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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第六章 《鉄の剣の猛攻》
55/66

我、ドレスを着させられり。


『《魔法の国》:王都エターナルグルセイド』



 数日後。



「嫌だ」


 グロリアムの寝室。


「もう~……。いつまでもそんな子供みたいな事を言わないで下さいよぅ~……」


「ふふ……。ああ、可笑しいわ……」


 エメルにたしなめられているグロリアムの姿に苦笑するミハエル。


「だから、嫌だと言って……」


 エメルと数名のメイドに囲まれ身動きを取れなくされている我。


「駄目ですよぅ~。これから国民の前に出るんですから~……。いつもの真っ黒な服で出たりなんかしたら《暗黒の国》の暗黒兵と間違われちゃうじゃないですかぁ~……。今までだって、一体何度……」


 エメルのいつもの愚痴が始まり、耳を塞ぐ我。

 その隙に脇を取られ、ドレスの裾を通される。


「ふふ……。似合うわよ?グロリアム?」


 さっきから笑ってばかりのミハエルの表情はすこぶる明るい。

 その表情からも、まさしくこの日の為に女王として《魔法の国》を治めて来たという意図が読み取れる。




・・・



 あの日。


 女王陛下であるミハエル・ウィングルズから『皇位継承』の話を受けた日。

 我は彼女の『想い』の全てを聞いた。


 前女王軍と反政府軍との戦いは数ヶ月にも渡り繰り広げられ。

 そして数年前に『反政府軍勝利』として新生国が誕生した。

 その反政府軍を指揮していたのが現女王であるミハエル・ウイングルズである。


 彼女は王座に就いた後、すぐさま《魔法の国》の法律を大幅に改定。

 諸外国に対しては、世界で最も住みやすい、豊かな国と『うそぶいていた』前国政から、『本当に豊かで最も住みやすい国』へと短期間で改革を実行。

 世界では常識となっていた『奴隷制度』も廃止し、国民の信頼を絶対的な物とした。


 しかし彼女には妹の件が重く、心に圧し掛かっていた。

 未だに目を覚まさない妹。

 変わり果てた姿になってしまった妹。

 あの日。

 泣きながら《暗黒の国》の『黒の森』へと棄てさせた赤子は今頃どうしているのだろうか。

 考えるまでも無い。死んでしまっているに決まっている。


 だが、もしも。

 もしも彼女が生き永らえ、《魔法の国》に訪れる事があったのなら―――。


 ミハエルは微かな希望を胸に秘め、虐げられた国民の為に国を再生する。




・・・



「女王陛……じゃないや、ミハエル宰相~。笑っていらっしゃらないで、グロリアム女王陛下を説得して下さいよぅ~……。このままじゃあ、いつまで経ってもお着替えが済まないのですぅ~!」


 エメルがミハエルに助け舟を要求する。


「もう……女王陛下様?そろそろ観念して下さらないと、エメルが可哀想ですわよ?ふふ……」


 口元を押さえ満面の笑みのミハエル。


「むぅ……ミハエル……。その『女王陛下様』というのは止めてもらえないだろうか……」


「あら、どうしてかしら?」


「それならまた『グロさん』って呼んじゃいますよ~?嫌ならちゃんとドレスを着て下さい~!」


「ぐ……わ、分った……」


 抵抗を止めた我にチャンスと感じたのか、メイド達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 これがまたくすぐったくて敵わない。


「う……んん……ちょ、待て……!待ってく……んんっ!くすぐったいのだ……!おい、聞いているのかお前ら……!」


 何故かお腹を抱えながら声を殺し笑うミハエル。


「聞こえません~。みんな、今のうちに仕上げてしまいましょう~!」


 エメルの掛け声と共に更に攻勢を強めるメイド達。


「わ、分った……!く……、分ったから……!もう、抵抗はせん……ううう……!抵抗はせんから……!あ、う、く……!そんなにまさぐらないでくれええ!!!」





◆◇◆◇






「……」


 放心状態の我。


「うん~。ばっちりですねぇ~。お綺麗ですよ、陛下~?」


 大きな鏡の前で最終チェックを済ますエメル達。


「さあ……国民が待っていますよ、女王陛下。行きましょう……」


 ミハエルと数名の幹部の魔道兵士に連れられ、王宮のテラスへと向かう我。


 この国民に対するお披露目が終了すれば、我は正式にこの《魔法の国》の女王に就任する。


「……ミハエル。……本当に、良いのだな?」


 我は前を歩むミハエルに声を掛ける。


「……ええ。私はこの日をどれだけ待ち望んだ事か……。貴女の『生存』の報告を聞いたあの日から、私の止まっていた『時』が、ようやく動き出したのですから……」




・・・



 ミハエルから『皇位継承』の話を聞いたとき、彼女はこう言った。


『グロリアム。貴女には正式な皇位継承権があるのです。これは私の気まぐれでも、皇位を不当に放棄する行為でもありません。王座に就いた日から数年。ずっと待ち望んでいた事だったのですよ?』


 そう言った彼女の目には涙が溢れていた。


 しかし我は質問する。


 確かに我には元女王の妹の子としての血が流れているのかも知れない。

 しかし同時に《剣の国》の血も流れているのだ。

 これは『世界法律』の中でも最高の『国家反逆罪』として罪に問われる筈。

 そんな『犯罪者』が《魔法の国》の国民に『王』として受け入れられる筈が無い。


 だがここで、ミハエルは驚くべき返答をした。


『私が女王として王座に就いた時、一番最初に起こした改革が何だか分りますか?……それは『世界法律』を……《神》が作ったとされる『ルール』を……『壊す』事です』


 我は絶句した。


 何千年と続いてきた《三国》間で交わされている『暗黙のルール』。

 それを《魔法の国》の新女王は国を挙げて『破った』のだ。


 それにより『世界法律』の一つでもあった『奴隷制度』も廃止し、《魔法の国》は一躍『平和な国』として世界に広まって行ったらしい。


 まさか我の逃亡中のほんの数年でそこまで《魔法の国》が変化している事は当然耳に入るわけも無く。


 また、『あの日』、《黒炎精霊》のニーニャと《契約》を交わした我は先回りしていた暗黒兵からさらに逃れる為、予定していた《魔法の国》では無く、全く反対側にある《剣の国》へと逃げ込んでいたのだ。


 そして《剣の国》の兵士達にも見付からないように《暗黒の国》との国境の境にある小さな村を拠点に身を隠していた。




 そして、我を逃がす為に《契約》を済ませたニーニャは―――。



 ―――自身の『命』と引き換えに、暗黒兵士長であるロッジ・クリプトンを道連れに、この世を去ったのである。


















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