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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第四章 《主と剣の決別》
39/66

私、温泉に入りました。


『《暗黒の国》:黒の森より西、6500ULウムラウト



 更にあれから数日が過ぎ、私とニーニャは国境まで約半分の距離まで進む事が出来た。


 途中何度か街に寄り、食糧を調達したり宿を取ったりもした。

 私とニーニャの顔は私の《偽装カモフラージュ》の《封魔》により《暗黒の国》の住人寄りの顔に変化させ。

 先の予測には《予兆オーメン》の《封魔》を使い危険回避を試み。

 《予兆オーメン》の力が及ばない範囲での判断はニーニャが素早く判断し行動。


 私達は何とかお互いの力に助けられ、ここまで来る事が出来ている。


 もしかしたら、おばば様がニーニャに私を任せたのも、ここまで予測していたからなのかも知れない。

 おばば様なら、きっとそうだ。

 おばば様のする事が間違っていた事なんて、今までに一度だって無かった。

 だからきっとおばば様は無事な筈……。


 私はここ数日、ずっとそう自分に言い聞かせていた。



「……グロリアム?この宿、珍しく温泉があるみたいよ?」


 ニーニャが嬉しそうな顔で部屋のドアを開ける。


「ホント?……あ、でも、私達今……」


 『逃亡者』という言葉を直前で飲み込む私。

 ここはまだ《暗黒の国》。

 誰が何処で何を聞いているか分ったもんじゃない。


「……そうね。でもここの温泉、貸切みたいだし……。少しは旅の疲れを癒さないと、この先持たないわよ?」


 ふっと力を抜いた笑みをするニーニャ。

 確かにニーニャの言う通りだ。

 ここ数日間、私達はずっと気を張り詰めたまま行動している。

 正直言うと、かなり精神にも疲弊が溜まって来ているのは確かだ。

 それにニーニャが提案してきた事だ。

 この宿はかなり安全な方だという調べがついての発言。

 私の《予兆オーメン》にも不吉な兆しは見られない。


「……そう、だよね。……じゃあ、入っちゃおうか、一緒に……」


 そして私達は宿の温泉へと向かう。





◆◇◆◇





「うわ……!すげぇ広い……!なんだこれ………!!」


 温泉に入るなり、そこは何種類もの色の違う風呂が広がっていた。


「ふふ……。ここの主人が、以前《剣の国》に使者として出向いた時に感動して自分の宿にも作ったそうよ?ほら、あの国は至るところに温泉が湧いているらしいから……」


 そう言えば以前おばば様からも聞いたことがあった。

 私には当然記憶は無いが、《剣の国》は世界でも有数な温泉大国だという事を。


「……貸切になっているから、もう《偽装カモフラージュ》を解いても大丈夫じゃないかしら。……流石にこの『顔』のままでは洗い辛いし……」


 確かにニーニャの言う通りだ。

 そもそも《暗黒の国》の住人は風呂には入らない。

 今私達は《偽装カモフラージュ》の《封魔》により、醜悪な《暗黒の国》の住民に近い形相のまま風呂に入っている。

 流石にここでは《封魔》を解いても問題はないだろう。

 何かあれば私の《予兆オーメン》が反応するだろうし、それにニーニャもいる。


 私は軽く暗黒語を呟き《偽装カモフラージュ》を解く事にした。


「……はぁ……やっといつもの顔に戻れたわ……」


 綺麗な肌を取り戻したからなのか、嬉しそうな顔をするニーニャ。

 女の私からみても、整った綺麗な顔をしているニーニャは、間違い無く美人の部類に入るのだろう。

 でも未だに不思議に思う。

 ニーニャは一体『何処の国』の出身なのだろう。

 雰囲気から察するに、きっとおばば様は全ての事情を知っているみたいだった。

 でも私には何も知らされていない。

 いつかきっと、ニーニャの口から教えて貰えると信じていた私は、さして気にもせずに過ごしていた。


「ねえ、ニーニャ?背中流してあげるよ!」


 洗い場にニーニャを誘導し、無理矢理にバスタオルを引っぺがす私。


「あ、ちょっと……駄目っ!」


 ニーニャがバスタオルで身体を隠そうとするが、既に遅かった。

 私はニーニャの背中にある『それ』を発見してしまったのだ。


「……ニーニャ?……その背中は……?」


「……はぁ……見られちゃったわね……。もう……ジル様からは《魔法の国》に着くまでは黙っている様にと言われたのだけれど……」


 ニーニャは観念したようにバスタオルをすっと床に落とした。

 綺麗な身体。

 手も足も長く、形の良い胸が露になる。

 下に生えるものは全く生えておらず、まるで少女のようなで立ち。


 そして彼女は後ろを向いた。


 背中には大きな黒いあざがあった。

 まるで……大きな炎をかたどったような痣。

 そう。

 まるで御伽噺おとぎばなしに出てくる『黒炎』の様な……。


「……この痣は……?」


 ニーニャは再びバスタオルを羽織り、こちらを向く。


「……グロリアム。驚かないで聞いてくれる?」


 ニーニャが私に真剣な眼差しを向けて話す。


「……うん。ずっと……ずっと待っていたよ。ニーニャから話してくれる事を……」



 そしてニーニャは―――。



 ―――ひとつの『昔話』を語り始めた。


















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