな。たしかに最期まで白き神アイツの傍に居たのは俺だけだ。だが──』


 笑みを消し、ティムは言葉を続ける。


『それを話すことは……まだできない』


「そうか」


 呟いた後。

 ディーマンは真顔になり、声を落として言葉を続ける。


「白騎士が──いや、白の騎士団がお前たちの行方を血眼で捜しておる」


『黒王も、な』


「本当に。白き神クトゥルクは異世界人Kなのか?」


 肩を竦め、ティムは白々しくお手上げして笑った。


『さぁな』


 ディーマンは鼻で笑う。


「惚けおって、若造が。このまま【白の騎士団】へは戻らぬつもりか?」


『無論だ。白き神アイツを【白の騎士団】の味方につける気は更々ない。俺は俺の信念を通させてもらう』


「白き神を利用してでもか?」


『そうだとしたら?』


「誰一人として味方の居ないこの世界で、お前に白き神が守れるとは到底思えぬな」


『それでも俺が一人で守り通してみせる。たとえ──かつての同志を敵に回したとしても』


 その言葉にディーマンの目尻がぴくりと跳ねる。


「まさかお前さん、白騎士ワシらと戦う気でおるのではないだろうな?」


『必要があれば戦うことも辞さない。俺は元々黒騎士だった男だ。裏切ることには慣れている。それに、俺の敵はただ一人と決めている。

 予言師巫女――シヴィラ。そいつだけは地獄の底に叩き落とさなければ気が済まない』


「やめておけ。シヴィラには誰も勝てぬ。運命は誰にも覆せぬのじゃ。たとえ白き神であろうとな」


『俺が負けを認めるのは手を尽くした後だ。結果がどうあれ、それまでは俺のやりたいようにさせてもらう』


 それだけを告げて。

 ティムはそこから踵を返した。


 その背にディーマンが声を投げてくる。

 ──冷たくも、射殺すかの声で。


「お前さんがどういう信念を持っていようと構わんが、ワシ等【白の騎士団】は必ずお前さんから白き神を奪い、帝都の神殿へ連れ戻す。

 多少手荒いことになったとしても、必ずな。それだけは覚えておくが良い」



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