俺、なんか、良く分かりません。
ここでひとつ困った事が起こった。
じゃあ誰が『食料確保』に向かうのか、という事で揉め始めてしまった。
まあ、考えてみればそうだ。
こんな訳の分からん世界で。
一歩でも外に出ようものなら、いつ他国から攻撃されて命を落とすかも分からない。
よって誰も外部への食料調達に志願する奴なんていなかった。
「くそ、本当に腰抜け共しかおらんのだな。ほむらの世界の人間は……」
苦虫を磨り潰したような顔でそう言うグロリアム。
「んな事言ったって、戦った事があるやつなんて一人も……」
一人も……?
あ。いるじゃん。
「……ちょっと心当たりあるんだけど、いいかな?」
「?なんだ?」
一向に話の進まない教師らの会議から席を外し、3年の教室棟へと向かう俺達。
「4組の小笠原って奴なんだけど……」
確か空手の全国大会に出場が決まってるとかなんとか……。
「ほう。少しは戦えるかも知れんな。『少しは』だが」
「それに1組の蓮見姉妹。双子の女子なんだけど、確か実家が少林寺拳法の教室を開いてるんじゃなかったか……」
「しょうりんじけんぽう……ふむふむ……」
……絶対分かってねぇこいつ……。
「それに……」
俺はそこで止まる。
「?どうした?ほむら?」
それに……。
「……俺のクラスの井上絵里。彼女も合気道をやってるんだ……」
「ほう。ほむらを『振った』という罰当たりな女か」
「ああ。俺を振った罰当たり……な……?」
「うん?」
「おい」
なんで知っている?
俺が井上に告って。
そして見事に振られた事を。
何故、お前が、知っている?
「ほむら。今、凄く怖い顔を我に向けておるみたいだが?」
「向けておるんだよ!何で知ってんだよお前!」
「何をだ?」
「俺が振られた事だよっ!とぼけんな!」
「ああ…。そりゃあ、知っていて当然だろう」
「だから!『な ん で で す か ?』って聞いてんの!」
「?……ああ、まだ説明していなかったか……」
おいおい。
まだ何かあるんですか。
俺に言っていない事とか。
「我を『黒炎剣』として一度召喚したであろう?」
「……ああ」
「その際、我はほむらと《同化》した事は覚えておろう?」
同化?
……あー、確かに。
あの後、身体が凄く軽くなって。
屋上の貯水タンクまでひとっ飛び……で……。
……。
まさか……。
「その時に《脳》も《同化》を果たしているのだ。……もう、分かるな?ほむら?」
「……つまりは、俺の『記憶』もその時に……?」
「ああ。我に筒抜け、という訳だな。おっぴろげだ」
おい。表現。
「……じゃあ、なんでその《同化》とやらで俺はお前の『記憶』が見えなかったんだよ……」
「それは我が謎の女だからだ」
「おい」
何故そこでふざける?
「……まあ、あれだ。これも一種の《魔法の力》とだけ言っておこうか」
「……お前は『夫』に隠し事をするのか?」
「う……」
「俺の事は全て『筒抜け』にしておいて?」
「そ、それは……」
たまには良い。
いじめてやるか。
「そんな事でこれから円満な夫婦生活を送れるとでも?」
「あ…ああ…あああ……」
なんか頭を抱え込んだグロリアム。
いいぞ。もっと悩め、苦しめ。
「こんなに若い年下の男を夫として捕まえておいて、自分は上から全てを把握して支配か?」
「言うな……それ以上言わないでくれ、ほむら……」
「これじゃあ『夫婦』では無く『飼い主とペット』だなあ、まるで」
「!!!!」
目をカッと見開き硬直するグロリアム。
あ、いや、だって。
真実を告げたまでじゃん。
「う…その…あの、だな…ほむら……」
「どうした?グロリアム?何か言い訳でもあるのか?」
「言い訳…は、あ…ありません……」
「だろう?なら俺の言っている事は正しいんだろう?」
……まあ、これくらいにしておいてやるか。
こいつの『過去』を聞いちゃった後ではあまりいじめるのも可哀想だろ。
言いたい事は言った。
俺はもうそれで満足。
後はどうのこうの言っても始まらない。
俺達はこの世界で生き残って行かなければならないのだから。
「……は出来るぞ」
「うん?」
何か小さい声で言っているが聞こえない。
「……くらいは…出来ると、言っている」
「だから、聞こえねえって」
グロリアムが顔を上げる。
何故か顔が真っ赤だ。
なんでや。
「だからっ!ほむらの子供を身篭る事くらいならいつだって出来ると!そう言っておるのだあっ!!」
………はい?
「ほむらの……ほむらのっ……!」
………え?まじで?
「ほむらの馬鹿ああああああああああああああああ!!!!!!!!」
そして走り去って行ったグロリアム。
おい。




