私、命拾いをしました。
私は目を覚ます。
何だか周りが騒がしい。
「……ぃアム……」
誰だ?
「……ロリアム……!」
誰か私を呼んでいる?
「大丈夫?グロリアム!」
目の前には見慣れた顔があった。
「……ニーニャ?どうしてニーニャが―――っ―――!」
体中が焼けるように痛い。
……?
あれ……?確か私……暗黒兵に黒槍で刺されて……?
『……全く……ドジを踏みおって……。しかもよりによって『黒鎧の槍使い』の小童に見付かるとはのぅ……いやはやこれは困ったぞい……』
「……おばば様……」
つい懐かしさのあまりに『ばばあ』では無く『おばば様』と呼んでしまった私。
しかし、そんな事を気にしていられる事態では無いらしい。
「ここは……私の家……?」
私は首だけを傾け周りを見渡す。
ここは『黒の森』にある私とおばば様の家だ。
そして私は自分の寝慣れたベッドに横たわっている。
「そうよ、グロリアム。ジル様が貴女がここを出て行く時に《追跡》の《封魔》を掛けていらっしゃったみたいなの」
《追跡》……。
という事はおばば様は、私が結界を破って外に出ようとしていた事を知っていたのか…。
全く……喰えない婆さんめ……。
私は焼けるような痛みに耐えながら、ニーニャの介抱を受ける。
『……ワシの《追跡》でお前の動向を観察しておったら、『黒鎧』の小童と接触しているのが見えてな』
おばば様は愛用の丸い水晶を指差す。
『あやつの厄介な所は、掛けられた《封魔》をことごとく解いてしまう《解放》という《封魔》を宿している、あの『黒鎧』じゃよ』
そうか……。
だから私はあの黒鎧の男に触れただけで《偽装》の《封魔》が解かれてしまったんだ…。
ニーニャが冷たいお絞りを私の胸に当てる。
「っ!!!」
「痛む……?でも我慢して。ちゃんと冷やさないと……」
そっとタオルを胸に置き患部を冷やしてくれるニーニャ。
「……まさかおばば様……?私が暗黒兵の黒槍で刺される瞬間、《移動》を使って……?」
それならば、私が無事、《デストピア》から自宅へと戻って来れたのも納得が行く。
『そうじゃよ。流石にしんどかったぞい?慌てて《移動》を使い、お前の元まで飛んで行き、お前を連れてすぐさま《移動》を使ったんじゃからのぅ……。年寄りに無茶な事をさせんで欲しいわい……。ヒッヒッヒ』
そうか……。
私は結局、一人では何も出来ない人間なんだ……。
いつだって最後はおばば様に助けられて……。
「……あれ?でもニーニャ?……どうしておばば様と一緒に……?」
1ヶ月も東の森に隠れていたのに…。
「ふふ……。ジル様は最初から気付かれていたそうよ?私がこの『黒の森』に逃げて来たのも、ジル様の《結界》に2度も抜け道を作った事も……。」
「げっ……」
……なんて事だ……。
それでは結局おばば様の掌で散々騒いでいたというだけではないか。
一体私は、何を有頂天になっていたのだろう…。
『……しかしのぅ、グロリアムよ。今回ばかりは相当まずいぞ。なんせあの伝説の暗黒兵、『黒鎧の槍使い』こと『カイル・デスクラウド』に見付かってしもうたんじゃ……。ワシでもあやつからお前を隠し切れるかどうか……』
そう言いおばば様は小屋から外の様子を伺う。
『……あの小童の事じゃ。じきにこの『黒の森』にお前が匿われている事に気付くじゃろうて。……もしくは既に『暗黒兵』を率いてここに向かっておるやも知れんな……』
「え……!じゃあ早く逃げなきゃ―――っ!!」
起き上がろうとした私の身体が燃える様な激痛に襲われる。
……一体なんだ?この痛みは?
暗黒兵の黒槍が身体を貫いた痛みだと思っていたが、見た所身体には傷一つ見当たらない。
たぶん寸前の所でおばば様が私を連れ《移動》で救い出してくれたのだろう。
じゃあ何故……?
あの時確かに『炎』のような物が……。
「……なんだったんだろうなぁ……あの黒い『炎』って……。」
私がそう呟くと、身体を冷やしてくれていたニーニャの手がスッと止まった。
「……うん?どうしたんだ、ニーニャ?」
「………え?あ、いや……何でも……無いわ」
「??」
なんだろう。
今、凄く驚いた表情をした様な……?
『……ほう。グロリアムよ。お前『黒炎』を見たのかい?……まさか、な……』
「なんだよ、おばば様。その気になる言い方……」
何故かおばば様まで様子がおかしい。
そんなに不思議な事なのだろうか。
私が夢で黒い『炎』を見た事が……。
『……大昔の話になるがのぅ。……この《世界》がまだ《三国》に分かたれるよりももっと前……。つまりは数千年以上も前の話なのじゃが……』
おばば様は窓辺からこちらを振り向きながらも話始めた。
ニーニャもおばば様の話をじっと聞いている。
……なんだろう、この二人の雰囲気は……。
そんな事を感じながらも私は。
おばば様の昔話に耳を傾けた。




