◆ 第14話 運命のクロス・ロード
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フィーリアが視線を向けた時には、すでにカウンターは無人となっていた。
さきほどまで居たはずの男の姿はそこにはない。
「ログアウト……。どうやら異世界人だったようね」
呟いて。
フィーリアは静かに席を立つ。
カウンターに居た毛むくじゃらの生き物が慌てて肩に飛び乗ってくる。
毛むくじゃらの生き物を肩に連れ、フィーリアは無言でその場をあとにした。
※
扉を開いて。
フィーリアは外へと出る。
外では二人の従者が待っていた。
従者がフィーリアに気付き、歩み寄ってくる。
一人は細身に黒装束。
もう一人は強靭な体躯に黒の甲冑を着込んだ壮年剣士だった。
壮年剣士がフィーリアに尋ねる。
「何か手がかりとなるものは見つかったのか?」
フィーリアは静かに首を横に振る。
「いいえ。特に何も。そっちはあの竜人から【運命の子】の行方は聞き出せたの?」
「リディアの王都──【オリロアン】へ向かったそうだ」
「そう。先手、打たれてしまったわね。でもあの噂はアテにならない」
「だが確かめる必要はある。あの噂が嘘であれ本当であれ、【運命の子】と鬼神が接触すれば白騎士の戦力は一気に盛り返す」
フィーリアは薄く口端を引いて笑みを浮かべる。
「鬼神が味方になれば、の話でしょう? 記憶を失った鬼神が再び彼らの味方になるとは限らない」
「だが鬼神の傍には奴がいる。奴が鬼神の守護者である限り、何らかの形で鬼神を白騎士の味方につけようとするはずだ。
その前に鬼神を我々の手元に置かなければ、あとで取り返しのつかない事態になる」
「それでも星の巡りは変えられない。変わらないようにするのが私の使命。奴とていつまでも鬼神の傍に居られはしないのだから。
──月と太陽が重なりし運命の日に【大天使の審判】は訪れ、鬼神は封じられし【天魔界の扉】を開く」
フィーリアは覆った片目に手を当て、言葉を続ける。
「必ずその予言通りにしてみせるわ。たとえこの身が妖眼の呪いで朽ち果てようとも」
「全ては巫女シヴィラの導きのままに、か」
「……」
しばし間を置き。
フィーリアは覆った目から手を退けると、正面へと顔を向けた。
そのまま壮年剣士へと問いかける。
「あの竜人はどうしたの?」
「陽炎が裏で始末した」
と。壮年剣士は黒装束を顎先で示す。
「……」
黒装束が無言で頷く。
「そう」
呟いて。フィーリアは一歩踏み出す。
「ここはもう用済みってことね。なら先を急ぎましょう。白騎士達に勘ぐられる前に」
壮年剣士が怪訝に尋ねる。
「家の中にもう一人居るようだったが?」
フィーリアは足を止めた。
そしてぽつりと答える。
「異世界人が一人。でも消えたわ」
「ログアウトか」
「えぇ」
「ではセガールに命じてその異世界人を始末させよう。その異世界人の名は?」
「……」
黙り込むフィーリア。
壮年剣士が怪訝に問いかける。
「フィーリア?」
そっと、フィーリアは微笑した。
「名前、聞いておくべきだったかしら?」
「聞いていなかったのか?」
「たかが子ネズミ一匹。あの場で殺すほどのことでもないと思ったの。それに──」
そこで言葉を止め、フィーリアは肩にいる毛むくじゃらの生き物へと目をやった。
毛むくじゃらの生き物が肩の上で楽しそうに小躍りする。
それを見たフィーリアの表情にやんわりと笑みが浮かんだ。
「なぜかしら。この子がすごく喜んでいるの」
「フィーリア……」
ふいに。
黒装束の男が何かの気配を察して、無言で手投剣に手をかける。
壮年剣士も気付いて柄に手をかけた。
それは唐突に。
風のようにして姿を現した一人の竜人騎士が、彼らの前で片膝を落として頭を垂れた。
「ようこそフィーリア黒王、我が国へ。この国に所属する黒騎士──竜騎軍と申します」
フィーリアが素っ気無い声で言う。
「竜騎軍の指揮階級が私に何用かしら?」
「この国の結界は時機壊れましょう。その時に西にいる魔物の群れを呼び寄せたいのです。黒王の手を貸していただけないか、と」
「……」
フィーリアは無言で肩にいる毛むくじゃらの生き物に目配せした。
毛むくじゃらの生き物がごそごそと体毛の中から何かを取り出す。
それは細く小さな角笛のペンダントだった。
毛むくじゃらの生き物は竜人騎士に向け、それを投げ渡す。
受け取って。
竜人騎士は黙して一礼した。
立ち上がり、背を向けてその場を立ち去ろうとする。
その背にフィーリアは声を投げた。
「何を考えているの? 竜騎軍」
竜人騎士は背を向けたままで答える。
「この国を我が物としたい。それだけです」




