俺、黒炎剣ってやつでやっちゃいました。
「《精霊》……?《盟約》……?」
次から次へとなんなんすか。
「論より証拠だ。ほむら。右手の甲を我の胸に」
「……はい?」
おいおいおい。
それっておっぴゃい触っても良いって事ですか?
俺は手を伸ばす。
「あ、いや、『右手の甲を』と言った筈だが?」
……ばれた。
俺は言われたとおり右手の甲をグロリアムの胸へと当てる。
おお、やらけー/////
「そして念じろ。我を念じろ。《剣》と《魔法》と《暗黒》を同時にイメージしろ」
「いっぺんに言われても分かりません」
「いいから念じろ」
「う……」
グロリアムを念じる……?
目の前の黒衣の女性。
壮絶な過去を乗り越えてきた女性。
親から捨てられ。
育ての親をバラバラに解体され。
育った母国から『異端者』として追われ。
《力》を得るために《精霊》と《盟約》を交わした一人の女性。
「……そうだ、いいぞ……。そして《剣》と《魔法》と《暗黒》をイメージするのだ……」
俺は言われたとおりにイメージする。
屈強な《力》を《剣》の形にイメージする。
壮大な《魔法》を《剣》のイメージに重ね合わせてゆく。
そして漆黒の闇を《暗黒》としてイメージし、《剣》と《魔法》に重ね合わせてゆく。
『―――我、汝の揮う《剣》《魔法》《暗黒》の力と成らん―――』
グロリアムの身体から赤黒い光が放出される。
「……え?」
うわ……。
なんとまあ、禍々しい暗黒の光だよ……。
こいつ、本当に《暗黒の国》の住人だったんだなぁ。
『余計な事をイメージするでないわ』
頭に直接響いてくる言葉。
直後。
赤黒い光が俺の全身を包み込んだ。
「うおっ!?」
焦る俺。
こええよ!
赤黒い光とか!
包まれても恐怖しか感じねえ!
そして俺の右手には―――。
―――何故か一本のアホみたいにデカイ剣が握られていました。
◆◇◆◇
『……成功だな。さすがはほむら。私が夫と見込んだだけの事はある』
頭にグロリアムの声が響く。
「おい、どうなってんの?これ?」
てか何処行ったのグロちゃん。
『……『グロちゃん』は止めてもらってもいいか?』
「じゃあ……『クロちゃん』?お前黒いから?」
『ぐ……。ま、まあいい。我はその剣……名を『黒炎剣』という』
「お前が……この『剣』に……?」
『ああ。《精霊》との《盟約》で我が手に入れた《力》……。それは我が夫となる人物にしか扱えない、強大な《力》なのだ』
強大な、《力》……。
この禍々しいまでの赤黒い光を放っている剣が……。
『……そろそろ射程圏内だな』
「え?」
『ほむら。一番高い所へ』
「……はい?」
……あれ?
なんか急に身体が軽くなったような感じ…。
重さを、感じない?
『当然だ。我の《身体能力》は今やほむらの《力》へと変換されておる』
え?
じゃあ一人の中学生男子をお姫様抱っこして階段の上りを10段飛びして登る事とかもできんの?
『……馬鹿な事を言っておらんと、高い場所へ』
へーい。
◆◇◆◇
とりあえず貯水タンクの一番上に上りました。
てかジャンプでひとっ飛びだったけど。
『北北西の方角、約80UL、《剣の国》兵団、数911。南南西の方角、約63UL、《魔法の国》魔術師団、数852。南東の方角、約101UL、《暗黒の国》不死兵団、数1211。……ふむ』
「……方角と兵士数まで分かっちゃうのかよ……」
しかも最後の一桁まで……。
『ほむら。これがお前の初戦闘だ』
「え?あ、はい……」
『ここで負ければ、お前の友人どもは慰め者にされるか、奴隷にされるか、喰われるか、だ』
うげっ……。
俺、何気に責任重大?
「……でも、なあ……」
『?どうした?』
「俺、別に……あいつらが死のうが喰われようが、別にどうでも良いんだけどな……」
『ほう……。これまた素晴らしい《暗黒》の素質を持っておるな、ほむらよ』
嬉しくねえよっ
「でも、まじで、俺、あいつらの事好きじゃないし……。てかどうでもいい?みたいな?」
『……そうか』
「俺ってさあ……友達とか、そういうのあんまり居なかったんだよね……」
……どうしてこんな事をクロに話してるんだろ、俺。
『これから作ればいい』
「これから……?ここで……?」
『ああ。この戦いに勝利すれば、ほむらはヒーローだぞ。ダークヒーローだ』
ダークな方かよ!
『一人は……嫌か?』
「え?」
『我は……、我は、嫌であった……』
「……」
……だよな。
ずっと逃げて来たんだもんな、お前。
誰にも頼る事も出来ずに。
自分の《力》だけを信じて。
「……うっし!」
『……ほむら?』
「えっと、これってさあ、攻撃するのもさっきみたいに『イメージ』すればいいのか?」
『あ、ああ…そうだが……。しかし《力》の調整法が……』
「さっきお前、言ってたよな?『射程範囲内』だって」
『?ああ?確かにそう言ったが…?』
俺はグロリアムに…『黒炎剣』に念じる。
全ての俺の想い。
悔しかった事。
我慢していた事。
悲しかった事。
辛かった事。
殺してやりたいと憎んでいた事。
そして。
グロリアムの悲しみも全部。
《剣》と《魔法》と《暗黒》の力に変えて―――。
「うおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
俺は黒炎剣を構える。
赤黒い炎が巨大な剣を包み込む。
当然俺もその炎に包み込まれる形にはなっているのだが。
何故か全く熱くない。
あ、そうか。この『炎』もグロリアム自身の『魔力』なんだ、きっと。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
俺は尚も魔力を高めてゆく。
やり方なんて分からない。
だからやってみるしかない。
『ほ、ほむら…!その『魔力量』は…!?』
なんかクロが言ってる。
もう俺には聞こえない。
全ての怒りと想いを乗せ―――。
「ううううおおおおおおおおりゃあああああああああああああ!!!!!!!!!」
―――俺は黒炎剣をその場で一回転して振り切った。
空間が割れた。
赤黒い炎は校舎の屋上を中心に真円状に広がった。
『これは…!!』
赤い炎の波はすぐ先まで迫っていた《剣の国》、《魔法の国》、《暗黒の国》の兵士らに襲い掛かる。
「はあ、はあ、はあ…!!!!!!」
その場にへたり込む俺。
『ほむら……』
「はあー……。うわ、俺、屁タレだな……」
一振りでもう駄目。
俺、体力無さ過ぎ。
結局、何をやっても駄目なのね。
諦めついたわ。
『違うぞ……ほむら』
?
違う?
何が?
『良く見ろ……。お前が、お前がやったんだぞ。『たったの一振り』で……』
「………え?」
俺が見た光景。
総勢約3000名の屈強な兵士。
俺の学校に攻め入ろうとしていた兵士達。
それらが。
そう、もはや『それら』が正しい言い方だ。
それらが―――。
―――ただの焼け焦げた煤の様になっておりました。