何処へ行った、日常
湿気と臭気が篭もっていて、床はひんやりと冷たい。決して清潔とは言えないそれに力なく座り込んで薄汚れた壁に頭を保たれた。
痛い。痛い。痛いよ。
眼球の奥深くを踏み潰されるような鈍くて強大な痛みで目の前が真っ白に染まる。お腹の下からせり上がるような吐き気に耐え切れずに、何度も胃の中身を出してしまおうと喉の奥をえぐるように指を突っ込むけれど、もう空っぽの臓器からは何も出てこなくて、消化前の不快な残渣が残る口元を乱暴に拭う。
気持ち悪い。気持ち悪いよ。つらい。つらい。助けて…助けて。
もうこの時にはわかっていた。
夢見がちで幼くて、それでいてどうしても抗えないものが有ることを知るには十分な「私」だったから。
苦しいとか、つらいとか。そんなのはどうしようもないんだ。独りでこうして便所にうずくまって涙やら唾液やらでぐしゃぐしゃの汚い顔で絶えなくちゃいけないんだ。
だって、誰も助けてくれる人なんていないんだから。
ゆっくりと覚醒する意識の裏側で、重たい眠気の残滓と気分の悪い過去の夢が一層私の朝を台無しにしてくれる。年が変わって、浮かれた世間に静けさが戻る1月の中頃。何の変哲もなくて、とんでもなく気分の悪い1日の始まりだった。
あ、れ。
違和感を感じたのは何だったろう。
普段より低い視点か、肩より長く伸ばしたことのない髪がするすると寝衣の上を滑っていくのが見えたからか、どこか間抜けにつぶやいた自分の一言が妙に澄んだ高い音だったからか。
いやいやいや。全部だろ。
頭、いたい。クラリと揺れる視界に耐え切れず、起き上がったばかりのベッドに再びぽすりと座り込んだ。
「まじで、なにこれ!」
カーテンが開かれたままの窓に写り込んだのは、驚愕に目を見開いた少女だった。