act.20 指先から解けて
教室でなければいいんでしょ、と笑った由慧に手を引かれて外に連れ出された。
しょうがないから大人しくついて行く。約束は破らない。慎ましやかに、まるで常に三歩後ろを歩く大和撫子みたいに、と自分に言い聞かせる。
佐雨みたいなサバサバした女の子ももちろん好きだが、一番理想的なのはやっぱり古き良き大和撫子だ。
だから、今日だけは私は大和撫子。
理想はいつでも頭の中にあるから、それを体現すればいいだけ。正しくはそんな女の子を愛でたいのだが、今回は仕方が無いから我慢する。
連れてこられたのは中庭のベンチ。座るように促されて、浅く腰掛ける。てっきり由慧は隣に座るものだと思ったのに目の前にしゃがみ込まれた。
「隣りに座らないのですか?」
かたりと小首を傾げる。そこにしゃがみ込まれると、否応もなく見つめ合うことになる。
じっと瞳の奥を覗き込まれるような感覚にふいに逃げたしたくなる。私の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、由慧が視線を緩めた。
「手、出して」
「こう、ですか?」
「そう」
差し出した両手を由慧は自分の手で包み込み。
その手を微かに俯いて額に当てた。そして、そのまま動きを止める。祈りを捧げるようなその動作に驚く。
てっきりいつものように私が慌てるのを楽しむつもりだと思っていたのに違うようだ。
拍子抜けした。覚悟を決めた自分がアホらしい。
足元に跪くような由慧の頭を見つめる。当てられた額は暖かい。握り込められた手は直に体温を感じる。
どきりとした。一度緩んだ緊張が今度は少し違うものとしてぶり返す。
落ち着かなくなる。これは下手に抱きしめられるより恥ずかしいかもしれない。
「深葉、」
穏やかに名前を呼ばれた。
たったそれだけなのに鼓動がひとつ早くなる。
「な、んですか?」
「深葉、」
握られた手にぎゅっと優しく力が込められて、一瞬だけ体が強張って、でもそこから解けていく。鼓動は相変わらず煩いのに、なぜか安心した。自分でもわかるくらいに表情が和らぐ。
「なんですか?」
可愛いらしい由慧の手は私より大きかった。
個人的には一応は甘いつもりです。
ラブコメのラブを投入しようと思いましたが、難しいですね……




