act.18 哀れの称号はぜひ君に
宮嶋の話を聞き終えて私は脱力した。
なんだよ、こいつ実のところ由慧のことめっちゃ好きなだけだ。道理で由慧に勝とうとするんじゃなくて、同じところに立とうとしてると思った。
フリースロー10本を由慧が決めたら、普通負かしたいなら11本入れようとするはずだ。それを同じ10本までしかやらないんだから、まだ本心では憧れているのだろう。
「しかも、自覚なしとか」
呆れやら哀れみやらで乾いた笑いが零れる。お願いだから由慧はもう少し、宮嶋をかまってあげろ。
「だから、俺はあいつが気に食わねぇっていってんだろうが! なに、別解釈してやがる! その目、やめろ!」
噛み付くような宮嶋も今は可愛いとしか言えない。弱い犬ほどよく吠える。チワワに見えて仕方が無い。
自分の心境の変化に少し驚く。男子高校生を可愛いと思える日がくるなんて思いもしなかった。
え、もちろん由慧は対象外ですが、何か?
「なら宮嶋はキレた由慧が見れたらそれでいいの?」
「まぁ、そうなるな」
「んー」
可愛い由慧が好きな私とは正反対だが、宮嶋がこれ以上なにかをやらかすと由慧がどんどん可愛いさから遠ざかる気がする。
行き着く選択肢にため息ひとつ。両手を上げる。
「わかった。協力する」
「付き合うってことか?」
「それはあくまで手段だったんだろ。ようは結果が得ることが必要なだけなら簡単。決行は明日」
まだ聞くかわからない手段だけど、やらないよりはきっとましだろう。再度、ため息が零れる。
「由慧は可愛さが専売特許だと思うけどな、私は」
ブラック降臨を見たとはいえ、私の中で由慧はまだ可愛いに分類される。幼なじみなのだ。長年の積み重ねは伊達じゃない。
宮嶋はそうか?と眉を寄せた。
「偽られたままは悔しいだろ。舐められてる気になんだよ」
「由慧の本質は可愛いだよ。ブラックぽいのは、ほら、なんて言うか、茶目っ気?」
「……茶色くねぇよ。むしろ腹まで真っ黒だろ」
宮嶋が大袈裟に顔を顰めた。それから目があってお互いに苦笑する。まさかあの時はこんな風に笑えるとは思わなかったな、と思い出す。
「壁ドン? された時はなんだコイツって思ったけど宮嶋、悪くないな。まっすぐでいい奴。宮嶋ならきっと由慧とも仲良く出来るよ。何たってうちの子は天使だかね! だから、これからもよろしく」
そう笑顔を向ければ、つと宮嶋が笑みを消した。ゆらりと瞳が揺れて、目をそらせなくなる。
宮嶋? 伺うように名を呼べば、はっと瞳を瞬く。
どうしたのかと、不安げにすれば宮嶋は少しぎこちなく笑った。
「……二号か」
「は?」
「なんでもねぇよ」
立ち上がった宮嶋を見上げると、くしゃりと髪を撫でられた。行動の意味が不可解でキョトンとすれば、笑ってデコピンされた。
「アホ面」
「な、宮嶋には言われたくない!」
「帰るぞ」
あっさりと返された踵に首を傾げる。なんとなくだけれど宮嶋がいつもと違って見えた。
少し考えて思い当たり数歩前の背中に叫ぶ。
「あ、別に由慧の件、恋愛だとは思ってないからな!」
ばっと振り返った宮嶋は凄まじい早さで私の前まで戻ってくると、私の頭をはたいた。
「いたっ」
「お前、馬鹿だろ。てかアホだろ。あと一回でもそんな寝ぼけたこと言ったら今度こそ殴るからな」
その笑顔に由慧に似たものを感じ、私は無言でこくこくと頷いた。
でも、本気で言ったわけじゃないからそんなに怒らなくてもいいだろ!
宮嶋が当初の予定より不憫になってきました。