我、合流を果せり。
『学園要塞より南西500UL:草原地帯』
「……」
我は無言になり走り続けていた。
そろそろ井上らの姿が見えても良い頃なのだが……。
「……あのぅ……グロリアムさん……?やっぱりお気に障りましたでしょうか……?母君の事……?」
肩に乗せたままの幼女がおずおずと顔を向けてくる。
「……我には『母』はおらん……。もちろん『父』もな……。我の家族は『おばば様』だけだ……」
「……グロリアムさん……」
そう。
我がほむら達をこの世界へと、《黒炎の力》を使い『召喚』させた理由の一つ。
それは未だ《暗黒の国》の牢獄深くに捕らわれているおばば様……『ジル・ブラインド』の救出。
学園要塞が『戦士の集まった要塞』では無かった事が誤算ではあったが……。
ほむらの持つ《力》が本物だったという事は、先の《黒炎》の一撃で数千の兵士を葬った事でも証明済み。
《剣の国》にほむらが捕らわれる前に、ほむらを奪還しなければ……。
「ふふ……」
我は……クズだな……。
「……グロリアムさん?」
我の願望を叶えるためならば、どんなものでも利用する。
『あの日』我はそう誓ったのだ。
全てのものを憎み、恨み、復讐の炎に身を焼かれ。
そうして早10年の歳月が経ってしまった。
(……ニーニャ……。本当に我は……これで良かったのだろうか……)
今更弱気になった所で誰も我を許してはくれないだろう。
そんな事は最初から覚悟はしている。
今はいい。余計な事は考えるな。
我は我の『使命』を果すだけだ……。
「……あ。そう言えば僕、まだグロリアムさんに名乗っていませんでしたね~。僕の名は『エメラルド・ジアース』って言うんです~。皆からは『エメル』って呼ばれてます~。だからグロリアムさんも『グロ』って……」
「駄目だ」
「うう~……どうしてですかぁ~……」
エメルはがっくりと肩を落とす。
こいつ……多分わざとやっているのだろう。
我を元気付けようとでも言うのだろうか。
こいつは《魔法の国》の使者。
あわよくば我らと『同盟』を組もうとしている事は明らかだ。
しかし『学園要塞』と『ほむら』までもが《剣の国》に堕とされていたとしたらどうだ?
きっと掌を返して我らを殺害するか捕虜とするか、もしくは己の性の捌け口とするのか。
この世界は全てが『疑心暗鬼』で動いている世界。
用意に心を許す事など出来ぬと言うのに……。
「……あ。見えて来ましたよ?彼らでしょう?逃げた生徒さん達って……」
エメルが指差す先。
確かに井上らの姿が見える。
「ふう……無事だったか……」
我は手を振り、井上らと合流を果した。
◆◇◆◇
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「……あのぅ……グロリアムさん?……この状況は……というか女性陣の顔が何か……」
合流した早々。
井上と蓮見姉妹の女生徒3人に囲まれる形となったエメル。
我にも状況が把握出来ない。
「……あの……どうしてそんなに怖い顔で……僕ににじり寄って来るのでしょうか……?」
そうエメルが話した瞬間。
彼女らは暴走した。
「ぼぼぼ……『僕』だってーーー!///きゃああああああ!!///可愛すぎるーーー!!!」
「こ、こらあ!綾香ぁ!一人占めするなぁ!///ねえねえ、エメルちゃんって言うの?そっちのお姉さんよりあたいの方が……!」
「(ダラララ………ニヤ……)」
「ちょっと明日葉!何ニヤニヤしながら鼻血出してんのよ!汚いから拭きなさいっ!」
「……ちょ…!……むぎゅぅ……ぐ、、、ぐるぢい、、、グロリアムさん……むぎゅぎゅぅ……み、見てないで助け……!……ぶばふっ……!」
何だか色々と柔らかい物に押し競饅頭されているエメルに対し私が出来る事と言えば……。
「ちょっと!そこのグロリアムさんっ!……ぐぇ……な、なんでお祈りのポーズだけ取って……むぎゅぅ……ぼ、僕を放置なんですかあああああ!!!!」
「「「きゃあああああああ!!!!//////」」」
黄色い歓声に包まれた草原。
こいつらは今の現状を理解しているのだろうか。
それともエメルはそんな現状を吹き飛ばす程の何かの《魔法》でも唱えたのだろうか。
我には到底理解出来ん。
我は何故か砕けた表情でふっと溜息を吐き……。
取り合えず彼女らの気の済むまで小休止する事にした。
「……ホント……助けて……ぐだざい……むぎゅぎゅぎゅぅ…………キュウ……」




