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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第七章 《十と万の勝者》
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俺、黒炎剣バンバン振り回しました。

 戦争開始から約一刻が過ぎた。


「……な……何なのだ……奴らの強さは……」


 一刻。たった一刻しか経ってはいない。


 その短い時間の間に、『鉄剣騎士団』の周囲には無残にも惨殺された魔道騎兵の数、数、数……。


「報告します!魔道騎兵第一陣全滅!繰り返す!第一陣全滅っ!!」


「全……滅……」


 報告を聞いた幹部達は皆放心状態となっていた。


 ものの一刻で……精鋭魔道騎兵5000もの軍勢が……格下と言われていた《剣の国》の兵士20数名に……。


 全滅―――。


「隊長!逃げてください!『黒炎剣』の使い手が構えを―――」


 刹那。


 またしても《黒い炎》の波が襲い掛かり―――。


 ―――第二陣を指揮していた俺は、一瞬にして意識を失った。




・・・




「バラバラになるな!今の一撃で次の《黒炎》発動までは時間が掛かる!第四陣まではそのまま全速前進!十時と二時の方向から第九陣と第十陣は『鉄剣騎士団』を囲い込め!!」


 既に魔道騎兵の死体の山で『鉄剣騎士団』の姿は目視出来ない。


 しかしまだ我が魔道兵士全軍の兵力の1割も削られてはいない。


 驚異的な強さで陣形を崩しにかかる『黒炎剣』の使い手と『鉄剣騎士団』ではあるが、我々の切り札である『5万』の魔道兵士の一斉《魔法》攻撃の発動までは奴らをここに足止めしなくてはならない。


 先の事は考えるな。


 今はこの場に奴らを足止めする事だけを考えろ―――。



・・・



 間もなく第二陣の全滅の連絡が入る。


 しかし残りの第三から第十までの魔道騎兵らで『鉄剣騎士団』を囲い込む事に成功。


 残りの第十一陣から第二十陣も同じ形で『二重包囲』の陣形に着手している。


 後は女王陛下からの『一斉《魔法》攻撃』の指示を待つのみ―――。




「『黒炎剣』の使い手が構えの姿勢!《黒炎》第三波、来ますっ!!!」


 報告兵の掛け声と共に空が赤黒く光る。


 そして距離が離れているはずのここ、『一斉《魔法》攻撃』の地点まで熱風が押し寄せて来る。


「被害は!?」


「は、はい……!目視ですと……『鉄剣騎士団』周囲……約1000名前後が……灰に……」


 《魔法》の力を使い戦場を目視していた魔道兵が落胆の声で報告する。


「ちっ……!化物か奴は……!!」


 第二波、第三波と《黒炎》を放つ中、最初の第一波に比べ明らかに戦死者が増えて行っている。


 あの《力》は一体何処から湧いてくるのか……。


「もう少しの辛抱だ!あと一刻で良い!今の位置から奴らを動かすな!」


 既に配置完了した5万の魔道兵士達。


 一斉《魔法》攻撃の為の詠唱時間は約一刻。


 これだけの長距離からの一斉射撃だ。


 距離の計算と着弾までの威力維持から逆算しても、それが最短の詠唱時間となる。


 と、部下に指示を与えた所でエメル統括魔道兵士長が到着した。



「皆!敬礼!」


 エメル統括に向かい敬礼する5万の魔道兵士達。


「ああ~、良いよぅ~。みんな楽にして~。……じゃあ、早速で悪いんだけど~、目標地点に向けての詠唱を開始してもらえますか~?」


 エメル統括に促され、魔道兵士達に向き直る我。


「はっ!全魔道兵に告ぐ!目標地点に向け、《詠唱》を開始せよ!繰り返す!《詠唱》を開始せよっ!!」


 掛け声と共に『5万』の全魔道兵が詠唱を開始する。


「じゃあ、僕も《詠唱》を始めるから~、後は宜しくお願いしますね~」


 そう言い残しエメル統括は現場にいた新人の魔道兵士に向かって行った。





◆◇◆◇





「お待たせしましたぁ~。さあ、僕らも《詠唱》を開始致しましょう~」


 全魔道兵に指示を出したエメルは私達に声を掛ける。


「よっしゃあ!あたいらもこれがデビュー戦やもんなあ!気合入れて《詠唱》しいや、二人とも!」


 綾香が私達に向かい気合を入れる。


「綾姉が一番この中で『魔力』が弱いやんかぁ……。全くちゃっかりしとるわ……」


 明日葉が姉に突っ込みを入れる。


 みんな本当は不安で一杯なのに、こうやって場を和ませようとしてくれている。


 私も……覚悟を決めないと駄目だよね……日高君……。


「皆さんはもう、ここにいらっしゃる『魔道兵士』達に引けを取らない位に、ここ数ヶ月で急速に成長したのですよぅ~。統括である僕が言うんです~、是非とも自信を持って、《詠唱》を開始して下さい~」


 足元でエメルが私達に活を入れる。


「特に絵里さん~?貴女の成長は目を見張るものがありますよ~。こんな事態にならなければ、もっと教えたい事が沢山あったのですがねぇ~」


 エメルが私を見上げ、そう言った。


「ふふ……。有難う、エメルちゃん。それは教えてくれた『先生』が良かったからじゃないかな……。……うん。きっとそう。だから私……頑張るよ!」


 私の返答に満足がいったのか。

 エメルは笑顔で相槌を打ち、《詠唱》に入った。


 それを合図に私達3人も《詠唱》に入る。


 この『一斉《魔法》攻撃』の着弾地点には……日高君がいる。


 『あの日』私に、顔を真っ赤にしながら告白してくれた、同じクラスの男の子が。


 どうして私はあの時、首を縦に振らなかったのだろう。


 ……いや、そんな事はもう分り切っている。


 それは……彼がクラスでイジメの対象者だったから。


 私はその煽りを受けるのが怖かったから。



 そう、私は―――。



 ―――ずっと、ずっと好きだった男の子の告白を、最悪の形で裏切ってしまったのだから。



















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