俺、ちょっと感傷に浸りました。(改稿済み)
「ああ、そうだ。覚えているではないか」
……まじか。
「見事にバラバラになっていたぞ。そりゃあもう花火が弾けたみたいに」
「例え怖ぇぇ!」
うわぁ。
俺、やっぱ死んでんじゃん……。
中山、少年院決定ー。
「だから我はほむらを《契約者》として導いたのだ。《契約の祭壇》へと」
そして俺はあんたと《契約》を交わした、と。
でもなんで夫?
「我が妻では不満か?」
「不満です」
「うぐっ……。そんなにはっきり言われると、さすがに落ち込むな……」
だっていきなり契約とか妻とか?
普通に考えても、簡単に信じる馬鹿はいないだろう。
しかも、何度も言うけど俺は未成年。
お受験も控えてるし、変なことに巻き込むのは止めてもらえますか。
「むぅ、困ったぞ。我はどうしたら……」
あれ? 困ってる……?
力づくで従わせるような奴ってわけじゃないのか……?
うーん……。
「でもまあ、頼んだわけじゃないけど、俺を生き返らせてくれたみたいだし……」
あのまま死んだままでも別に良かったんだけど。
せっかくだから、もう一度新しい人生を始めてみてもいいのかも。
「……良いのか? 本当に?」
「ああ。ていうか、もうすでに後戻り出来ない状況にあるんだろ?」
「……そうだ。じきに敵兵がこの建造物に攻めてくる」
――そう。
事態は刻々と変化している。
まあでも、ちょっと考えてみたら何となくだが理解できる。
とある異世界に、戦いが膠着状態の三つの国があったとして。
その世界のど真ん中に、突如別世界から建造物が現れたのだ。
各国首脳はそれを、自国を脅かす『砦』と認識する可能性が高いのではないか。
もしくは、他国を攻め入るための拠点として我が物にしようとか考えているのかもしれない。
「それにしてもいきなり兵士達を1000人って……」
「いや、《剣の国》、《魔法の国》、《暗黒の国》がこぞってこの場所に兵を集中させている。総勢3000もの兵士がここを落とす気でいるぞ」
……まじですか。
「共倒れとか、期待出来ない?」
「無理だな。何百年も続いてきた三国時代……。それにはちゃんとした理由があるからな」
彼女の説明を要約すると、こうだ。
《剣》は《魔法》に弱い。
《魔法》は《暗黒》に弱い。
《暗黒》は《剣》に弱い。
《剣の国》の兵士達は、その身にまったくと言っていいほど魔力を宿していないそうだ。
だからこそ《魔法の国》の魔術師達の攻撃を防ぐ手立てが存在しない。
逆に《魔法の国》の兵士達は物理的な攻撃を苦手としている。
《暗黒の国》の不死集団が使う『封印』の幻術で魔法を封じられてしまえば、それで終了。
あっという間に捻り潰されてしまう。
そして《暗黒の国》の不死集団。
不死の存在である彼らだが、それがゆえに肉体の状態が安定していない。
つまり防御に関しては魔術師よりも遥かに弱く、活動不能状態にまで全身をバラバラにされてしまえば一巻の終わり。
これが何百年も膠着状態が続いている所以らしい。
「……ん? で、お前はどこの国から逃げてきたんだ?」
そういえば、まだ彼女がどこの国の出身なのか聞いていなかった。
《剣》か《魔法》か《暗黒》か。
彼女がどの国に属しているかで今後の方針が決まってくるだろう。
「……」
……?
なんでそこで寂しそうな顔をするんだ?
聞いたらマズいことを聞いちゃったのかな……。
「我は、な……」
そこで区切るグロリアム。
「……どこにも属せなかった落ちこぼれなのだよ、ほむら」
◇
グロリアムの過去。
《剣の国》の兵士を父に持ち。
《魔法の国》の魔術師見習いを母に持った不幸な少女。
彼女の母は子を産んだ直後に不死の集団が集う《暗黒の国》へと彼女を捨てた。
「……おい……それって……」
一人の不死者の老婆に拾われた彼女。
その老婆のお蔭で他の不死者どもに喰われることなく成長したのだ。
「ああ。そして見付かってしまったのだ。不死者達の王、ヴュラウストスに」
当然、行き場を失うことになったグロリアム。
育ての親の老婆は108片の肉塊に裂かれ、封印されてしまった。
しかし《剣の力》を宿すグロリアムを容易に捕らえることが出来ない不死の兵士達。
そして――。
「――我は《精霊》との盟約に応じたのだ。これから先の未来に起こる事象に対抗するべく、《力》を得るために」