act.17 悪に憧れるお年頃?笑
裏切りの別の名は失望だと俺は思う。
入学式に遅刻しかけて校門から入らずに裏手のフェンスを乗り越えた。それが俺があいつを見た最初。
体育館裏に人影が三つ。へらへらした二人の青年が一人の前に立ちはだかっていた。
高校初日から虐めかよ、とうんざりした。初日から遅刻しかけた俺よりタチが悪いだろ。
見て見ぬふりは目覚めが悪いから間に入ろうとした。
その一人の顔を見て、思わず二度見してしまった。男装か、あれ?
女みたいな顔立ちに男子の制服。制服を着ていなかったら女にしか見えないだろう、あれでは。
近づいてみればどうやら虐めではなく言い寄られているらしい。青年が男子生徒の腕をとる。止めに入るのが馬鹿らしくなってきて、気づかれる前に退散しようと踵を返しかければ、すっとその男子生徒は冷めた眼差しを上げた。
「いいかげんに黙れよ」
その口から出たのかと疑いたくなるような口調だった。驚いたのは二人の青年も同じようで固まる。
それでも掴まれた腕は解放されなかったようで、男子生徒はその美少女じみた顔を歪めて舌打ちした。
「おれを口説いてる暇があるなら現実見やがれ、お前らの目はまがい物か」
そこから見事な回し蹴り。呆けた青年の一人が倒れ、もう一人がそれに続く。解放された腕を汚いものを見るような目で一瞥して、男子生徒は最後に吐き捨てた。
「ただでさえ虫のいどころが悪ぃのにイライラさせてんじゃねぇよ。お前らのせいで深葉の代表挨拶に間に合わなくなるんだろうが」
言っている意味はよくわからなかったが、
「……やべぇ、まじでいかしてる」
あんな女にしか見えない顔であの喧嘩強さにあの毒吐きかげん。速攻で漢として惚れた。
絶対にお近づきになりてぇ。てか、むしろ弟子入りしてぇ。それは初めての憧れで、こんな奴と同じ高校なのかと柄にもなく高揚した。
入学して奴を探し回れば、すぐに見つかった。
ただ、
「僕に用があるの?」
奴は人当たりのいい笑顔でそうにこりと笑った。
そこにはあの時の冷めた目も、キレもなくて、思わず別人かと目を疑った。
それでもあれは表の顔でいつかは、と納得もしかけたが片鱗さえ見えないまま時は過ぎ、やがて爆発した。
へらへらした奴などそれこそまがい物だ。本性を引きずり出そうと喧嘩を売れば笑顔でかわされた。
そして憧れは次第に苛立ちに変わった。
あんな奴に憧れていた自分が馬鹿みたいだ。
もう憧れない。俺が奴ぐらいやれるようになればいいんだろうが!
奴が何かをするたびに引き合いに出た。
そこに奴が片鱗を見せ始めた、と言う噂を聞いた。
どうやら女絡みらしいが、もしその女を俺が落とせば奴は今度こそ本性をまた表すのではないか。
実際、その考えは正しかった。まだ完璧ではないが笑顔の壁さえ崩せばあとは上手くいきそうだ。
そこまで話せばその女、倉木深葉は呆れたように口を開いた。
「……宮嶋、実はお前、由慧のことすごく好きだろ」
はぁ!? お前、俺の話ちゃんと聞いてたのかよ!?
好きの反対が無関心なら、意識しまくりって大好きってことですよね。