我、故郷に帰りけり。
『学園要塞より南南西1700UL』
「……や、やっと着いた~……。もう足パンパンやわぁ~……」
その場にへたり込む学生ら。
流石に休憩無しでここまでは彼らにはきつかったか…。
しかしそうも言っていられ無いのも事実。
いつ『学園要塞』に在中する《剣の国》の軍団がゼノンらの敗走を耳に入れるか分らない状態なのだ。
我らを取り逃がしたと知れば、必ず追いかけて来るだろう。
ほむらの中に眠る《黒炎の力》を最大限発揮するには、この我が必要不可欠なのだから……。
「よく頑張りましたね、皆さん~。ここなら少し休憩出来ますよ~。食糧や水もある程度は確保してありますのでちょっと英気を養いましょう」
ひょこっと我の肩から降り、魔術語を唱えるエメル。
そして砦の門に刻まれた紋章が淡く光り門が開かれる。
「……門兵は居らぬのか?」
人気の無い砦の門を潜り、我はエメルに質問する。
「……あ、はい、そうですよ。《魔法の国》は《三国》の中で最も国民の少ない国ですからねぇ~…。人員削減です~」
人員削減、ね……。
しかしそこは《魔法の国》。
門兵など存在しなくとも《魔法》により厳重な『鍵』を掛けておけるのであれば《暗黒の国》の暗黒兵にでも襲撃されなければ砦が落とされる事も無い。
また、門兵が数名いた所で同じ事。
結局は暗黒兵に攻められでもしたら即座に落とされてしまうのが、この世界の《力関係》なのだ。
ならば無駄な人員を省こう、というのが新たな女王の考え方という訳か……。
『合理主義者』
大魔道士ミハエル・ウィングルズはその『意味』を良く理解している人物なのか。
それとも……。
エメルに続き砦内へと歩を進める学生達。
全員が砦に入った所でエメルはまた魔術語を唱え、門を閉じ『鍵』を掛けた。
これで《剣の国》の兵士らに襲われる心配は無い、という訳か……。
ただし『《暗黒》の宝具を持っていない』という条件付きではあるが。
我らはしばし、この砦で休憩をする事にした。
◆◇◆◇
2刻ほど休憩をした我らはエメルの先導の元、砦の地下にある《転移装置》の前で待機する。
「ええと……僕とグロリアムさん…そして学生さんが全部で8名……。うーん……ギリギリ一回で飛べる人員かなぁ……。………よし」
準備を終えたのか、エメルが我らを《転移装置》の魔法陣の上へと案内する。
淡いブルーの光を放っている魔法陣に全10名が立つ。
「……ちょ、狭いやろこれ!ギュウギュウ詰めやんかあ!」
「ちょっと綾姉……お尻が邪魔やわ!」
「あ……明日葉……そこは押さないで……あんっ!こら、どこ触って……んん!」
狭い魔法陣内で押し合いへし合い状態の我ら。
「むぎゅぎゅぅ……ぐ、グロリアムさん……。僕……魔法を唱えるどころか……息が出来……むぎゅぅ……」
何故か学生らに押され、我の胸の間に顔が挟まり窒息しそうなエメル。
どうしてそんな場所にいるのだ……。
我はエメルを抱え、肩車の形で上に載せる。
「……全く……世話の焼ける魔道兵士だな……」
「……す、すいません……。女王陛下からも良く言われます……。……では、行きますよ~……」
目を瞑り魔術語で《魔法》を唱えるエメル。
淡いブルーの光が徐々に強さを増して行く。
「……では、皆さん目を瞑ってください……!……《トランジション・バウンダリィ》!!」
蒼の光が我らを包み込む。
意識と身体が光に吸い込まれて行く。
・・・
「……ふう。流石にこの人数をいっぺんにはきつかったですねぇ~…。僕の《魔力》もギリギリっぽかったですぅ~……」
目を開けると風景がガラリと変わっていた。
「ここが……《魔法の国》の領土……」
我はその景色に目を奪われる。
「……あ、そうでした。グロリアムさんは《魔法の国》は初めてなんでしたけ……。ふふ……どうですか?『故郷』に帰って来た感想は……?」
丘に設置された《転移装置》。
すぐ下には幾つもの街が見える。
それらが眩いばかりの輝きを増し、丘を照らす。
そして地平線の向こうには……海か?
その海の上にもいくつもの都市が存在している。
これが……《魔法》の技術なのか……?
「……ん……あ……見て!みんな!凄いよ景色が!」
目を覚ました絵里が皆を起こす。
「おおお!なんやコレ!?ちょ……なんであっちの海の上に都市が浮いとるんや!?」
「綾姉!あっちには金ぴかに光っとる宮殿みたいなのがあるで!」
学生達が騒ぎ出すのも無理は無い。
あまりにも煌びやかな都市の出現に、この世界の住人でもある我まで目を疑うくらいなのだから。
しかし……。
「……故郷?おかしな事を言うな、エメル。我の故郷は《暗黒の国》にある『黒の森』だ。ここでは無い」
足元のエメルをきつく睨みそう言う我。
「……いいえ、それは違いますよ、グロリアムさん。確かにここは貴女の『故郷』です。……ほら、見えますか?あの都市の端の方にある小さな小屋が……」
エメルは一つの小屋を指差す。
「……あれがどうしたと言うのだ?」
「……ふふ。グロリアムさん」
私を笑顔で見上げながらもエメルは言った。
「……貴女はあそこで『生まれた』んですよ。母君の……『ルーメウス・ウィングルズ』様のお腹から―――」




