act.9 ラブコメのカケラもない
壁と同級生の間に挟まれて私はさっきから考えている。
「この状況、どう説明してくれようか。再び」
ちなみに前回と同じく私の顔の横に相手の手がつかれているからとてつもなく至近距離だ。端正だけど目つきがきついのが残念な顔がすぐ近くにあるけど、どーした。
え、なに近頃、流行ってんの、これ?
「確か壁ドンだろ、知らねぇのか」
「だからそういう発言が欲しいわけじゃないって言ってるじゃないか何度も言わせるなてかそもそもあんた誰」
「早口すぎて聞き取れねぇよ。おい、もっかい言え」
「あんた誰」
苛立ちまじりに睨み上げる。前例があるから混乱は少ない。そもそも知らない奴にやられれば戸惑いより、苛立ちが先立つ。
着崩した制服からは少しガラの悪い印象。キリッとした顔立ちに、少々きつい眼差し。立てられた短めの髪に左耳にはイヤーカフスを付けている。いや、そこは普通ピアスだろ。
「は? 知らない?」
明らかに呆れたような顔をされて、むっとする。人様になんという態度をとる奴。
「知らないって言ってるだろ」
「俺、クラスメートの宮嶋」
「やぁ、宮嶋くん。実に四時限目の古典以来だな」
……ちょ、そんな馬鹿を見るみたいな目で見るなよ!ど忘れとかよくある話じゃん!
「可愛い女の子にしか興味ないからな! 正直、クラスメートでも男子とか知らない!」
「……なんでこんな状況なのにこれっぽっちもいい感じにならないわけ。気に食わねぇ」
ぐいっと頤を持ち上げられた。至近距離の顔に眉をひそめる。この距離は自分のことをイケメンだと自覚している距離だ。もしくはただ単に目が悪いとか、無自覚な場合もあるが。果たして宮嶋は面倒なナルシストか、否か。
まったく、よくわからない呼び出しなんか応じなければよかった。少女漫画のヒーローみたいだなんて内心はしゃいでた数分前の自分の頭の弱いこと。
もう顔を逸らすのも面倒でうんざりしたままで問う。
「で、なんの用」
「ほんとに動じねぇ奴だな、お前」
「くどい、早く用件」
同じことを繰り返せば、すっと宮嶋が目を細めた。
それから心持ち顎を上げて偉そうにのたまう。
「倉木深葉、俺と付き合え」
……えーと?
なんだったかな、あのちょっとイラっとする返答。
あぁ、あれだ。
パードゥン?
ときめきになる、はず?