俺、真実を伝えました。
『学園要塞:給食室』
「り、理事長……!かれこれもう、2時間は経ちます……!奴らは一体……?」
「……落ち着いて下さい、二階堂先生。きっと大丈夫です。皆助かりますから…」
「しかし……!」
この学校が《剣の国》の兵士に襲われてから2時間が経過。
最初に我々が見たものは、敵兵に捕らえられた日高君の姿だった。
大きな剣を構え襲い掛かって来る《剣の国》の兵士に対抗出来る者などなく。
散り散りになって逃げ惑う生徒や教師達。
奴らは何名かの女子生徒を捕らえ日高君とともに体育倉庫の方に向かって行った所までは確認した。
……あの兵士たちの目。
あれは『女』を『物』としか捕らえていない者特有の『目』。
捕らえられた女子生徒は今頃はもう……。
駄目だ……!私がこんなにクヨクヨしていては……!
きっともう少しでグロリアム達も戻って来てくれる筈……!
それまで何とか、皆で篭城して乗り切れば、被害は最小限に抑えられるはず……!
幸いにも《剣の国》の兵士達が襲って来た時間はちょうど各教室でのクラス会議の最中だったのも幸いした。
たまたま外に出ていた女学生の悲鳴が校庭中に響き、全校生徒が侵入者に気付く事が出来たのだ。
今はそれぞれ、各教室を封鎖し侵入者を中に入れないようにバリケードが敷かれている。
あと少し……もう少しの辛抱の筈……。
と、ふと非常電源のスイッチ特有の光が、一瞬だが給食室全体を照らし出す。
「……だ、誰だ?貴重な非常電源のスイッチを入れた奴は?」
二階堂先生が叫ぶ。
そして、信じられない事に『校内放送』のベルが鳴らされた。
(……まさか……!日高君……?)
一瞬の静寂の後、聞きなれた声がスピーカーから全校に向けて流れてきた。
◆◇◆◇
多少のハウリングの音。
非常電源が甘いせいか、ノイズが酷く混ざった音。
『……全校生徒の皆さん……俺です……日高ほむらです……』
「日高っ!?あいつ……捕まったんじゃなかったのかっ!」
叫び声を上げる二階堂先生。
「しっ!静かにして下さい!皆さんも日高君の話を静かに聞いて!」
私は堪らず大声を上げる。
『……本当に……皆には迷惑を掛けてしまい……すまないと思っています……』
まずは謝罪から述べた日高君。
……何故?
どうして日高君が謝るの?
今、近くに《剣の国》の兵士はいるの?
彼らに脅されて、強制的に喋らされているのでしょう?
『……今から、俺が話すことは……襲って来た兵士に脅されて話す内容でも無く……また、嘘偽りの無い『真実』の内容です……』
スピーカーからは今にも消え入りそうな、泣きそうな声が流れてくる。
皆しん、とした雰囲気で日高君の声に聞き入っている。
『……俺は……俺達は…………………』
そこで止まってしまう日高君。
非常電源が尽きてしまったのかと思ったが、そうではないらしい。
スピーカーからは雑音だけが流れている。
「何なんだっ!日高は一体何を言いたいんだ!」
「二階堂先生!静かに―――」
そう私が二階堂先生を止めようとした時、スピーカーから耳を疑う言葉が流れてきた。
『……俺達は……騙されて、いたんです……。あの黒衣の女……グロリアム・ナイトハルトに……!』
・・・
静寂。
多分、給食室だけでは無い、全ての、教室に立て篭もっている全生徒、教師が。
耳を疑った事だろうと思う。
「だ…騙されていたって何……?」
「おい、どういう事だよ…」
「ねえ、コレって本当の話?」
給食室に立て篭もっている生徒達が次々と騒ぎ出す。
「……グロリアムが……私達を……騙していた?」
一体何を言っているのだろう、日高君は。
私はこの異世界に来てから、何度も何度もグロリアムとは会話をし。
時には意見がぶつかり合い、時にはお互いを認め合い、尊重し合って来たつもりだった。
正直言うと、ようやく真に分かり合える友人が出来たと本気で思っていた。
その彼女が……私を……騙していた?
そんな馬鹿な事があるわけ……。
『……理由は3つあります。……まず1つ目。これは俺にも責任があります……。……それは、この『学校』の異世界転移の『本当の理由』です……」
本当の、理由……?
確か……グロリアムからは『天変地異』の類では無いかと聞いていたけど…。
『……この『学園』がこの異世界に転移してしまった『本当の理由』……。それは、グロリアム・ナイトハルトが自身の『欲望を果す為』に、彼女の手によって無理矢理この世界に『召喚』されたんです……』
「えっ……?」
静まり返る給食室。
そして次第にざわつき始める生徒達。
「あ……あいつが!あの女が俺達をこんな所に連れてきたってのかよ!」
「そんな……!じゃあ、私達……ただ単に利用されていただけじゃない……!」
「あいつ……!あんな威圧的な態度をしていたのはこういう事だったのかよ……くそ女がっ!」
次第に罵声が高まる中、日高君は尚も続ける。
「皆!まだ続いているわ!静かにしなさい!」
私は日高君の声に耳を傾ける。
……まさか……本当に?……グロリアム……。
『……そして理由の2つ目です。彼女には特殊な『予知能力』のような物が身に付いていました……。それによって未来に起こる事を事前に予測し、いとも容易く俺達を誘導していたんです……』
予知……能力……。
確かに、その事については私も日高君も以前から不思議に思っていた事ではあったが…。
まさか……本当に『予知能力』なんてあり得るのかしら?
もしも本当にグロリアムがそんな能力を身に付けていたのだとしたら―――。
―――私達を騙して誘導する事なんて、朝飯前の事であろう。
『……そして最後。3つ目です。これは2つ目とも重なるのですが……。もしも本当に彼女が『予知能力』を持っていたとするのであれば……何故彼女は『この学園が襲われる』という未来を予知出来なかったのか……』
皆しん、としながらも日高君の声に耳を傾ける。
「そ、それってもしや……!」
堪らず二階堂先生が声を上げる。
それと同じくしてスピーカーから日高君の声が流れる。
『……そうです。皆さんが想像している通りです。……彼女は『予知出来なかった』んじゃ無い……『予知をしていた』んです……。予知をした上で、普段行く事の無い食糧確保の手伝いに出掛け、襲われると分っていたこの学園を、彼女は―――』
その先を聞きたく無い私は。
蹲り泣きながら耳を塞いだ。
『―――彼女は、見捨てたんです』




