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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第17話 親方! 空から女の子が!


 ハッと気付いた時には──。

 俺はおっちゃんの頭上目掛けて真っ逆さまに落ちていた。


『どわっ!』

 いだぁっ!


 激突し、折り重なるようにして。

 俺はおっちゃんを巻き込んで床に倒れこんだ。

 二人して痛みにうめき声を上げつつ。

 俺はおっちゃんを下敷きにしたまま、先に身を起こして激しく辺りを見回した。

 一人部屋にしては少し広めの、ベッドとテーブルのみしか置いていない簡易な木造の安宿だった。


 ここはあのゲームの世界か?


 俺は窓から外へと目をやった。

 風景から察するに、ここは二階だろうか?

 外はだいぶ薄暗くなっており、夜が近いことがうかがえる。


 ん?


 俺は視線を落とす。

 そしておっちゃんと互いに目を合わせるなり、いきなり怒鳴り合った。


『お前は一体どんなログインのやり方すればそうなるんだ!』


 はぁ!? それはこっちのセリフだ! おっちゃんが呼んだんだろ、こっちの世界に!


『呼んでねぇだろうが、まだ!』


 まだって──! ……え?


 俺は目を瞬かせる。

 そのまま不思議に首を傾げた。


『……はぁ』


 おっちゃんが疲れたようにため息を吐く。

 そして上に乗っかる俺を突き飛ばして床に転ばせると、声を落として言葉を続けてきた。


『ったく。こっちの世界に来ようと思えば俺無しにいつでもログイン・ログアウトは可能だってことだ』


 来ようと思えば?


『そうだ』


 ログインのやり方ってそれだけなのか?


『それだけだ』


 へぇ。意外と簡単なやり方だったんだな。


『それほどお前の持つ力がデカイってことだがな』


 来たくない時は?


『来たくないと思えばいい』


 フッ。

 俺は企みある笑みを浮かべた。


『やらせないけどな』


 やらせろよ!


 急に。

 俺の言葉を手で制して、おっちゃんが真顔になり話題を変えてくる。

 人差し指を立てて、


『──それと、一つ。お前に聞きたいことがある』


 え、何?


『俺が居ない間に何があった?』


 居ない間に?


『いや、質問が違ったな。何があったじゃない、誰に・・会ったかだ』


 誰に……って、いつ?


『決まってるだろうが。俺を待っている間だ』


 何かあったのか?


『それを今、俺がお前に質問しているんだ』


 えーっと……。


 俺は頬を掻きながらあの時のことを思い返す。


 一人の女の子に会った、かな。その……


 言いにくそうに、俺は無言で片目に手で当てて特徴を示した。


『他には?』


 ……。


 俺は無言で首を横に振る。


『そうか。あと、俺を待っている間にお前が口にしたものは?』


 うーん、と……。竜人からあの苦い木の実の水をもらって飲んだ。それと……紅茶みたいな飲み物。女の子が連れていた毛むくじゃらの生き物にもらったんだ。


 呆れるように。

 おっちゃんが片手で顔を覆ってため息を吐いた。


『お前には警戒心というものが無いのか? 今後、俺が許可するもの以外は絶対に口に入れるな。原因はその毛むくじゃらからもらった飲み物だ。

 【星の雫草】って知っているか? ――って、知らないよな。

 よく魔法使いが好んで紅茶にして飲むことが多い。魔力の制御安定剤として飲むんだ。だがお前にとっては危険なものだ。

 それを体内に取り入れることで一部の封印が中和して解け、いつでもクトゥルクの力を引き出せるバースト状態になる』


 バースト状態?


『お前の世界の言葉でいう【力の暴走】だ。封印状態の均衡が崩れて制御不能になるんだ』


 ふーん……。で?


『だからお前は体調を崩した』


 いや、それについては俺自身の──って、あれ?


 言われて気付く、自分の体調。

 いつの間にか風邪の症状が完治している。

 体も重くないし、節々も痛くない。頭もスッキリとして気分爽快だ。

 楽になった俺は心を弾ませて生き生きと体を動かす。


 あ。なんかいつの間にか風邪が治ってる。すげー楽だ。今頃風邪薬が効いてきたのかな?


 おっちゃんがそんな俺を見て気まずそうに、言葉をごにょごにょと濁らせる。


『なんというか、その……体調が悪くなった時はこっちの世界に来れば楽になる。俺の口から言えるのはそれだけだ。まぁ、とにかく……良かったな』


 ……。


 俺は笑顔を固めたままおっちゃんに尋ねる。


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 また俺をはめたのか?


『俺が? いつお前をはめた?』


 こっちの世界に来れば楽になる? なんだよそれ。おっちゃん、さりげなく俺をこの世界に引き込もうとしているだろ?


『引き込む気があればログアウトさせてない』


 じゃぁどういうことか説明しろよ。


 俺の言葉に圧されるようにして、おっちゃんが俺から視線を逸らした。

 弱々しく呟き答える。


『それは……言えない』


 言わないでも教えないでもなく、言えないってどういうことだ?


『言ったらお前、二度とこっちの世界に来たくないって言い出すんだろうが』


 好き好んで来ているわけじゃないからな。キッカケがあれば金輪際、この世界には二度と来たくないと思っている。


『なぜそんなにこの世界を嫌う?』


 当たり前だろ。目の前で平気で人が殺されるし、罪のない人ばかり死ぬし、血は見るし、裏切られるし、金に汚いし、殺されそうになるし、魔物に襲われるし、神様にされそうになるし、もうたくさんだ。


『この世は戦いが全てだ。魔物も黒騎士も居て、それが当たり前の世界なんだから仕方ないだろう?』


 それに魔法が使える世界で俺に魔法を使うなだって? 俺に魔法無しでこの世界でどう楽しく過ごせっていうんだ? 

 なによりこの世界には科学がない。文明は遅れているし、狙われてもいないのにこのクソ暑い中をこんな完全覆面で厚着させられるし、クーラーとか冷蔵庫とか、ましてや水や食事さえクソまずいし最悪だよ。

 良い所を指折り上げろと言う方がどうかしている。


 ニヤリとおっちゃんが笑った。


『じゃぁなんだ? 魔法が使えて、さらにおいしい飯が食えればお前はそれでいいのか?』


 ぐっ、と。

 次の言葉が浮かばず、俺は何かに失言したような気がした。



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