俺、一生懸命説明しました。
「……どうぞ」
理事長は怪訝な顔をしながらも俺達を迎えてくれた。
さすが私立学園の理事長室だけあって豪勢な作り。
あの陶器の置物なんて結構なお値段なんじゃね?
トラの絵の壁掛けって言うの?そんなんのもあるし。
「……挨拶が遅れたわね。私は理事長の緒方美鈴。……でもまあ、まだ就任して一ヶ月なのだけれど、ね」
節目がちにそう言う緒方理事長。
なんだか少し、寂しそう?
「そんな事はどうでも良い」
おい。
「ふふ……。貴女、さっきもそうだけど随分とはっきりと物を言う方なのね?……グロリアムさん、だったかしら?」
席に座る緒方理事長。
さすが、椅子に座る絵面まで様になって見える。
……ていうか。
なんかこの二人の雰囲気、というか空気。
すっげえ怖いのは何故……?
「だから。そんな事はどうでもよい、と言っている。お前が『指揮官』で良いのだな?美鈴」
お前が『だから』じゃ。
だから何故、初対面の人に対していきなり下の名前で呼び捨てにする?
《暗黒の国》って、そういう教育方針だったとか?
「……貴女、さっきから何を言っているのかさっぱりだわ。『要塞』だとか『指揮官』だとか……」
緒方理事長は俺に視線を移す。
「それに……『妻』とかも言っていたわよね。そこの彼、我が校の生徒なのでしょう?」
え?俺?
「あ、はい……。三年二組の……」
「それはさっき聞いたわ。……では、何故、どうして、なんで、『ご結婚』されているのかしら?」
……されておりません。
「おい、美鈴。我らの愛の育みを邪魔しようと言うのならば容赦はせんぞ」
……育んでおりません。
「あなたには聞いておりません。そこの我が校の生徒に……」
「人の話を聞いていないのはお前の方であろう。お前はこの要塞の指揮官なのかと……」
「だああああ!もうっ!!!」
俺はつい、口を挟む。
「何よ」「何だ」
ハモるな!そこの女ふたりっ!!
「まず!グロリアムっ!」
「あ、はい……」
「ここは『要塞』じゃねえって何度言ったら分かるんだよっ!ここは『学校』!学生が勉強するところ!」
「むぅ……。どう違うのだ要塞と……」
「そして緒方理事長は『指揮官』じゃないの!この学校のトップの人で……!」
「ならば同じ事ではないか」
「違うって言ってんじゃん!いいからお前は黙ってなさい!」
「ぐ……。わかった……。ほむらがそう言うのであれば……」
一人クリア。
「そして!緒方理事長っ!」
「ひゃっ?わ、私?」
「そうです!理事長もこのアホを刺激しないで貰えますか!」
「アホとは失礼だな、ほむら」
「だから黙ってなさい!」
「ぐむぅ……」
黙るグロリアム。
いちいち出て来んなよ……。
「でもだからと言って……中学生が『結婚』だなんて……」
「していません!俺まだ童貞だし……!………あ。」
「まあ……///」
何故そこで顔を赤らめる!
「じゃなくて!……ああもう!要するにですね……!」
「なんだ、ほむら。我と混じりたかったのか?それならそうと……」
「ギロッ!」
「ぐぅ……。何故睨む……」
「それにここは一体何処なの?あなた達は何か知っているのかしら?」
「それは……」
……ん?
「……あの、緒方理事長?」
「?何かしら?」
「その……あれ……?もしかして、何も『ご存知無い』……?」
「??」
あれ?
「なんだこいつ。指揮官の癖に『現状把握』もしておらんのか?」
「カチンッ!」
「おい、グロリアム……」
「そんな事で人の上に立てるとでも思っているのか?美鈴?」
おいおい……。
ややこしくするなよ話を……。
はあ……。
「仕方無いじゃないのよ!こんな訳の分からない事態なんて誰も想定なんてしていないわよ!」
「指導者たるもの、どんな場面でも常に冷静沈着、そして的確な指示を与える責務があると思うがな」
「指示は出したわよ!各クラスには教室からは決して出ないようにとも指示を出したし!」
……すんません。早速破りました……。
「ふん。それで一体どうなる?立て篭もっていて何か事態が解決するとでも思っていたのか?現にこの要塞は……」
「学校」
指摘する俺。
「う……この『学校』は敵兵に攻められていたのだぞ?まさかそれまで知らないというわけではあるまい?」
「それは……!」
言葉に詰まる緒方理事長。
「……まあ、ほむらが一瞬で『殲滅』してはくれたがな」
「……え?この……うちの学校の生徒が……?」
……そうみたいですすいません。
「ふむ……。そこから把握しとらんか……。仕方ない……」
グロリアムは観念したようにソファに座り込む。
「……少し長くなるが、良いか?美鈴?」
「……はあ……。そうね。私も『現状』は知りたいし……。それに……」
緒方先生は椅子から立ち上がり、グロリアムの座っているソファの向かいに座り直した。
「……それに少し大人げ無かったわ。私も反省が、必要ね……」