Ep18 南家・・・ではなく福井家
南の家の前まで来た。一軒家だ。
自転車を置いて中に入る。
「お邪魔しまーす。」
「あっ、親は今日いな・・・」
「いらっしゃーい。」
そんな声が奥から聞こえてきた。
「お母さんいたの!?あれ、でも今日は仕事じゃ・・・。」
「何言ってんの、娘が恋人連れてくるって言うのにそれを見に帰らない親なんていないわよ。」
「私、恋人連れてくるなんて一言も・・・。」
「何年親やってると思っているのよ。それであなたが内田君ね。」
「初めまして。」
それくらいしか挨拶の言葉が出てこない。こういう時にもっと上手く喋れれば・・・。
「なかなか可愛いわね。うちの子にしちゃいたいくらいだわ・・・。そうだわ、いっそのこともう結婚しちゃいなさいよ。二人とも16歳越えてるでしょ?年齢的には問題ないからやっちゃいなさい!」
「それ以前に同性婚が認められていないのですけどね。」
「そうかぁ・・・。まあ愛は法律を超えるから大丈夫よ!」
何も解決になってない気がする。というか届け出てないから戸籍上では俺は男のままな気がする。
「で、内田君・・・。」
「何でしょう?」
なぜかこっちをじろじろ見てきている。
「可愛い服に興味はない?」
「へ?」
「ちょっとお母さん!変なこと言わないでよ!」
「南は内田君のあんな姿やこんな姿を見たくはないのかしら?」
どんな服か気にな・・・らないからな!
「・・・・・・別に今見たいとは思ってないから!海斗君、私の部屋に行こ!」
そう言って引っ張られる。今・・・?
「ほんとお母さんは・・・。」
「面白いお母さんだね。」
「面白いだけならいいんだけどね。お茶用意するから少し待ってて。」
そういって南は部屋を出て行った。
部屋は綺麗に整理されている。何だか南って感じがして可愛らしい。
「ねぇ、どうやってうちの子を口説いたのよ?」
「へ?」
いつの間にか入り口には南のお母さんがいた。やっぱり南に少し似ている。
「いや、口説いたというよりは口説かれたというか・・・」
「そうなの?あの子もやるわね、やっぱり私の子だわ。」
「そうなんですか?」
「そうなのよ、うちの主人も・・・」
「ちょっとお母さん!どこいったかと思ったらこんなところに!」
「残念、時間切れ、まあっこの話はまたの機会にね。」
そういって去って行った。
「お母さんが何か変なこと言わなかった?」
俺は首を横に振る。
「それならいいんだけど・・・。」
南はそう言いながら机に持ってきたものを置く。紅茶とプリンか。
「ありがとう。それじゃあ頂きます。」
「どうぞ、召し上がれ。砂糖とミルクはここにあるけど・・・。」
「別に大丈夫。」
そう言いつつ紅茶を一口飲み、プリンを口にする。
「おいしい・・・。」
「良かったぁ・・・。」
「もしかして手作り?」
「初めてだったから心配だったけど、口に合ったみたいで良かったよ。」
「料理とかよく作るの?」
「うん、うち共働きだから家事は子供の頃から手伝ってるの。」
「そうなんだ、偉い!」
「偉くなんてないよ、好きだからやってるんだけ。」
「そんな南の恋人だなんて、オレって幸せ者だなぁ・・・。」
「大袈裟だよ・・・。」
そういいつつ照れる南がこれまた可愛い。
あー、もう可愛すぎて自分が壊れそうだよ!
「ねぇ南、・・・食べさせてくれない?」
「えっ、・・・うん、いいよ。」
そう言うと南はプリンをスプーンに取ってオレの方に差し出してきた。
胸がドキドキしてきた・・・。別にこれくらい恋人だから普通だよね・・・。
その時、玄関の方で音がした。
「あらアナタ、おかえりなさい。」
「ああ、ただいま。」
そんな声が聞こえてきた。
「うそ、お父さんまで帰ってきたの!?」
だそうだ。
南の親っていろいろ変わっているなぁ。