我、真実を知りけり。
彼女は《魔法の国》の中でもかなりの美人の部類に入るであろう魔道兵士。
しかし、彼女には他者を圧倒するほどの《魔法》の才能があった。
それは最強の大魔道士である姉と肩を並べられる程強大な《魔力》。
いつも姉と比べられる彼女は、日夜必死に魔力強化の為の修行を推し進めていた。
恋愛などにかまけていられる時間など、彼女には存在しなかった。
そして、初めて恋に落ちたのが、《剣の国》の兵士長だった。
彼女は短剣を床に落とし、《魔法》で眠る兵士長の胸で泣いた。
殺せない。殺せる筈がない。
今までの何度かの遠征で《暗黒の国》の兵士とも戦った。
彼らの持つ《封魔の力》はルーメウスの《魔法の力》を無効化する。
戦闘中に窮地に立たされるルーメウスを何度も救ったのがこの兵士長だった。
《暗黒兵士》に対してだけ、何故か戦闘の切れが悪くなるルーメウスに対し、特に詮索する事も追求する事も無い兵士長に対し、徐々に心を惹かれていったルーメウス。
そして明くる日の夜。
遠征最後の夜に、ルーメウスは兵士長に抱かれ、一夜の夜を共に過ごした……。
・・・
それから数ヶ月。
ある日を境に一向にルーメウスから連絡が入らなくなったミハエルは焦っていた。
まさか潜入が発覚し殺されてしまったのか?
もしくは何処かに幽閉でもされているのだろうか?
しかしそれならば、何かしらの要求が《剣の国》から我が国にへと送られてくる筈。
来る日も来る日も連絡が来るのをひたすら待ったミハエルの元に、突如戻ってきたルーメウス。
泣き腫らした彼女の下腹部には、赤子の存在を示す大きなお腹が見て取れた。
・・・
子供が出来てしまった事に困惑するルーメウス。
正直に兵士長に伝えると、満面の笑みで抱き締めてくれた。『よくやった』と。
しかし、彼女はまだ伝えてはいなかった。
自身が《剣の国》の兵士では無く、《魔法の国》の魔道兵士だと言う事を。
伝えてしまえばどうなるか、そんな事は考えるまでも無かった。
しかし、彼女は『もしかしたら』という期待にすがり付き、ある日の夜兵士長を人気の無い場所へと呼んだ。
真実を話すルーメウス。
もしかしたら、彼ならば分ってくれるかも知れない。
一緒に《剣の国》からも《魔法の国》からも逃げ出してくれるかも知れない。
私と―――私のお腹にいる私達の子を―――これからもずっと、守ってくれるかも知れない―――。
そんな彼女の希望は『現実』にいとも容易く壊された。
動揺する兵士長。
みるみるうちに顔が凶変して行く。
騙された、俺は、騙された。
俺は国家反逆罪を犯してしまった。
俺は、これからもっと昇り詰めて行く男なのに―――。
彼は腰の剣を抜いた。
お前さえ、居なければ。
お前さえ、俺の前に現れて来なければ。
お前さえ、殺してしまえば―――。
―――俺を騙しやがって。
彼女は逃げた。
追いかけてくる愛する男の剣から逃れるため。
この身に宿す、大事な子を守る為。
ルーメウスは泣き崩れるのを我慢し、《剣の国》から逃亡する―――。
・・・
事情を聞いたミハエルは驚愕する。
しかし、コレだけ大きく膨れ上がった妹の腹を見たミハエルは、ルーメウスの狂気なまでの懇願を泣く泣く受け入れ、街の隅にひっそりと佇む小屋に匿う事にした。
信頼出来る一人の乳母にルーメウスを任せ、彼女は一切の出来事を隠蔽した。
真実が知られてしまえばルーメウスは『国家反逆罪』の罪で極刑に処されてしまう。
今の女王ならば、何の慈悲も無く、平然と打ち首にするだろう。
既に現女王のやり方に不満を持つ宰相や幹部、それに国民の大多数は今の王政に反対派の者が7割は存在するだろう。
そんな中、国民の支持を集めているルーメウスが極刑になるのは女王の王政を長引かせる結果に繋がってしまう。
そう判断しての隠蔽。
彼女はそう、自分自身に言い聞かせていた。
・・・
それから更に数ヶ月。
ルーメウスは行方不明という形で国民に広まっていた頃。
ついに小屋に産声が上がった。
歓喜に涙を流すルーメウス。
しかし、もはや今の状態の彼女にはこの国には居場所が存在しない。
だが、この赤子さえ居なくなれば―――。
女王や国民には『《剣の国》に永くに捕らわれていた大魔道士ルーメウスの帰還』と銘打つ事が出来るのではないか?
未だに彼女が持つ国民の絶対的な支持を復活させ、女王の悪政に抵抗出来るチャンスなのでは無いか?
そう考えたミハエルが起こした行動は、更にルーメウスを追い込む結果となった。
幾度無く衝突する意見。
今まで姉妹喧嘩など一度もした事がない彼女らに、初めて訪れたすれ違い。
そしてぶつかり合いが2ヶ月ほど経ったある日。
遂に折れたルーメウスは従者とともに《暗黒の国》へと密に向かい―――。
―――呪われた『黒の森』と呼ばれる森で我が子を捨て去る決心をしたのだった。




