act.5 ハローお姫様抱っこ
「ぎゃっ!?」
突然に肩を叩かれ、文字通り飛び上がる。
「そんなに嬉しがらなくてもいいよ」
「嬉しがってないし心臓に悪いわ!」
振り返ればやっぱりそこにいるのは由慧。
ひらひらと佐雨が呑気に手を振る。
「いらっしゃい、旦那」
「うん、さっきはありがとう。佐雨さんのおかげで深葉の本音聞けちゃったよ」
「へ?」
目を点にすれば、意地の悪いほど綺麗な笑みで返される。
「ねぇ深葉、僕が怖いの?」
「!」
血の気が引く。怒ってる。よくわかんないけどなんか不機嫌マックス。笑顔が綺麗すぎて怖い。しどろもどろに口を開く。
「いや、それは言葉のあや的な……」
「深葉は僕のこと全然わかってないみたいだね。じゃあ、交流深めるしかないよね?」
「え?」
理解する隙もなく抱き上げられた。
え、なにこれ。
佐雨が意外そうに感嘆して見せる。
「へぇ、旦那って案外と力あんのね。お姫様抱っことかリアルで初めて見た」
「深葉限定なら出来るよ」
横抱き、つまり俗に言うお姫様抱っこ。自覚してみるみる顔に熱が集まる。今までろくに誰からも女の子扱いを受けていない私にはとんでもない破壊力だった。
なんだ、この羞恥プレイ!
「な、このっ降ろせ! 由慧!」
じたばたすれば、やっぱり返されるのは綺麗すぎる笑顔と耳障りがいいだけの声。
「深葉?」
名前を呼ばれただけなのに、ぎくりと動きが止まる。ぎこちなく目を合わせれば、
「暴れないで?」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!本音に反省してますから、その顔止めて!
由慧はそんな私に満足したみたいで、佐雨に向き直る。
「そういう訳で深葉は僕と帰るね」
「まだ、SHRあるけど?」
「じゃあ、深葉の体調不良で」
「確かに顔色悪いね。旦那ちゃんと送ってやりなよ」
佐雨、本当に質に入れて売りやがったな!
てか顔色悪いのは由慧が脅したからだよ!
キッと最後の抵抗とばかりに涙目で睨みつける。そうすれば由慧は顔を綻ばせた。
「泣いてる深葉、可愛い」
アウト!今の発言いろいろアウト!
誰が突っ込んでくれ!
しかし結局、私な抗議はひとつも叶えられないまま私は教室から運び出され、家に帰るまでお姫様抱っこされ人目を集める自分に赤面した。
お姫様抱っこって実用的じゃない、よ。