俺、お姫様抱っこされました。(改稿済み)
「おいおいおい……。どうなってんだよ、一体……」
一体どこだよ、ここ……。
なんで校門の前がいきなり荒野とかになってんだよ。
しかも延々と、遥か彼方まで荒野が広がってんじゃねえかよ。
俺、こんなド田舎の中学に入学した覚えはないんですけど。
「ようこそ。《剣》と《魔法》と《暗黒》の世界へ」
「……へ?」
いつの間にか目の前に見ず知らずの女が立っていた。
って、おいおい、お前は――。
「……む? もう勘付いたか、奴等め」
「……はい?」
夢の中に出てきた黒衣の女。
なぜそいつが俺の目の前にいるんだ……?
「話はおいおい、だな。来い」
「ちょっ……!」
女に腕を引かれ、俺は教室を後にした。
幸いクラスの奴等は全員外の様子を眺めているお蔭で、この女の存在には気付いていない。
「ちょ、おい……! 痛ぇよ! 腕! 痛いです!」
「時間が無いのだ。我慢しろ、旦那様」
……今、なんつった?
「ちっ、数は……各国それぞれ1000前後か。総数約3000。いけるか……?」
「おい! 何を一人でぶつぶつ……! てか『旦那様』って何だよっ!」
「ん? ……まさか『あなた☆』のほうが良かったのか?」
「言いかた違うっ!」
☆もいらねぇ!
そうじゃなくて!
「とりあえず見通しの良い場所に出なければいかんな」
「聞いて人の話! そして腕痛いです!」
「旦那様よ。この建造物の中で周辺を見渡せる場所はどこだ?」
「だから……ん? 『建造物』って……この学校のことか?」
「そうだ。どこだ?」
「どこって……。そりゃあ屋上、とか?」
「行くぞ」
「うわっ!」
……何故か俺、お姫様抱っこされました。
「やだ! 離して! 恥ずかしい!」
「騒ぐな」
「騒ぐよ! おろせ!」
何を考えてるのかさっぱりな女は嫌いだっつの!
「あそこか」
黒衣の女はそのまま俺を抱え、屋上に向かう階段を10段飛ばしくらいで駆け上がっていく。
……おい。
「よし。ここならいけるな」
そしてあっという間に屋上へ到着。
あまりにも俺がいやいやと騒ぐから、降ろしてくれたのはいいんだけど。
お姫様抱っこってこんなに怖いものだったっけ?
「……説明、して下さいますか?」
つい敬語になっちゃった。
ていうか、まだ足が震えている。
「距離は……約300ULか。まだ射程外だな」
なんか物騒な言葉が聞こえてきたんですが。
「少しなら時間がある。……この世界のことを説明しようか、旦那様」
――そして黒衣の女は語る。
◇
説明受けました。
以下、その説明から抜粋。
この黒衣の女の名前は『グロリアム・ナイトハルト』。
こっちの世界から俺のいた世界へと逃亡してきた言わば『逃亡者』だという。
言われてみれば納得。
だってそんな感じの格好だし?
黒い服で目立たないように、みたいな?
……でだ。次に『こっちの世界』のこと。
三つの国が鬩ぎあっている世界だそうで。
《剣》の国である『ノースブリュッセルム』。
『剣聖アリアンロード』が治める武人達の国。
《魔法》の国である『エターナルグルセイド』
『大魔道士ミハエル・ウィングルズ』が治める魔術師達の国。
《暗黒》の国である『グランディアサーヴァント』
『不死の王ヴュラウストス』が治める不死者達の国。
……うん。
わけ分からん……。
「それを今すぐ信じろと言われても困るんだけど……」
「今はそれでも構わん。力を貸して貰えるのであればな」
「力を……貸す?」
……なぜ、俺?
「そうだ。旦那様の――」
「それ、もういい加減に止めてもらえねえかな。俺、まだ15歳なんだけど」
「うっ……。では何と呼んだらいい?」
「何って……普通に。日高、とか。ほむら、とか」
「そうか。では、ほむら」
下の名で呼ぶんだ……。
まあいいけど。
「ほむらの《力》――。それはお前の右手の甲にすでに宿っている」
「右手……?」
……あ。この痣のことか?
「その痣は《契約》の証。ほむらが我が夫となったことを示す紋章のようなものだ」
「ぶっ!!」
だから!
さっきから旦那様とか、夫とかわけの分からないことばかり……!
「……覚えていないのか?」
……覚えていない?
……。
え?
もしかして……あの夢のことを言ってるのか?
「……じゃあ、まさか、俺って――」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「――あのとき、本当に一度死んでいるのか?」