俺、余計皆から嫌われました。
あれから数時間が経過。
後々まで語られる事になる《黒い炎の厄災》と名付けられた、三国屈強の兵士約3000名の命を一瞬で奪い去った出来事。
当然、各国首脳は突如現れた建造物に対する侵攻を一時断念。
俺達は束の間の安息を手に入れた訳だが……。
「あ、ちょっとトイレ」
俺は椅子から立ち上がる。
「ひいいいっ!」
「きゃああっ!」
びびる生徒達。
「あ、いや、トイレに……」
「うわああ!くんなっ!こっちにくんなあああ!」
……。
という訳でして……。
「ふむ…。相変わらずの様だな」
顎に手を添えるグロリアム。
「ほむらの世界の住人とやらが、こんなに腰抜けばかりだったとはな……。計算外もいいとこだ」
グロリアムの計画。
俺の世界に逃亡し。
《力》を授ける『夫』探しというのが一つ。
それが俺に当たったわけだが……。
そしてもう一つが『戦力』探し。
要するに、三国に対抗でき得る《力》を持った兵士を探しに俺たちの世界へ。
そして見付けた建造物。
これだけ大きな建造物に471名の『兵士』が日々訓練を重ねている。
ならばこの『要塞』ごと、自身の世界へと転生させてしまえばいい……。
そんなアホみたいな計画だったそうです。
てかここ学校です。
どうしたら『要塞』と見間違うんですか。
「しかし……もう後戻りは出来ぬし……むぅ、困ったぞ。」
いや。困ってんのは俺らです。
てか俺です。
「とりあえずはあれだけの、ド派手な事をしでかしたのだ。当分はここに攻め入られる事は無かろうが……」
俺をちらっと見るグロリアム。
「ほむらよ。まずはお前の《力の調整法》を磨くのが先決だな」
「力の、調整法?」
相変わらず周りの奴らは俺達から随分と距離を保ったまま。
誰も声なんて掛けて来やしねぇ。
「そうだ。お前の『魔力量』の多さは認めよう。しかし、だな。『使い方』がなっていない」
「……仕方ねぇじゃん。『魔力の使い方』なんて知ってる方がおかしいだろ……」
俺は普通の中学生です。
厨二病ですらねぇのに、知ってるわけないだろ。
※厨二病の学生も知っている訳ではありませんよ
「そうかも知れんが……しかしすぐにでも習得してもらうぞ。……こいつらが『戦力』として期待出来んのであれば尚更だ」
「ひっ……!」
隅の方に隠れていた一人が小さく悲鳴を上げる。
おいおい、何で俺のクラスメイトを睨み付ける?
おまいが勘違いして連れて来たんだろうに。
「おい、大丈……」
「ひいいいいっ!頼む…!頼むから殺さないで…!!」
「う……」
「はは、これはまた大いに嫌われたもんだな」
おい。
笑うとこか?今の場面……。
「ほむらよ」
「……あんだよ」
「用を足す所ではなかったのか?」
「……あ」
そして俺は。
猛ダッシュで男子トイレまで駆けて行った……。
◆◇◆◇
「ふう……」
アブネェ……。間一髪。
「……それにしても……」
あの後、俺は自身のしでかした事に気付き、小一時間は震えが止まらなかった。
自分の《力》とやらで一瞬にして3000もの命を奪ってしまうという悪魔のような所業。
それを、俺が?
今でも信じられない。
とんでもない大量殺戮だ、これは。
手を洗った俺は、自身の右手の甲をまじまじと見つめる。
黒い痣。
まるで炎のような形に刻みこまれた《紋章》。
俺とグロリアムを結ぶ《契約》の証。
「婚姻の証、ね……」
俺は頭を冷やす為、そのまま水道の蛇口の下に頭を突っ込む。
……学校中の奴らは俺とグロリアムを見るなり、化物扱いをしてきた。
いや。既に俺は『ゾンビ』的な扱いで数日前から化物扱いではあったが……。
その比ではない、今回のは。
訳もわからぬまま、学校ごと異世界に転移して。
訳もわからぬまま、数千の軍勢が押し寄せてきて。
そして。
訳もわからぬまま、同じ学校の生徒が一撃で数千の兵士の命を奪った。
何が『ヒーローになれる』だ、グロリアムのやつ……。
別になりたかった訳じゃねえけどよ……。
友達どころか、これじゃあ余計学校の奴らと距離が広がっちまうじゃねえか……。
「……ふう」
水道の蛇口を閉める。
俺は何を考えているのだ。
友達?
距離が広がる?
んなもん最初っから広がってるじゃねえか。
今更何をビビッている?
「……うし!」
そして俺は教室に戻る。
◆◇◆◇
教室のドアを開けようと思ったら、何やら怒号か聞こえてきた。
おいおい、何を揉めてんだよ、一体…?
「……お前は一体何者なのだ!!ここは一体どこなのだ!!何故日高はお前と共に行動なんぞをしている!!」
あー。
教頭先生が来てるー。
そしてグロリアムになんか怒鳴ってるー。
「……お前は、誰だ?この要塞の指揮官か?」
おい。
だからここは学校だっつの。
「要塞?指揮官?何を言っとるのかさっぱりだ!おい!誰かこいつを摘みだせ!!」
……誰もグロリアムに近付こうとしない。
だって怖ぇもん。雰囲気とか。
「……ふん。弱い犬ほど良く吠える、とはこの事だな」
「なっ…!?」
顔を真っ赤にしながら教頭は何やら喚き散らしている。
あーあ、こういう大人にはなりたく無ぇなあ…。
「……ほむら。いるのだろう?」
……あ。ばれてる……。
俺は教室のドアを開けて中に入る。
「ひっ……!?」
俺を見るなりビビッて担任の後ろに隠れる教頭。
女のグロリアムにはあれだけ虚勢良く吠えてたってのに。
「……まったく。どいつもこいつも、話にならん奴らばかりだな」
「すいませんでしたー」
……てか何で俺が謝らなきゃなんない訳?
「ほむら。この要塞の指揮官はどいつだ?」
「……グロリアム?何度言ったら分かってくれますか?」
ここは学校です。が っ こ う 。
「呼び名などどうでも良い。指揮官は誰だ、と聞いている」
うーん。頭固いなー。
でも『指揮官』か……。
誰だろ?校長?
でも校長はあの後すぐにグロリアムが『シメて』以来、校長室に閉じこもっちゃったし…。
あれはさすがにちょっと可哀想だったな…。
いくら勢いで肩を掴まれたからって、ビンタはねえよなビンタは。
……まあいきなり肩を掴んだ校長も悪いけど……。
「あ。そう言えば……。ねえ、教頭先生?」
「ひいい…!な、なな、なんだねっ!金なら後で……!」
おい。
俺は一体何に見えてるんですか。
「たしか、『理事長』が来られてましたよね?お昼くらいに」