act.12 修羅場的な茶番劇
「やぁ、旦那。いらっしゃい」
固まる私の代わりに爽やかに佐雨が手を振る。
「……佐雨さん、嵌めたね?」
「嵌めた? 人聞き悪いねぇ。アタシはただ旦那にアドバイスしただけだよ。押してダメなら引いてみろって。あと、面白そうだからついでに宮嶋のことは箝口令もひいたけど。でも、それにしても引く期間短かったねぇ」
「……」
「まさか旦那、アタシが悪いって言う?」
しゃあしゃあと笑って言ってのけた佐雨、最強。私は怖くて後ろが振り返れません。
てか、やっぱり佐雨のせいだったのか!?
と、がたん、と宮嶋が椅子を倒して立ち上がった。
「ここで会ったが100年目! 由慧、今度こそ本気出しやがれ!」
「うん? とりあえず宮嶋くん、黙って」
背後の黒いオーラが増して、私は泣きたくなる。
絶対に完璧に怒ってる。何に怒ってるかちょっとよくわからないけど怒っていらっしゃる。
だって、笑いかけられたのに宮嶋の顔青いし。佐雨が笑いを堪えてるのは対象外!
「ねぇ、深葉?」
柔らかな声で名を呼ばれる。振り返ってしまうのは昔からの習慣に近い。可愛らしい由慧がにこりと笑う。あぁ今日も美少女めいてて可愛い、と見惚れるのもつかの間。
「もしかしなくても浮気?」
「違うっ! てか、私たち付き合ってないだろ!」
え、いつ手続きしました!? してないよね?
その時、ぐいっと後ろに引かれた。短い悲鳴を飲み込めば、背中から受け止められる。
驚きと混乱で思わず声が上ずる。
「な、なんだよ! 宮嶋」
「こいつと付き合うのは俺だ」
宮嶋がそう言って由慧をキッと睨んだ。
うわあああぁっ! いきなり何を宣ってんの! 馬鹿なの? この子、馬鹿なの!? なんで火に油注ぐの!
私が内心で叫びまくっているのも知らず、宮嶋がこれ見よがしに由慧の前で私を後ろから抱きしめた。意思と関係なくわっと顔が赤くなる。
対する由慧は数秒固まってから、私に向けにこりと笑った。どうにか丸く収めようと、その笑みに私はぎこちなくへらりと笑みを返す。
それから由慧は恐ろしいくらい穏やかで綺麗な笑顔を宮嶋に向けた。
「深葉に手を出すとか地獄見たいの? 宮嶋くん」
そうなるよね! もう、こっちが泣きたいわ!
でも、クラスメイトの昼ドラ見てるみたいな目がそろそろ痛いから休戦しようよ!
どうやら作中最強は佐雨さんらしい。