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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第25話 それ、言ってやった方が良くね?


 ──入場口から中へ。

 場内フロアを歩いていた俺とおっちゃんは、ふと背後から声を掛けられ振り向いた。

 俺の傍へ駆け寄ってくる一人の少年。

 さきほど入場口前で俺が声を掛けた少年だった。

 少年は俺の前で立ち止まり、


「あの、おいらティムって言います。さきほどは、ありがとうございました」


 少年――ティムは俺に向けて深々と頭を下げてきた。

 俺は照れるように頭を掻きつつ片手を振る。


 いや、いいって。俺、結局何もしてねぇし。


 隣でおっちゃんがぼそりと呟く。


『たしかに何もしてないな』


 俺は半眼でおっちゃんを睨みつけ、内心で言い返す。


 全く何もしてない奴に言われたくないよ。


 あれから山賊みたいな男の人が係員に掛け合ってくれて、それに周囲が賛同する形になって、このティムという少年は特別に場内に入れてもらえることができた。

 おっちゃんがティムに声をかける。


『そういやお前、ウルセイラ村から来たとか言っていたな』


「はい」


『スリザンザ峰の【斜の渓谷】を越えた先の村か?』


「え、えぇ。そうですけど……何か?」


 ティムが不思議そうに小首を傾げる。

 するとおっちゃんが、何かを思い返すように虚空を見上げ、そのまま記憶を探るように腕を組んだ。

 俺はおっちゃんに尋ねる。


 何かあったのか?


 尋ねたが、無視された。

 しばらくして。

 急におっちゃんが何かを思い出したかのようにポンと手を打つ。


『あー思い出した。お前どっかで見たことあると思ったら、あの時ウルセイラ村で魔物に喰われそうになっていたガキか』


「どうして、それを……?」


 呆然とするティム。

 ──そんな時だった。

 会話を遮るようにして、向こうで女の子たちの黄色い歓声が聞こえてくる。

 有名な勇者でも現れたのだろうか?

 見れば女の子の群れに囲まれるようにして、一人の勇者らしき格好をした青年が決めポーズで壁際に佇んでいた。

 その青年を見た瞬間、ティムの表情がぱぁっと輝く。


「あ! あの人だ!」


 あの人?


「はい! あの人がおいらを助けてくださった勇者なんです!」


 そう告げて。ティムは俺たちに向けて頭を下げ、はやる気持ちのまま勇者のところへと駆け出していった。

 俺は内心でおっちゃんに尋ねる。


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 どういうことだ? さっきの。


『ん?』


 ん? じゃなくて、さっき何か意味深なこと言ってただろ。


『あー、あれか。あれはその、なんつーか……あれだ』


 あれじゃ分かんねぇよ。


『ずいぶん前の話になるんだが、魔物に襲われていた村があってな。魔物に喰われそうになっていたガキがいたんで助けてやったんだ』


 助けた?


『――あの姿でな』


 くいとおっちゃんが顎で示す先に、カッコつけた二枚目顔の青年勇者がいた。

 俺の頬が引きつる。


 あのさ、おっちゃん。


 遮るように、おっちゃんが言葉を続けてくる。


『まぁ、なんだ。あのティムとかいう少年を助けたのは、実は俺だったんだがな』


 それ言ってやった方がよくね?



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