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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第四章 《主と剣の決別》
35/66

俺、自我を乗っ取られました。


 静まり返る学校。


 スピーカーからは雑音しか聞こえない。


 私はただ耳を塞ぎ、蹲りながら、泣く事しか出来なかった。


 裏切られた。

 ようやく自分の人生で、ようやく初めて、心から信頼出来る親友と、出遭えたと思ったのに。


 騙されていた。

 私が精一杯、背伸びまでして、守ろうとしていた学園の生徒を危険に晒した張本人が彼女だった。


 見捨てられた。

 そして彼女は『予知能力』を使い、この学園が攻め込まれては勝ち目が無いと判断したのだろう。

 普段全く興味を示さなかった食糧調達にこの日だけ志願し、出掛けたのも。

 私達を囮にして自分だけが逃げ延びる為の計画。そうとしか考えられない。


 私は嗚咽を漏らしながらも泣き続けた。


 裏切られた騙されていた見捨てられた―――。

 裏切られた騙されていた見捨てられた―――。

 裏切られた騙されていた見捨てられた―――。



『……緒方理事長……聞こえて……聞こえていますか……?』


 スピーカーから日高君の声が流れる。

 私は泣きながら顔を上げた。


『……緒方理事長……聞いていて下さっていると信じて話します。……俺達は《剣の国》に敗れました……。俺はもう……これ以上の被害を出したくはありません……。だから……もう、良いですよね?』


 日高君は多分、泣いているのだろう。

 『これ以上の被害』という部分で、泣いていたのが伝わってきた。

 きっとこの『意味』は、彼の目の前で、『彼女達が』という意味である事は、全ての放送を聞いた人間が理解出来たことであろう。


 その言葉ですすり泣く女子学生の姿もあった。



『……俺達はここまでです。……彼らに……『投降』しましょう―――』



 そこで放送は途切れた。






◆◇◆◇







「ふふ……。流石は陛下。見事な『演説』でしたよ?」


 放送を終えた俺は、レミィの声で俯いていた顔を上げる。


「おやおや、陛下。泣いてらっしゃるのですか?」


 レミィが俺に近付き、あろう事か俺の涙を舌で拭う。


「……レミィ様。お止め下さい」


「んもう、良いじゃない少しくらい……」


 そう言いレミィはエリアスの忠告を無視し、俺の涙を全て舌で拭い去る。


 俺は放送を終え、涙を流した今、徐々に『自我』が遠ざかって行くのを実感する。


 ……ああ……そうか……。


 俺の『役目』はここまで、という訳か……。


 でも、最後に、緒方理事長に本当の事を伝えられて良かった……。


 ……でも彼女はこれからどうするのだろう?


 このまま《剣の国》に連れられ、彼女はどんな待遇をされるのか……。


 レミィは不遇な対処はしないと約束してくれたが……それも俺が『堕ちれば』関係の無い事なのかも知れない……。


 ああ……眠い……深く……深く……沈んでいく―――。



 そして俺は『自我』を失い―――。



 ―――《暗黒の国》の宝具である、《魔女の目》に、意識を奪われる事となった。






◆◇◆◇






「日高君っ!!」


 知らない女が俺に駆け寄ってくる。


「大丈夫っ!?怪我は―――っ!!」


 女は俺の顔を見た瞬間に絶句する。

 ……誰だ?何故、俺を知っている?


「……レミィ。誰だ?この女は?」


「!!」


 驚きの表情をする目の前の女。


「ふふ……。陛下……あ、もう『陛下』では御座いませんでしたね。ほむら様、で宜しいですか?」


「……何でも良い。こいつは誰だ?」


 俺の呼び名など好きにすれば良い。

 それよりも質問に答えてくれ。


「ふふ……。彼女は、『陛下』であった頃のほむら様の元『側近』で御座います。そうですわよね?緒方令嬢?」


「……ひだ、か、くん……?」


 何故かその場に崩れ落ちた女。

 一体なんだと言うのだ。

 俺の顔がそんなに変か。


「……大丈夫ですか?お手を」


 エリアスは崩れ落ちた女に手を貸し、起き上がらせる。


「……彼は……あの『目』は……」


「……ほむら様は既に《剣の国》の武人となられました。しかし、あの『ホウソウ』という物は、ほむら様の『自我』がまだあるうちに、皆に伝えたい事があると申されましたので、我々の方で対処させて頂きました」


 女に簡潔に説明するエリアス。

 俺の『自我』?

 言っている意味がさっぱり分らないが、エリアスの言う事だ。きっと俺にとってマイナスな事など無いのであろうな。


「おい、女。お前の名は?」


 俺は怯えた表情の女に問う。


「え……?あ、あの……日高君?」


「名は?、と聞いている」


「……は、はい。……緒方美鈴と、言います……」


 緒方、美鈴。

 珍しい名だな……。


「そうか。では美鈴。お前は我が《剣の国》の『捕虜』となった訳だが……。お前はこやつら『異国の者達』の『指導者』という事で間違いは無いな?」


「え……。………。―――はい。その通りで御座います。ほむら様」


 ん……?

 急に態度が変わった気がするが…。

 何だ……?今までの怯えた表情が一変して……。


「……そうか。美鈴よ。お前、面白いな」


「はい?」


 きょとんとした表情の美鈴。

 いまいち何を考えているのか掴みづらい女。

 しかし、溢れ出る『知性』が彼女を包み込んでいる。

 きっと、この女は『出来る女』だ。

 アリアンロード王に見て頂き、『軍師』としての才能を見出して頂くのも面白いかも知れない。

 何故か俺の直感がそう告げる。


「……それと、ここ『学園要塞』の事だが……『鉄』はどのくらい存在する?」


 事前にレミィより状況の報告は受けている。

 もしも幻の金属である『鉄』が大量に手に入るようであれば、世界の情勢は一変する。


「……私も専門化では御座いませんのでそこまでは……」


「では聞こう。『異界の者』の中に専門家はいるか?」


「え……?あ……はい。……専門家になりえるかは存じませぬが……」


「良い。言ってみろ」


「はい。……この学校……『学園要塞』の教師達……例えば『化学教師』や『数学教師』等の理系の教師で良ければ多少は……」


 聞きなれない魔術用語が飛び交うが、構わない。


「そやつらもお前と共に我が王に会わせたいのだが、良いか?」


 アリアンロード王の事だ。

 きっと興味を示すに違いない。

 我が王はずっと夢見て来たのだ。

 幻の金属である『鉄』を集め『剣』を作り、《魔法の国》に対抗出来る部隊―――。



 『鉄剣騎士団』の設立を―――。


















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