act.11 頭の温かい子? 頭の弱い子?
「倉木深葉、付き合え」
「宮嶋、ここ間違ってる」
「え、まじで?」
「まじで。ここの公式違う」
ノートを指させば、宮嶋は難しげな顔でわしゃわしゃと頭をかいた。そして再び計算式に向き合う。私はそんな彼を見て小さくため息をついた。
さて、どうして私が宮嶋に勉強なんか教える羽目になっているか。
飽きるぐらいの馬鹿みたいな口説き文句に対応するのが面倒で、いま勉強してますアピールでかわそうとしたのが誤りだ。いや、そもそも宮嶋には初めから勉強の邪魔になっている意識なんかなかったが。
「お前、なんでこんなん解けんだよ?」
馬鹿みたいな「付き合え」コールが途切れたかと思えば、降ってきたのはそんな台詞で、
「なんでって今度のテスト範囲の基礎の基礎だけど」
そう眉をひそめてから、ある可能性に気がついてノートを一箇所を指差す。
「これ答えわかる?」
「は? ……3、いや6だろ」
「……これ答え、√だけど」
それからいくつかそのやり取りを繰り返しているうちに、立場が入れ替わった。私の説明にまるで初耳同然と頷く宮嶋。
私はちょっと遠い目になった。
あ、この子ちょっと頭弱い子だぁ。
それからは口説かれつつ勉強を教えつつというこのカオスな状況が成り立った。
「深葉は面倒見いいねぇ」
微かに笑いを含んだ佐雨の物言いに肩をすくめる。
「流されるほうが楽なだけ」
「なら、俺の誘いにも流されろよ」
不服げに口を挟む宮嶋に冷たい一瞥をやる。
「頭弱い野郎は発言権ないから」
「は? 俺が弱いわけないだろうが」
……どうしようこの子、アホの子だよ。佐雨に目をやれば心底楽しそうににっこりしている。
思わずため息が零れる。これ、由慧に見られたらどうなることやら。でも、そういえば最近は由慧が来ない。そもそも由慧が来ていたら宮嶋とこんなに戯れていられるわけがない。
どうしてだろうか、と首を捻れば、
「随分と楽しそうだね?」
背後から穏やかな声が黒く笑った。
さて、お決まりのパターン?