俺、決心固めました。
『学園要塞:体育倉庫』
「……はあっ、はあっ、はあっ………あ?……おいおい、こいつも逝っちまったまま死んじまったぜ……。全く、異界の女ってえのは、こんなにも身体が脆いもんかねぇ……」
体育倉庫内にはむせ返るような行為の後の匂いと血の匂いが充満する。
「あ~あ~……最後のまともな一人をてめぇのキタネェものをブッ刺したまま殺しちまいやがって……。あと残ってんのは、あそこに転がってる精神が逝っちまった女達だけだぜぇ?……一人は隊長がぶっ殺しちまったけどよ、ははっ!」
朦朧とする意識の中、そんな兵士のやり取りだけが俺の頭の中にガンガンと響いて来る。
やめろ……もう……やめてくれ……。
「隊長?こいつらもう、人質としての価値なんてあるんすかねぇ?」
裸の兵士の一人がレミィにそう告げる。
「ふふ…。そうね。そろそろゼノン達も戻って来る頃でしょうけど……。我らで残りを制圧しておくのも、彼らに恩を売っておくという意味でも良いかも知れませんね……。どう?エリアス?」
未だに俺を押さえつけている一人の兵士にレミィは質問を投げかける。
「……そうですね。立て篭もっているだけの彼らには武力が皆無です。例え武器を集めていたとしても小さな刃物か棒切れくらいでしょうね。……但し、頭の切れる奴が中にはいるかも知れません。例えば、幻の金属である『鉄』の棒を持ち、我らに襲い掛かって来る事も考えられます」
冷静に分析をするエリアスと呼ばれる兵士。
先程レミィは『副団長』とか呼んでいたか……。
「ふふ……そう、『鉄』……。我らの《剣の力》を退く事の出来る『幻の金属』……。それが……全て、我が《剣の国》のものに……!」
レミィは不気味なほど妖艶な顔で高らかと笑う。
『鉄』……。そうだ、それもこいつらの狙いの一つ……。
「隊長!ここを制圧してアリアンロード様に報告すれば、俺らも一気に昇進出来るんすよねぇ?そうですよね、隊長!」
情事を終えた裸の兵士達から歓喜の声が上がる。
「お前達。まだ制圧が完了したわけではありませんよ。性欲の処理が済んだのでしたら服を着て、準備に取り掛かりなさい」
冷静に、されど厳しく部下を叱りつけるエリアス副団長。
一瞬ムッとした表情をした兵士もいたが、皆指示に従い鎧を身に付ける。
「ふふ……。良いわね、エリアス。……貴女、凄く良いわよ……」
「……有難う御座います。レミィ様」
何か特殊な関係でもあるのだろうか。
この二人の長から只ならぬ空気を感じはするが、今はそんな事はどうでも良い話。
「さて……あちらさんは、あと何人生き残れるのかしらねぇ……」
「!!」
背筋が凍るような発言をするレミィ。
あの舌なめずりをしている狂気じみた表情を見てしまうと、その言葉が冗談で無いことくらいはすぐに分る。
「……ま……ま、て……」
俺は精一杯力を込めて首を上げる。
まだ左目は勝手に眼球内をグルグルと動き回り、その度に大量の血液が眼窩の隙間から流れ出している。
「あら、陛下?どう致しましたか?…ふふ…まだ痛むのでしょう?あまりご無理はなさらない方が……」
レミィが俺の顔を覗き込みながら、俺の頬を撫でながらそう言った。
「……手を……出す、な……」
「はい?」
「……手を、出すなと言っている!」
「へぇ……。まだ自我が残ってらっしゃるのですね陛下……。完全に『堕ちた』と思ったのですが…。困りましたわねぇ……」
レミィはそういい、チラッと打ち捨てられた女生徒の塊に視線をやる。
「や……やめろ!もう……もう、お前等には逆らわない……約束、するから……」
俺は懇願する。
この俺をこの『魔女の目』とやらで『闇』に堕とそうとしているのは何となく理解出来た。
徐々に俺の『意識』も侵食されて行っているのも感じている。
だから、だからこそ。
俺の『意識』のあるうちに。
『本当の事』を緒方理事長に伝えておきたい―――。
「約束……?信じられると思いますか?そんな言葉が。ねぇ?エリアス?」
「……」
エリアスは無言で俺を見下ろしている。
「お、れが……皆を説得……する」
「はあ?陛下が、自ら、平民を説得ですか?ふふ……ふはははは!誰がそんな事を信じると思っておいでですか?何か我らには分らない方法で合図などを送るつもりでしょう?そんな幼稚な作戦に引っかかるとでも……!」
「……レミィ様。お言葉ですが、彼は本当の事を言っているのだと思います」
「……ああ?……エリアス?貴女、一体何を言っているのか分って―――」
「本当だ!……信じてくれ……!俺は、もう……グロリアムを……あいつを……!」
俺はもう、あいつの事を―――。
「……絶対に、許さないと……心に誓ったんだ……!!!」




