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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第29話 どこかで一度、会いましたよね?


 あれ? そういえば。

 俺はふとあの時のことを思い出し、男に尋ねる。


 あの……どこかで一度、お会いしましたよね?


「む?」


 問いかけたことで、男が俺の顔をジッと見つめてくる。

 上から下までをじっくりと観察し。

 そして思い返すように、男は顎に手を当てて虚空へと視線を向けた。


「……」


 しばらくして。

 男が再び視線を俺に向けて、不思議そうに問い返してくる。


「はて、そうだったか?」


 ……。


 もしかして俺の思い違いだったのだろうか。

 身なりといい、声や口調、言動全てからして絶対間違いないと思ったんだが。

 一応念の為にあの時の状況説明も付け加えておく。


 あ、はい。入場口での偽装チケット騒ぎの件で──


 ようやく思い出したのか、男は言葉半ばでポンと手を打つ。


「あーあの時か。言われてみれば確かにお前さんとは一度会っておるな」


 あの子、あのあと無事に念願の勇者に会えましたよ。


「ほぉそうか。それは良かった。──ところでお前さん、あの入場チケットをどこで手に入れた?」


 え?


「チケットだ、チケット。お前さんがあの時あの子供に手渡していただろう。あのチケットだ。どこで手に入れた? あれは白騎──」


 しろき?


 その時だった。


「アデル様ぁー」


 道の向こうから、俺たちの居る方向へと懸命に走ってくる一人の少女の姿。

 見た目で判断するなら、歳は俺とそう変わらない感じだ。

 背丈は同級生の女子と比べれば少し低いくらいか。

 顔立ちは少しエルフに近い感じだった。近いといっても俺がエルフの村で会ったエルフ達とは若干目鼻立ちが違うような気がする。

 どちらかと言えば妖精と人間を掛け合わせたような顔立ちの少女だった。


 露出度ある踊り子の服をひらめかせ、ちょっとセクシーな格好をしたその少女は、一直線に山賊風の男を目指して走ってきた。

 高い位置で結んだ長い髪を馬の尻尾のように揺らし、褐色肌に汗を輝かせて元気いっぱいにそのまま男の胸に飛び込む。


「私はついにアデル様を見つけました!」


 少し甘えた声の、子供みたいなかわいい声の少女だった。

 アデルと呼ばれた──俺の隣に居るその山賊風の男は、胸に飛び込んできたその少女をぎゅむと抱きしめる。


「うむ。よくぞ我輩の居場所を見つけたな。偉いぞミリア。さすが一番弟子。それでこそ勇者だ」


「はい、アデル様。私は勇者です。アデル様の居場所が分からずに勇者が名乗れますか」


 ……。

 何言ってんだ? この人たち。


 俺は無言でそっと二人から距離を置いた。

 少し距離を置いたところで、男――アデルさんから片腕を掴まれ、俺はうめく。


 ぅぐっ!


「どこへ行こうとしておる?」


 に、逃げられない。


 少女が俺の前に回りこんできて顔を覗いてくる。


「アデル様。この方は?」

「よくぞ訊いてくれた、ミリアよ」


 言って、アデルさんは俺の腕を急にぐいっと引っ張ると、傍へと引き寄せる。


「紹介しよう。今日から我輩の仲間にして弟子第二号である」


 少女――ミリアが拍手をしてくる。


「おめでとうございます、アデル様。そこら辺の民人をもすぐに仲間にできるその勇者力。やはりアデル様は勇者です」


 いやあの俺、連れがいますのでこの辺で──


「何を言う。今日から我輩がお前さんの親であり、仲間であり、そして一人前の勇者として育てる師でもあるのだぞ。遠慮はいらぬ。我輩とともに旅立とう」


 いやあの俺ほんと、連れがいますから。ここで待ち合わせしているだけなんです。勘弁してください。


「嘘はいかん。我輩にはわかる」


「本当ですか、アデル様!」


「うむ。そうだ」


 勝手に決め付けないでください。

 

 ふと、何かに気付いたのか。

 ミリアが俺の顔をじっと見てくる。

 間近で見るとさらにかわいい。


 え? 何?


「……」


 しだいにミリアの顔が険しくなっていく。


「どうした? ミリアよ」


「アデル様、もしかしたらこの民はアカギの残党かもしれません。それでもこの方を仲間にするのですか?」


 アカギって?


「うむ。当然である。アカギの残党だろうが黒騎士だろうが、仲間になりたいと願う者を拒むようでは勇者を名乗れまい」


 俺、一言も仲間になりたいと言ってないんですけど。


 ミリアが俺の手を取る。


「わかりました。勇者の名において、私はあなたを仲間と認めます」

「うむ。偉いぞ、ミリア。それでこそ勇者だ」


 あの、ほんと勘弁してください。俺はただここで人を待っていただけなんで――


『その必要はない』


 ふいに頭の中に聞こえてきたおっちゃんの声に、俺は辺りを見回した。



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