俺(達)、いきなり転移させられました。(改稿済み)
それからの数日間は地獄だった。
クラスメイト全員からゾンビやら貞男やら言われ、物を投げられたり。
……ていうか『貞男』ってなんだよ。
井上にいたっては目も合わせてくれないし。
最初はビビっていた中山や大木も、何も変わらず学校に登校してくる俺を見て安心したのか、他の奴らに混ざって俺をからかう始末。
ホント、いい気なもんだな。
もし本当にあの時、俺が死んでいたら――。
大木はともかく、中山は少年院送りになっていたんだろうし。
でもな、諸君。
平和は続かなかったんだよ。
あ、いや、今のこの俺の現状を平和と言えるのかどうかは、おいといて――。
◇
午後の授業。
「――であるからして……ん? おい、そこ! 聞いているのか!」
担任の教師の怒号が飛ぶ。
なにやら窓際に座ってる生徒が、外を見て騒いでいるようだ。
「な、なんだよ、あれ……!」
別の生徒が窓の外に身を乗り出し、上空を指差して叫んでいる。
なんだ……? カラスの大群でも見付けたか?
とたんに窓際に群がる生徒達。
「おい! お前らちゃんと席に座れ! ……ったく、おおかた気球とか飛行船とか、そんなのが飛んでるだけだろう……。まったく、最近の中学生はそんなもので珍しがって……」
ぶつぶつと文句を言う担任教師。
あんな大人にはなりたくねえな。
いや、まともな大人を今までに見たことなんてないが――。
――次の瞬間。
「きゃああああああ!!!!」
誰かが悲鳴を上げた。
それと同時に空が闇に覆われた。
「な、なんだ? 何事だ!?」
一変して恐怖の表情で叫び出した担任教師。
『……始まったな』
……え?
この声は、どこかで……。
俺は周囲を振り返る。
『どうだ? 考えは改まったか?』
……嫌な予感しかしない。
俺は頭を抱え、それでも声のする方向を確かめようとさらに周囲を見回す。
『おい、どこを探している。目の前にいるだろう、目の前に』
目の前……?
目の前って……これ?
この……手の甲の痣?
『そうだ。我はお前の手中にいる。まあ、手中とは言っても《紋章》の中、という意味だがな』
俺は右手の甲に刻まれた痣をまじまじと眺める。
あれからずっと消えることのなかった黒い痣――。
一度病院に行って調べてもらったが、そこでも理由は判明しなかった。
どうやら火傷の痕ではなさそうだが、医師も首を捻るばかりだった。
『おい。我の話を聞いているのか?』
手の甲から声が聞こえる。
というか頭に響いてくる感じ。
「(お前は……誰だ?)」
『妻だ』
……だめだ、こいつ。
『お前が私を寝取ったのだろう?』
だめだ、こいつっ!
日本語も苦手っぽい!
「娶った」と「寝取った」を間違えてる!
ていうか、俺まだ中3なんだけど!
女の子と付き合ったことすらないのに、どうして妻がいるんだよ!
おかしいだろ、死神!
そして突然、校内放送が響き渡る。
『ぜ、全校生徒の皆さん……! 落ち着いて……落ち着いて下さい! 窓を閉め、先生の指示があるまでは決して教室からは出ないで下さい! 各クラスにいる先生方は、至急職員室まで――』
がちゃりと乱暴に切れた放送。
どうやらあちらこちらでパニックの模様。
『今のはなんだ? なぜ天から声が響き渡る? ……まさか! 神か! 神のお告げか!』
死神が俺の手の甲で騒いでいる。
こっちもこっちでパニックになってるっぽい。
『……まあよい。我が夫よ、あちらでは……期待しておるぞ?』
「え?」
そして声は聞こえなくなりました。
さんざん話すだけ話していなくなって、勝手な死神ですね。
そう俺が愚痴を言おうとした瞬間――。
――視界は一気に闇へと覆われたのだった。
◇
恐る恐る目を開ける。
先ほどまで眼前を覆っていた闇は、もうどこにも見当たらない。
クラスで騒いでいた奴らも、そのまま目をパチクリとさせている。
なんだ……? 結局停電かなにかだったのか?
「おい! みんな外を見てみろ!」
また誰かが叫んだ。
次から次へと、一体何なんだよ……。
窓際にいる生徒が全員、口を半開きにしたまま微動だにしない。
俺は席を立ち、奴らの後ろから窓の外に視線を向けた。
「……え?」
そこには―――荒野が広がっていた。
うん。
荒野だ。
荒れた野原だ。
それ以外、何もない。
――そして俺は気付く。
全校生徒438名。
教師23名。
その他用務員10名。
計471名。
プラス。
俺が通っている、この私立中学校の校舎丸々。
あの『闇』に飲み込まれて、わけの分からん『異世界』へと、飛ばされてしまったことを――。