俺、指揮官にされちゃいました。
次の日。
体育館。
前日のうちに施された装飾の数々。
豪華な椅子も壇上に用意され(これ、俺が座る椅子だよね…げぇ……)、それらしく豪勢に見える形に。
てかほとんど全部、理事長室にあったものを移動して来ただけなのだが。
「……はあ……」
「……なんだ、ほむら。そのやる気の無い溜息は。これから会談が行われると言うのに」
「それに、目の下に隈が出来ているわね……。その様子だと昨日は熟睡出来なかったみたいね?」
二人の女性に連れられ壇上に上がる俺。
てかやる気も無いし、睡眠だって取れるわけが無い。
「あとどれくらいで来んのかなぁ……」
「……大体二時間くらいだな」
だからなんで分かる?
予知能力者かよ……。
「もう一度おさらいしておいた方が良いかしらね」
「ああ、そうだな美鈴」
今日の《剣の国》の使者との会談での注意事項。
①基本俺は喋らない
②基本俺は椅子から立ち上がらない
③基本俺は相手を褒めない
④基本俺は『同盟の申し出』を受け取らない
……俺はマネキンかよ……。
あ、でも喋んなくて良いのは助かるが。
「打ち合わせでも話した通り、日高君は『指揮官』…つまりはこの『学園要塞』の『最高指導者』という事になっているから……」
緒方理事長がもう一度俺に説明をする。
要は偉そうに座っているだけでいいと。
「使者との軍事交渉・事案要求の受け入れ可否は我が代わりに交渉を進める」
「私はその他『学園要塞』の各国との『中立』の交渉、生徒や先生方の身を最大限に守る事が出来る交渉を進めて行くわ」
二人の補佐官。
なるほど、二人は云わば『アクセル』と『ブレーキ』か。
グロリアムが『動』の補佐官であるならば。
緒方理事長は『静』の補佐官という事だろう。
一人では結論を出す事が難しい案件でも、二つの頭脳を駆使して判断を下す事が出来る。
へー、よく考えてんだな、二人とも。
「で?『黒炎剣』の事は?」
俺は疑問を口にする。
各国の『会談』の目的。
それは俺が使う『黒炎剣』の力を我が国のものとするという事くらい、アホな俺でも分かる。
「……大方の『予想』はされてはいるだろうな」
『予想』というのは『黒炎剣』が《剣》《魔法》《暗黒》の、全ての《力》を宿しているという事が各国に知られている、という事なのだろう。
しかも『一撃』で数千の兵士を消炭に出来るほどの《力》。
これほど強力な『軍事力』を放置しておく訳が無い。
「だからこそ、こちらにも大きな交渉のアドヴァンテージがあるという事でしょうけど、ね」
緒方理事長がハイヒールの踵を気にしながら言う。
「その通りだ美鈴。だからこそ隠し通さなければならない」
グロリアムがちらっと俺を見る。
結局あの後の『地獄の扱き』でも《力の調整法》を身に付ける事は出来なかった。
しかし俺的には『当然じゃね?そんな一日二日で会得出来るようなもんじゃねえんだろ?』と高を括っていたのだが。
実はそんなに難しい事では無かった事が判明。
《剣の国》も《魔法の国》も《暗黒の国》も。
それぞれの国に属する国民は皆、生まれながらにして《力の調整法》を身に着けているらしいのだ。
要するに、だ。
元々『誰かに習う』とか、そういう大それたものでは無く、勝手に身に付いているものだという事。
その時点で大分凹んだ俺なのだが。
異世界から来た人間で、しかも《剣》と《魔法》と《暗黒》の三つの《力》を同時に宿す『黒炎剣』の《力の調整法》。
すぐに習得出来なくでも無理はない、とグロリアムは言ってはくれたが……。
正直に言います。
一向に習得できる気配が致しません。
だって、そもそもどうやったら習得出来るのか分かんないんだもの。
みんな勝手に、自然と、当たり前のように身に着けている《力の調整法》。
昨日だって俺がグロリアムから教えられていたのは基本的な《剣の力》の《武力強化》と。
後は《魔法の力》の《詠唱》、《暗黒の力》の《封魔》。
この中でイメージが沸くのは《武力強化》くらいか。
部活の筋トレみたいな事を延々とやらされただけだったし。
でも《詠唱》と《封魔》はさっぱり。
イメージ沸かねえ。
だから俺は昨日の時点でかなり凹んでしまっていた。
「どうせ…どうせ俺は、出来の悪い生徒ですよ……」
立ち止まり、地面にのの字を書く俺。
「頭も悪いしな」
「追い討ちかっ!?」
反射的にグロリアムに突っ込む。
「ふっ…それだけ元気ならば大丈夫みたいだな」
振り返り緒方理事長を見ながらそう言うグロリアム。
「ふふ、そうみたいね?もっと落ち込んでいたかと思ったけど……」
微笑みながらそう言う緒方理事長。
あ、いや、大分メリ込むくらい凹んでますけど……。
「さあ、ほむら。残りの時間、威厳の出し方の練習と行こうか」
「ええー?いいよそんなん……」
《剣の国》会談。
使者21名。
うち3名。
ローグハイル・エリウスト。
ゼノン・オルルスト。
レミィ・ラインアーランド。
7人編成の小隊のそれぞれの隊長達。
彼らの使命は―――。
―――『黒炎剣』の奪取。