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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第零章 《黒き炎の厄災》
1/66

俺、いきなり死にました。(改稿済み)

「……ごめんなさい。他に好きな人がいるんです」


 ……振られた。

 はい、俺の人生おしまい。


「あ……。もう、次の授業が始まっちゃうから……」


 逃げるように立ち去っていく女子生徒。

 俺の三年間の想いは、こうも儚く、簡単に幕を閉じた。


「(ぷくく……!)」


「(おい! 声出すなよ! 隠れてるのばれちまうだろ!)」


 中庭の木陰から複数の生徒の声が聞こえてきた。

 ……いや、完全にばれてるし。

 この出歯亀野郎どもが。

 俺は表情を悟られないようにその場を立ち去ろうとする。


「(くく……! あいつ、よく告ったよなあ! 無理に決まってんのによぅ!)」


「(あんな尻軽に振られてりゃあ、どんな女にアタックしたって成功率ゼロだな! ぷぷ……!)」


 俺は聞こえない振りをして教室へと戻った。





「じゃあ、次の問題を……日高ひだか!」


「は、はい」


 俺を指名しやがった、このアホ担任……。

 呼ばれた俺は、一番後ろの席から前へと歩み出る。

 が、いきなり足を引っ掛けられた。


「……っ痛ぅ……。」


 派手に転んでしまった俺。

 他の生徒達はニヤニヤしながら俺を見おろしている。


「おい、日高。お前は一体何をやっているんだ」


 勝手に転んだと勘違いしている担任。

 俺の味方なんて、どこにもいない――。

 立ち上がり制服の埃を払うと、隣の席の女の子と目が合った。

 ――昼休みに告白したばかりの、井上絵里いのうええりと。


 ……さっそく目を逸らされた。


「早く前に出なさい。お前は人一倍とろいんだから」


 担任の一言により、教室中がどっと笑いで満ちた。

 俺は悔しさを表情に出さないように前へと歩み出る。


 黒板に書かれた課題は簡単な関数の穴埋め問題だった。

 俺は難なく回答を終え、席へと戻る。

 ……さすがに二回連続で足を引っ掛けたりはしないらしい。

 俺は無表情のまま着席した。


 井上の方に視線を向ける。

 隣の席の秋山時雨あきやましぐれと楽しそうに話している井上。

 奴はクラス一の美男子と称される人気者だ。

 俺は溜息を吐きながら目の前の教科書へと視線を落とす。





 放課後。

 中山五郎なかやまごろう大木潤一おおきじゅんいちに呼び出された俺は体育倉庫前で金をせびられている。


「なあ、後で返すって言ってんだろ? さっさと出せや」


「お前さあ、何でそう『協調性』ってものが無いわけ?」


 相変わらず言いたい放題言っている二人。

 どうして金を貸したら『協調性』とやらがあることになるんだよ。

 しかし、俺は黙って俯いていることしかできないでいる。


「おい、聞いてんの? 金だせ、金」


 中山が蹴りを入れようと足を振り上げた。


「おい、そこ! 何をやってる!」


「あ、やべ」


「ちっ、覚えてろよ、日高」


 ……覚えてるわけねえだろ。

 バーカ。


「大丈夫か、日高」


 体育教師の二階堂が俺に声を掛けてくる。


「……はい」


「お前、もしかしてあいつらに……?」


「いえ、ちょっと遊んでただけです」


 そう言い、踵を返す俺。


「……ふん、可愛げの無い奴だな、相変わらず」


 振り向きざまに二階堂の舌打ちが聞こえてきたが、俺は知らぬふりをしてその場を立ち去った。


 ……聞こえてんだよ、この脳筋教師が。





 帰宅途中の駅構内。

 私立の中学に通っている俺は、当然のように電車通学をしている。

 親の言いなりでアホみたに勉強して受かった私立中学。

 でもこの三年間、楽しかった事なんてこれっぽっちも無かった。

 

 俺の人生なんて所詮はこんなもんなんだろうか。

 このままいけば受験勉強のシーズンが到来する。

 どうせまた家庭教師を呼んだり予備校に通わされる日々が始まるのだろう。

 テストの結果が悪ければ父さんから折檻を受けるし。

 

 ――もう、色々と疲れたよ、俺。


 

 駅構内のアナウンスが流れる。

 快速列車が通過するのを待つ俺。


 と、不意に背中に衝撃受けた。

 

 体勢を崩した俺。

 そして、そのまま一直線に線路へと落下――。


「お、おい、五郎! お前そんなに強く押したら……!」

 

 落下間際、そんなことをほざいてる大木の声が聞こえてきた。


「いや、だってよぅ……! あいつの顔を見たら無性に腹が立っちまって……!」


 線路に落ちたと同時に聞こえてきた中山の声。


 ――でも、すぐにその声も列車のブレーキ音でかき消されてしまった。


 あ……。

 俺、死ぬんだ――。


 眼前に迫る快速列車。

 どう考えても、ブレーキは間に合いそうもない。


 なんてくだらない人生だったんだろう。

 何一つ良いことなんて無かったな、俺の人生。

 でも、もういいや。

 なんか、疲れた。


 そして列車が俺をミンチにする瞬間。

何故か俺は『黒い炎』を見たような気がしたんだ。


 ――っつうかもう、死んだけど。





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