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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第二章 《疑と欺の狭間》
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俺、呼び名が陛下に変わっちゃってました。


「失礼する」


 体育館の入り口に現れた数十名の《剣の国》の使者達。

 これで『相手国に脅威を与えない使者の数』?

 どう考えても一瞬で制圧されてしまいそうに思えるのだが。


「どうぞ、こちらへ」


 動じた素振りを見せずに戦士達を壇上の下まで案内する緒方理事長。

 おいおいおい。堂々とし過ぎにも程があるんじゃないのか?

 一部上場企業の社長様くらにのレベルになると、異世界の屈強な戦士達にも恐怖を感じなくなるのだろうか?


「(ほむら)」


 グロリアムが俺の思考を読んだのか、目線で緒方理事長をよく見るように合図する。


 ……。


 ………あ。

 僅かに。

 僅かにだが、肩が震えている様にも見える。

 左拳は相手の使者に見えない位置で握り締めている。

 恐怖による震えを…押し殺す為…?


「(……美鈴には本当に驚かされる…。何もかもが初めてで右も左も分からないこの世界で…。自分なりの意見を我に提案し、自分の責務を果そうとしている)」


「(……ああ)」


 若くして学園理事となってしまった運命。

 そして異世界へと学園が飛ばされてしまったこの現状。

 そんな中、懸命に皆を守ろうとしている。


「(……本当のことを話したら…許してはくれんだろうな……)」


「(……)」


 緒方理事長にはまだ伝えていない真実がある。

 それは、この『学園ごと』の異世界転移の原因。


「(でも、いつかは話さなきゃ駄目だろ……)」


「(……ああ、分かっている)」


 緒方理事長には『なんらかの異変が起き学園が異世界に飲み込まれた』という事で説明をしてある。

 しかし実際は違う。

 グロリアム意思で。

 『これから先の未来に起こる事象に対抗するべく』この学園を転移させた。


 《精霊》との《盟約》にしたってそうだ。


 いったいどんな《盟約》とやらを交わしたのかは聞いてはいないが、あれだけの《力》をもつ『黒炎剣』に自身を変化させられるほどの《盟約》。

 普通に考えても相当の『対価』をその《精霊》とやらに支払ったに違いない。

 グロリアムは一体何を犠牲にして、これほどまでに強力な《力》を得たのだろう……。


 ……まあ、そんな事考えたって分かるはずも無いが。


「お初にお目にかかります、陛下」


「へ…陛下ぁ?」


「?」


 つい素っ頓狂な声を上げてしまった俺。


「(黙ってろと言っておいたであろう!ほむら!)」


「(あ、悪ぃ…つい……)」


 ……怒られちった。


「陛下は少し疲れておいででな…。構わぬ。続けてくれ」


 すかさずフォローを入れるグロリアム。

 その間に裏から壇上へと上がってきた緒方理事長。


「……はっ。《剣の国》第四兵団団長、ローグハイル・エリウストと申します」


「同じく、第六兵士団団長、ゼノン・オルルストと申します」


「同じく、第十兵士団団長、レミィ・ラインアーランドと申します」


 連続で三人の団長の挨拶。

 一糸乱れぬ連帯感。

 一言で表現するとそんな感じ。


「(おい、グロリアム?あの第十兵士団の団長の人って女の人だよな……?)」


「(ああ。女だな。それが何か?)」


 俺はてっきり《剣の国》って言うから脳筋マッチョなホモォ的な男だらけの集団だとばかり思っていたのだが…。


「我はグロリアム・ナイトハルト。陛下の側近の一人だ」


 おいおい。お前が側近てタマかよ……。


「ご挨拶が遅れましたわ。わたくしは緒方美鈴と申します。同じく陛下の側近の一人で御座います」


 綺麗なお辞儀をする緒方理事長。

 なんかきっと、こういうパーティとかで慣れてるんだろうなぁと推察。


「これはこれは…。綺麗どころの側室がお二人も…。羨ましいですなぁ」


「……ゼノン。慎みなさい。王の御手前ですよ?」


「おっと…。これは失礼」


 レミィという女性団長がゼノンと呼ばれた男性団長を制する。


「……それにしても『ナイトハルト』……。我が国にも同じ姓の者がおりますが……」


「え?」


 つい声を出してしまう俺。

 おいおい。

 それってまさか……。


「グロリアム殿は我が《剣の国》の出身者で御座いますかな?」


 ローグハイルと名乗った団長がグロリアムに向けて質問する。


「……それを聞いてどうする?我が国との同盟にでも交渉を持ち込むか?」


「国……?今、グロリアム殿は『国』と申されましたかな?」


「……ローグ。慎みなさい」


「……ちっ」


 おいおい。

 何だかいきなり険悪な雰囲気じゃね?

 やばいんじゃないの?これって……。


「お話に花が咲く事は良い事だとは思いますが……」


 険悪な雰囲気に途中で割って入ってきた緒方理事長。

 ほっ……。

 緒方理事長が入ってきてくれると一気に安心するな……。


「まずは友好の証の品を」


 緒方理事長は事前に裏手に用意していた『ブツ』を使者達に配り始める。


「……これは……?」


 見たことも無い物質に目を丸くする団長達。

 後ろで綺麗に列を作って待機している部下達も、何事かと様子を伺うような姿勢。


「私達の世界でも、非常に貴重とされている『カンデンチ』ですわ」


 緒方理事長はそう、わざと高級そうな言い方で答えた。

 おい。

 乾電池だろ、捨てる筈だった……。


「……この素材は…金でも銀でもありませんね……」


 レミィという団長が乾電池を隅々まで眺めてそう言った。

 いやいや。

 ただの『鉄』だから。


「外の素材は普通の『鉄』ですが、中を開けると二酸化マンガンや亜鉛が……」


 丁寧に説明を始める緒方理事長。

 でも多分分かんないんじゃね?この世界の住人に……。


「「「『鉄』ですと!!!?」」


「………へ?」


 一斉に叫び声を上げる団長達あんど部下の兵士達。


「(………何をそんなに驚いてるんだよ…。なあ?グロリアム?)」


「(………これは誤算だな)」


 ??

 何が?


「(くそ……。こんな事ならば、もう少し美鈴に『カンデンチ』とやらの事を詳しく聞いておくべきであった……)」


「(……おい。説明しろよ、グロリアム……)」


 何やら苦虫を磨り潰した顔のグロリアムに気付いたのか、緒方理事長もこちらに寄って来る。


「(どうしたのよ…。なんであの使者達はあんなに驚いているのよ、グロリアム?)」


 俺を同じ疑問を投げかける緒方理事長。


「(………良く聞け。この世界で『鉄』はな……)」


 そこで一旦区切るグロリアム。




「(………最も高く取引されている、ほとんど見付かっていない『幻の金属』なのだよ、ほむら……)」







 おいおい。


















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