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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第21話 俺は何かを忘れている


 ――その後。


 おっちゃんとなんだかんだと喧嘩腰で言い合いながら宿に帰り着いた俺は、おっちゃんの案内で大衆浴場の蒸し風呂に入り、そのままくたびれるようにまた部屋へと戻ってきた。

 部屋に戻りついた途端、酒に酔い回ったおっちゃんがいきなり床に倒れるように眠り込む。


 お、おっちゃん!?


 慌てて揺すり起こす俺をよそに、おっちゃんはそのまま床でいびきをかいて寝てしまった。

 ここはおっちゃんが借りた部屋だから俺が床で寝ると言ったのだが、


『俺はベッドが嫌いなんだ。使いたきゃお前が好きに使え。俺は床で寝る』


 と、ぶっきらに言われたので俺がベッドを使うことにした。

 床で寝ているおっちゃんをそのまま放置して、俺は覆面の上着を脱ぎ、ラフな服装になるとベッドの上に大の字になって倒れこんだ。


 あー暑い。扇風機が欲しい。なんかすげー疲れた。


 俺は本当にアバターで、ここはゲームの世界なのだろうか?

 ふと、そんな不安が脳裏を過ぎる。

 アバターなのに暑さを感じるとか、それにこの疲労感。

 まるで体ごとこの世界に飛ばされて来たみたいだ。

 そういえばセディスの事件でこの世界に体ごと召喚された時もこんな感じだった。

 なんだか、何もかもが本当に現実のように思えてくる。

 睡魔でさえも。

 俺は静かに目を閉じた。


 そういえばあれからずっと、俺は何かを忘れている気がする。

 なんだろう。

 思い出さなければならない大切な事。


 ……。


 えっと……なんだっけ? 眠すぎて考えるのもダルい。

 ま、いっか。明日考えよう。

 明日になればきっと思い出すだろう。


 そう思った俺はそのまま襲いくる睡魔に静かに身をゆだねた。


 ほんのひとときに見た夢。

 学校で授業中に朝倉と話していたら先生に叱られる夢だった。


 そこで俺はハッと目を覚ます。

 寝ていたベッドからすぐに頭を起こし、寝ぼけた思考で激しく周囲に視線を走らせる。


 あれ? ここ……。


 変わらない宿屋の一室。

 おっちゃんは相変わらず床で寝ていて、部屋中にいびきがうるさく響いている。

 俺はしばらく呆然と周囲を見回す。

 何も変わっていないことに安堵を覚え、俺は胸を撫で下ろした。

 そのまま疲れたようにため息を吐く。


 ……なんだ。夢か。


 ぽすっと、ベッドの上に頭を落とす。

 まるで予知夢でも見てしまったかのように、変に現実味のある悪い夢だった。

 夢の中で朝倉と交わした会話を今でもはっきりと思い出せる。


【知ってるか? ブラッディ・ゲームって、一度ゲームの世界に入ったら二度と出られない戦争ゲームらしいぜ】

【なるほど。だからブラッディ・ゲームっていうのか。それなら納得だ。――あ。そういや朝倉、昨日の】


 俺はいったい何を納得したんだろうか? 

 夢の中では納得できたはずなのに、目が覚めて思い返してみるとツッコむべきところがたくさんある。

 そもそも朝倉がゲームの話?

 はは。マジ似合わねぇ。


 ……。


 そういえば朝倉の様子がなんか変だったよな。オンライン・ゲームのことをやたら気にしていたし。いや、俺の考えすぎか。まさか正夢になるなんてこと、あるわけな──


 俺はふと違和感に気付く。


 あれ?

 そういやなんで俺、目が覚めてもこの世界にいるんだ?

 いや、ちょっと待て。

 それ以前に俺はいつになったらこの世界からログアウトできるんだ?

 もうこの世界に来てどのくらいの時間が経っただろう。

 そろそろ元の世界へ戻してもらわないと──

 ってか、なんでこんなにのんびりしてんだよ、俺!

 向こうの世界の俺が大変なことになる!


 忘れていた何かをようやく思い出して。

 俺は急いで床で寝ているおっちゃんを声で起こす。


 おっちゃん、大変だ! 起きてくれ!


 俺の声に驚いておっちゃんがびくりと身を震わせる。

 そして慌てふためくように床から飛び起きて激しく周囲を見回す。


『な、なんだ! どうした!? 黒騎士か!?』


 俺は尋ねる。


 なぁおっちゃん! 俺、いつになったら向こうの世界へ帰れるんだ? ログアウトってどうやればいい?


『……』


「なーんだ、お前か」と言わんばかりの寝ぼけた目で呆れるように、おっちゃんは俺を見つめてため息を吐いた。

 そのままぼりぼりと胸板を掻く。

 やがて面倒くさそうに鼻で笑って、俺の質問に答えてくる。


『お前はこっちの世界の人間だろうが。何言ってんだ?』


 吐き捨てて。

 おっちゃんは再び俺に背を向けてゴロンと床に寝転がった。



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