表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第零章 《黒き炎の厄災》
2/66

俺、いきなり求婚されました。(改稿済み)

 目を覚ます。


 ――俺は、寝ていたのか?

 ……いや、違う。

 確か俺は快速列車に轢かれたはずだ。

 そして五体が、頭が、腕が、足が、はらわたが、駅の構内に撒き散らされた。

 

 宙に浮いた俺の頭部は、なんとまあ、滑稽なことに中山と大木の目の前にゴロン。

 二人とも驚愕の表情で叫び声を上げていたわけで――。


 そこで不意に俺の意識は途切れた。





『よう、そこの不幸な少年』


 なんか目の前に黒いコートのようなものを羽織った女の人が立っている。


 ……誰?


『なんともまあ、惨めな死に様だねぇ』


 ……死神?


 確かに格好は死神に見えなくもない。

 まあ「黒い格好が」ってだけだけど。


『おや……ずいぶんと落ち着いているのだな、お前は』


 落ち着いている?

 死んでるんだから、「落ち着いている」も何もないだろうに。


『ふむ……。お前ならいけるかもしれんな』


 うん。

 まったく意味がわかりません。


 そこで俺はようやく、今の自分の現状を把握する。


 ……なんだよ、これ。


『ん……? ああ、その姿か。仕方がないだろう。こういう状況なのだから』


 仕方がない……だと?


 いや、例えばだ。

 「死んでしまったから肉体がない」とか。

 「肉体はあるけど服を着てなくて真っ裸で『いやん』的な状況」とか?

 そういうのだったら仕方ないかなとか思うかもしれないけど。


『お前は今《契約》の場に召喚されているに過ぎない』


 ……だから、さっきからぜんぜん意味が分からないっつってんだろ。


『そんな状況のお前に必要な部位は、それらで十分だろう?』


 いや、だからって……。

 これはあまりにも酷すぎると思うのですが……。

 だって、『目』と『脳みそ』しか無いんだよ?

 なんか俺、どっかの宇宙人みたいになってんじゃん。


『失敬な。ちゃんと視神経も脳みそに繋がっておろうに』


 聞いてません、そんなこと。

 ちゃんと俺にも分かるように説明して下さい。


 ここはどこですか。

 あなたはだれですか。

 もしよければからだもください。





 で、説明受けました。


『――というわけだ。納得したか?』


 自身の説明に満足げな表情の黒衣の女性はそう俺に告げた。

 はっきり言って、余計に分からなくなりました。


『まったく、要領の悪い奴だな』


 うん。

 別にいつも言われていることだから何とも思わねえし。


『何故理解しようとしない』


 できたら凄いよね。

 俺、自分を尊敬しちゃう。


『むぅ……。ならば、もう一度言うぞ』


 黒衣の女性は息を吸い、もう一度、ゆっくりと同じことを繰り返した。


『我が夫となれ』


 ……。


『返事は?』


 あるわけねぇだろう!


『な、何故だ…! 何が不満なのだ…!』


 いや、不満とかそういう以前の問題で……。


『……まあよい。どうせすぐに我の力が必要になるはずだからな』



 ――そう言い残し、黒衣の女性は姿を消してしまった。





「ん……」


 目を覚ます。

 ここは……?


「あらぁ、お目覚めぇ?」


 目の前におっぱいがプルン。

 俺は視界を遮るそれらの双丘を無視し、現状把握に努める。


「もう、日高くんてば、イケズぅなんだからぁ」


 現状把握をするまでもなかった。

 目の前に見慣れたおっぱいがあった時点で、もう理解していた。

 

 ここは俺の通う中学の保健室だ。

 目の前で甘ったるい声を上げているのは、保健教師の御坂玲奈みさかれいな先生だ。

 白衣の隙間から溢れんばかりの胸を強調している、思春期の中学生にとって完全に害悪な保健教師。


 ……ということは?


「まったく……。人騒がせにも程があるわよぅ、日高くん」


 御坂先生は膨れっ面で話しだす。


「なーにが『電車に轢かれた』よねぇ。中山くん達、夢でも見ていたのかしら」


 夢……?

 電車に轢かれたのが、夢だって……?


「日高くん、どこも怪我なんてしていないじゃない。ホント、人騒がせにも程があるわよ」


 俺は手で頭を抑えながら身を起こした。

 全身を確認してみたが、確かにどこも怪我をしている様子はない。


「まあ、少し右手の甲の部分に火傷の痕みたいのが残ってるけど……。でもこれって昨日今日ついた傷じゃないみたいだし」


 御坂先生に言われ、手の甲を確認する。

 何だか黒い痣のような痕が残っている。

一体いつ付いたんだ? こんな痣……。


「どう? どこか痛いところとか、ある?」


「いいえ。別に、何ともないです」


「そう。じゃあ、もう今日は帰りなさい。ご両親には連絡してあるから」


「……はぁ」


 別に連絡とかしないで欲しかったのだが、仕方がない。

 俺はそのままベッドから立ち上がり、御坂先生に軽く頭を下げた。


「じゃあ、俺はこれで」


「うん。お大事に」


 御坂先生に礼を言った俺は、保健室を後にした。





 帰宅途中の駅構内。

 俺はひとり、物思いにふける。


 ……あれは、何だったのだろう。

 全て、夢だったのか?

 

 快速列車に轢かれて全身がバラバラになったのも?

 目と脳みそだけの、滑稽な恰好になったのも?

 黒衣の女性からいきなり『我が夫となれ』とか言われたのも?


 ……わけが分からん。


「ああああ! ひ、日高あぁぁ!?」


 いきなり後ろから叫び声が聞こえてきた。

 俺は振り返りもせずに軽く耳の穴に指を入れる。


「ひ、ひいいいい! な、なんで……!? ど、どうなんてんだよ……!」


 この声は中山と大木だ。

 ていうか、まだいたのかよ、駅に。

 ……でも、どうしてこいつらはこんなに驚いているんだ?

 それはつまり――さっきの出来事は夢ではなかったということなのか?


 ……まあいい。

 ちょっくら脅かしてやるか。


「よう、二人とも。…………さっきは痛かったぞ?」


「「うう………うわああああああ!!!!」」


 大木と中山の二人は、周囲の目を気にせず叫び声をまき散らし。

 そしてそのまま逃げるように去っていってしまった。


 ――そして、翌日。

 その二人のせいで俺の噂が学校中で広まり。

 化物呼ばわりされたことは、言うまでもなく――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ