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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第41話 持ちかけられた取引


 ティムを追って、俺は街のあちこちを捜し回った。

 行きそうな場所。

 行きそうな道。

 手当たり次第に捜して走り回った。


 しかし。

 結局俺は、ティムを見つけることができなかった。


 人混みに紛れたのか、それともどこか角を曲がってすれ違いになり、別の道に行ってしまったのか。

 どこを捜してもティムの姿は見当たらなかった。

 途方に暮れた俺は一旦足を止め、膝に手をつく。

 頭を垂れて疲労のため息を一つ。


 最低だな、俺も。これでおっちゃんのこと、何も言えなくなる。


【俺だってな、昨夜はずっとお前のことを街中捜し回っていたんだぞ。交信が取れなかったせいで捜すアテもなかったし、街中をウロウロするしかなかった。まぁ最終的に、ここで待ってりゃぁお前が来るかなと思って待っていたんだ】


【そのおかげで、俺はとんでもない目にあった】


 何気ない偶然。

 竜人に追われて詰め所に駆け込もうとした時だって、俺が一方的に勘違いしただけだった。それなのに俺は全部おっちゃんのせいにした。


【全ては偶然だと言えば、お前は信じるのか?】


 あの時おっちゃんが口にした言葉。

 最初はおっちゃんのことを最低な大人だと思っていたけど、もしかしたら俺は、おっちゃんのことを色々と誤解していただけなのかもしれない。

 百パーセントおっちゃんが正しいとは言い切れないが、でも何割かは、俺にだって非がある。


 ──そんな時だった。


「ほぉ。生きていたとはな。どうやら始末に失敗していたようだ」


 前方から聞こえてきた声に、俺はふと、顔をあげる。

 その前方にはあの時の竜人騎士と数人の竜人兵士の姿があった。

 俺は目を大きく見開き、思わず竜人騎士に指を向けて声を漏らす。

 

 お、お前はあの時の!


 竜人騎士が問う。


「生きていたならば答えは一つ。

 問おう。竜人二人を殺したのはお前か?」


 え? 殺したってどういう──?


 その疑問よりも先に。

 竜人騎士が連れていた兵士たちが一斉に腰の剣に手をかけた。

 攻撃態勢に入った竜人兵士たちに、俺は慌てて逃走の構えをとる。


 やばい! この場から逃げなければ!


 逃げ出そうとした時だった。

 いきなり背後からぐいっと、俺の腕を掴んで庇うように。

 一人の竜人兵士が己の背後へと俺を引っ張り込む。

 引っ張られるがままに俺はその竜人兵士の背後へと回った。

 同時、頭の中で聞こえくるおっちゃんの声。


『どういうことなのか説明しろ、すぐにだ』


 おっちゃん!


 竜人兵士──おっちゃんの表情が鋭くなる。

 前方にいる竜人騎士たちを睨みつけ、声のトーンを落とす。


『なるべく事を穏便に済ませる為にもな』


 視線で示されて。

 俺はその方向へと目を向ける。


 竜人騎士が感嘆のため息を漏らす。

 視線を、俺からおっちゃんへと向けつつ、


「どうやら色んな者たちが元主君の後ろでつるんでいたようだな」


『……』


 おっちゃんが無言で懐に手を入れて何かを取り出そうと構える。

 おそらく拳銃だ。

 周囲の人たちがただならぬ気配を察して離れていく。

 あわやここで戦闘が始まるのかと思いきや。

 竜人騎士はなぜか兵士たちの行動を手で制して止めた。

 命令に従い、兵士たちが各々の武器から手を引く。


 おっちゃんも懐から手を離す。

 俺は内心でおっちゃんに言う。


 ってか今、拳銃取り出そうとしていただろ!


 答えず。

 おっちゃんが俺の頭の中で尋ねてくる。


『事情を説明しろ。すぐにだ。何があってこんなことになった?』


 え?


『相手が誰だかわかっているのか?』


 ……。


 俺は首を横に振る。


 いや、全然。ってか、この人たちが何者なのかもいまいち──


 言葉半ばでおっちゃんが呆れるように内心でため息を吐く。


『どういう行動をすればこうなるんだ? まさか指揮階級に目をつけられる事態になるとはな』


 もしかしてやばい相手なのか?


『やばいもクソもない。お前は一切手を出すな。相手は竜騎軍――黒騎士だ』


 はぁ!?


『お前の存在がバレれば大変なことになる。絶対にクトゥルクを使うなよ。どんなことがあっても力を抑え込め。こんな接近だと誤魔化しきかねぇからな』


 わ、わかった。


『お前が無事でいたのが不思議なくらいだ。誰かに助けてもらったのか?』


 アデルさんが助けてくれたんだ。


『そのアデルって奴はどうした?』


 それが……。


 俺は目で竜人騎士のことを訴えた。

 竜人騎士が微笑し、言ってくる。


「取引といこうじゃないか」


 え?


『取引だと?』


「そうだ。こちらには人質がいる。もし昨夜のことで騒ぎを起こすというのならば、こちらにも考えがある」


 人質って、アデルさんのことか!


「事が終わるまでお前たちが荒立てず大人しくするのであれば、あの者は自由の身にしてやろう」


『――その保障は?』


 おっちゃんがそう尋ねると、竜人騎士は微笑した。


闘技場コロッセオで勇者の帰還と共に。そこで約束を果たそう」


 そのままスッと、おっちゃんへと指を向けてくる。


「我が同志の体を返してもらう条件も含めてだ」



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