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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第一章 《異の国の生活》
14/66

俺、鬼の扱きに遭いました。


 もう俺、疲れました。


 え?何がって?


 そりゃあもちろん……。


「ほむら。まだ休憩の時間ではないぞ」


「もうむりやすまして」


「そんな事で我が夫が務まるとでも思っているのか」


「じゃあ辞める。夫。」


「子供かっ!」


「子供だよ!まだっ!!」





 あれから丸一日が過ぎた。


 小笠原達『食糧調達班』は無事、敵や魔物から襲われる事無く食糧を調達してくる事が出来た。

 山菜、木の実、雑草、魚なんかも採って来た彼らは、今や俺よりも英雄扱いだ。

 いや、俺は英雄じゃなくて化物扱いだが……。


 荒れた荒野ばかりが広がる土地だと思ってはいたが、北北西の方角、ちょうど《剣の国》の軍勢が押し寄せて来た方角に一本の川が流れていた。

 《剣の国》の兵士達はこの川周辺で食糧を調達し、その先、約200ULウムラウト程行った所にある砦に常駐していたらしかった。


 まあ、今はほぼ無人の砦となっているみたいなのだが…。



「……でもよう、グロリアム?」


「?なんだ?ほむら?」


 俺は今、体育館の床につくばっている。

 各国の使者達がこの『学園要塞』を訪れるまではまだ時間があるみたいだった。

 なので俺はグロリアムから《力の調整法》の修行をさせられている訳なのだが……。


「少し遠いけど『川』が見付かったのはありがたいよなー」


「まあな。これで『水』の心配も無くなったという訳だしな」


 学校の給食室の裏には大量の空のペットボトルがゴミ袋に入れてあった。

 分別回収に出す為に纏めてあったものだ。

 まさかこんな形で文字通り『再利用』される時がくるなんてな……。


「あーあ、せっかくプールもあるんだしさあ、何かこう、いっぺんに水を運ぶ方法とか無いもんかね~」

「ぷーる?……ああ、あの巨大な風呂釜の事か」


 追い炊きは出来ないけどな。


「ふむ……。その辺はおいおい美鈴に相談するとして、だ。……ほむら?」


「ん?」


「何故お前は、床に這い蹲ったままなのだ?」


「………疲れた、から?」


「起きろ」


「痛てててて!何故髪を鷲づかみにして起こす!?」


「お前がサボろうとするからだ」


「だからもう疲れたの!休みたいの!ジュース飲みたいのっ!!」


「……はあ……まだ全然《力の調整法》は身に付かんし…。先が思いやられるな……」


 どうもすいません。

 出来の悪い生徒で。


「……それでは、後100回《詠唱》を終えたら休憩にしよう」


「い゛い゛っ!?」


 そして俺は。

 鬼と化したグロリアムの地獄の特訓を再開する……。





◆◇◆◇





「私が『補佐官』に?」


 ようやく鬼教官から休憩を頂けた俺は緒方理事長の部屋を訪れていた。


「ええ。多分数日後には三国の内の国のどこかしらの使者が『会談』に来るそうなんで……」


「ふうん……」


「……えと、何かご不満でしょうか……?」


 何やら思案顔の緒方理事長。


「以前も少し不思議に感じたのだけれど、グロリアムはどうして『いつ頃使者が来る』とか『どれくらいの軍勢が押し寄せてくる』とかが分かるのかしらね……」


 ……それは俺も不思議に感じている部分だ。


「それも彼女の持つ『能力』、とか?…つくづくファンタジーな世界なのね、ここって……」


 緒方理事長はそういい、魔法瓶からカップに珈琲を淹れる。


「はあ……。それにしても、珈琲を一杯飲むのにもいちいち時間を掛けてお湯を沸かさないといけないなんてね…。電気のありがたみが身に染みるわ」


 この世界に飛ばされてからというもの、電気、ガス、水道のほとんどが機能しなくなった。

 幸い屋上に貯水タンクがあるお陰で数日分の水はあったし、昨日は小笠原達も水を見付けてきてくれた。

 電気も学校内に設備されていた備蓄電気で昨日の夜は過ごす事が出来たがすぐに底を突いてしまった。

 ガスもこれまた備蓄用のガスボンベが数本あるが、長くは持たないだろう。


「どうやってお湯を?」


「?……ああ、昨日小笠原君達が薪を拾ってきてくれてね?給食室にある大釜でいっぺんにお湯を沸かして魔法瓶につめておいたのよ。……少し冷めちゃってるけどね」


「大釜で、って……。どこで沸かしたんですか?」


「うん?校庭で、ね?」


 ……まあ、そりゃそうだよな。

 さすがに室内で焚き火は出来んだろうからな…。


「ある程度の薪は炭にしてもらったから、必要なら焼却炉の前の物置小屋に置いてあるから」


 準備が良い。

 さすがは緒方理事長。


「……あ。ごめんなさいね?ええと…そう、『補佐官』の件よね?謹んでお受けするわ」


「有難う御座います…何から何まで……」


「いいのよ。私でもお役に立てるのであれば」


 緒方理事長は2人分の珈琲を淹れ、ソファーに座る。


「で?この『学園要塞』の『指揮官』は、あなたなのかしら?それともグロリアム?」


「え?」


 俺?

 いやいやいや。

 グロリアムに決まってるでしょう理事長。


「いや、それは当然……」


「ほむらだ」


 !?

 この声は…。


「あら、いらっしゃい。あなたも飲む?珈琲?」


「いや、いい。それよりも明日、《剣の国》より使者が来るそうだ」


「おい!明日?てか俺が『指揮官』て……!」


「案ずるな。もちろん我と美鈴で補佐をする」


 いやいやいや!

 そういう意味では無くて!


「あら、日高くん?こんな美人な補佐官を二人も従えて、それでも不満だと言うのかしら?」


「だから!そうじゃなくて!」


「覚悟を決めろ、ほむら。いいか?相手に舐められたら終わりだからな」


「おいっ!余計びびっちゃったよ俺ぇっ!」


 ていうか俺まだ子供だよお!

 なんで『会談』なんかに…それも『指揮官』として参加しなきゃなんねえんだよ!

 『舐められたら終わり』?

 舐められるに決まってんじゃんかよおお!!



 その夜、俺は―――。



 ―――当然のように一睡も出来なかった訳で。



















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