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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第四章 《主と剣の決別》
38/66

私、夢を見ました。

『《暗黒の国》:黒の森より西、約1000ULウムラウト



「(……どう?グロリアム?)」


 身を屈めたニーニャが小声で私に話しかける。


「(……《黒槍兵士団》……ここから約南に80ULウムラウトの地点に……数は約50、かな……)」



 おばば様に助けられた私達は森の西を2日掛けて真っ直ぐに進んだ場所。

 見晴らしの良い丘に登り休憩をしている最中である。


「ふぅ……それだけ離れていれば見付かる事は無いわね……。はぁ……疲れたわ……」


 ニーニャは岩陰にその身を預け目を瞑る。



 この2日間はずっと精神を張り詰めっぱなしだった。


 おばば様から《予兆オーメン》の力を授かったとはいえ、カイルのような打ち消しの《封魔》を持っている奴がいたらそれまでだ。

 自身の能力に溺れる奴から命を落とす……。ここはそういった非情な世界なのだから。


 なので私が《予兆オーメン》を使用している最中は、ニーニャが周囲の状況を確認し歩を進める、といった連携プレイで、やっとの事でここまで来れたというわけだ。


「……私も流石に疲れたよ、ニーニャ……」


 目を瞑るニーニャの横で、私も同じ様な形になり少し眠る事にする。





・・・





 そして私は夢を見る。


 あれは母だろうか?

 そしてあの鎧を着た人物は……父?


 そして父らしき人物が母を突き飛ばし、馬に跨り何処かへと走り去ってしまう。


 残された母は、その身を崩しながらも涙を流し、嗚咽を漏らしている。



 場面が変わる。



 苦しそうな表情の母。

 周りは非常に狭い、小汚い雰囲気の小屋だろうか。

 母のうめき声が響き渡る。

 一人の老婆が母の下半身に手を伸ばす。

 一際大きく叫びを上げる母。


 そして老婆の手には一人の赤子が取り出された。


 あの子は……私……?


 これは……私が生まれた時の夢なのかしら……?



 さらに場面が変わる。



 神妙な面持ちの母。

 手には満面の笑みで母に抱きついている赤子の姿が。

 周りは闇に覆われた森。


 ここは……黒の森、よね……?


 母親は木の幹に赤子を優しく下ろす。

 そして何度も赤子に向かい謝罪の言葉を述べる。

 泣きながら、何度も、何度も、謝罪の言葉を述べる。


 なかなか赤子の元を離れようとしない母を、従者がなだめ。

 母は従者の乗る馬の後ろに跨り、泣いたまま顔を伏せた。


 暗い森に一人残された赤子。

 自身に何が起きているのか全く理解をしていないのであろう。

 赤子は母に向けたのと同じ笑みを、暗き森に対し向けていた。



 森がざわついた。



 赤子の元に、数匹の《暗黒の国》の亡者が集まった。

 きっとこの『黒の森』の住人達であろう。

 彼らは涎を垂らしながら、その耳まで裂けた口を大きく開け、赤子に近付く。


 そして亡者共が赤子に襲いかかろうとした刹那。


 彼らの動きが一瞬にして止まる。



 ……あれは……おばば様の《停止ストップ》……?



 そして森の奥から現れる一人の老婆。


 彼女は赤子を拾い上げ、その表情に驚く。


 赤子は襲われる瞬間も、醜悪な老婆に抱えられた瞬間でさえも、笑顔のままだった。


 老婆は赤子の笑顔につられるようにして笑みを作り。


 そして小さく笑ったように見えた―――。





・・・





「……グロリアム?起きて……」


 ニーニャに肩を揺さぶられ目を覚ます私。


「……あ、ごめん。本気で寝ちゃってたみたいだね……」


 目を擦りながら目を覚ます私。

 辺りは相変わらずの闇。

 一日中闇の世界では、どれ位時間が経過したのかを判断する事が難しい。


「……どれ位寝てたか分る?ニーニャ?」


「大して寝ていないわよ。……一刻半、て所かしら」


 私を起こしたニーニャは、起き上がり埃を叩く。


「そっか……。どうする?もう出発する?」


 私達が目指す場所。

 それはここから更に西に10,000ULウムラウト程真っ直ぐに向かった場所。

 厳重に警備されたその場所は、いくつもの砦が規則的に並べられている《魔法の国》との国境線。


 この2日間ニーニャと話し合った結果、ここ《暗黒の国》で既に『国家反逆罪』の罪で追われる身となった私にとって、もはや居場所が無いと判断。

 ある程度は『三国』の中でも治安が良いとされている《魔法の国》に潜り込み、身を潜めようというのが私達が出した結論だった。


「……そうね。ここに長くいればいるほど、私達にとって不利な状況が増すだけだし……」


 私はニーニャの言葉を聞き立ち上がる。


「……おばば様は……」


「……心配なのは分るけど、今は私達が国外に逃げる事だけに専念しましょう、グロリアム。……それがジル様の『意思』なのだから……」


 辛そうな顔でそう言うニーニャ。

 でも、その言葉を言ってくれるからこそ、私はニーニャと共に行動が出来る。

 もしも、私一人だったら……。

 きっとすぐにでも『黒の森』に戻り、またおばば様を困らせていたのかも知れない。


 足手まといになる事は分っているのに。

 私が傍にいたら気が散って、本気で戦う事が出来ない事も理解しているのに。


 それでも多分、私はおばば様の所に戻っていただろう。



 私の家族は―――。



 ―――この世におばば様しか、いないのだから。



















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