act.2 骨抜きにされてなにが悪い!
小さい頃の由慧はそれこそ天使だった。
「深葉ちゃん深葉ちゃん」
「あ、由慧……どうしたの!?」
ある時、公園で遊んでいた私の所にぼろぼろの由慧が駆けてきて私は驚いた。膝は擦りむけて血が滲み、宝石みたいな瞳からは溢れんばかりの涙を浮かべた由慧。
「深葉ちゃん」
ぎゅっと私にしがみついてくると、耐え切れなくなったのか由慧は泣き出した。
その頃、由慧は大人からはとても愛されていて(もちろん今もだけれど)大切にされていた。けれど、同い年の子供たちにはそれが気に食わないと虐められていた。
可愛い故、虐める。今思えば鼻で笑い飛ばせる幼稚さ。だがそこは子供社会。
瞳をうるうるさせる由慧ももちろん天使だが、ウチの子を泣かすのはどこの馬鹿だと私は片っ端から虐めた奴らに応戦した。
深葉ちゃん、と涙を見せられこんな花みたいな子に抱き着かれてほっておける奴は人間じゃない。
由慧は私が守る!という決意は固くそして素早かった。
「本当に深葉ちゃんは由慧くんのナイトさまみたいねぇ」
と当時よく言われたのを覚えている。
うん、正しい。私はこの愛すべき生き物を守るのは人間としての義務だと思ったし決めていた。
「もう絶対に由慧を虐めないって約束させたからね!」
「ありがとう、深葉ちゃん」
私が胸を張れば、涙を拭いてふわぁっと花が咲くみたいに由慧は笑ってくれた。
実際、正直に白状すれば義務というか、私一人に向けられるエンジェルスマイルに骨抜きにされていたが正しい。
そうして私は由慧を愛でながら成長したからちょっとオヤジの入った残念な女子高生になり、由慧は今だに時々女子に間違えられるほど可愛らしいままに成長した。
さすがにもう由慧を虐める人間などいない。むしろ誰もが見惚れる。だってウチの子、可愛いからね!
だから今の関係は私が由慧を可愛い可愛いと愛で、由慧がそれにまた可愛らしく膨れる――――そういう風だったのに!
「だから深葉、僕に恋しなよ」
なにこの展開、勘弁しろ!
可愛い笑顔には裏が、ある。